《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》24、フレイア様のお茶會

クリスティナと別れた後、イリルは宮廷の執務室で、ブライアンから報告書を差し出された。

け取りながら、イリルは言う。

「婚約者との語らいを邪魔をしてまで、伝えるからには、よっぽどいい知らせなんだろうな?」

「殘念ながらその反対です」

「だろうな」

ため息をつくのと、ブライアンが話し出すのは同時だった。

「王領の中で不審な事故死が続いていないか調べていた件ですが」

「どうだった」

「ブリビートの村ほどではないにしても、國境に近いところほど、事故死が多く報告されてます」

「なんだと」

「ブリビートの村同様、事故は事故のようなので、誰も関連付けて調べてなかったようです。私たちもあの老婆の話を聞いていなければ、見過ごしていたでしょう」

眉間に皺を寄せて報告書を読んでいたイリルは、ブライアンに問いかける。

「ここにある村、ファリガ、アンロー、クロウ……國境に近いということは、その墓地も國境に近いな?」

「そうですね、どうしても中心から離れた場所に作るでしょうから」

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イリルはリュドミーヤの言葉を思い返した。

「土壁が、小さなひびから崩れるように、我々の隙を突いて『魔』がはびこる……あの老婆は確か、そう言ってたな」

「はい」

「『魔』がどんなものか私にはわからないが、隙を突いてはびころうとするなら、やはりりやすいところから來るだろう」

「それが墓地というわけですか?」

拠はない。だが私には、國境という、ある意味境目から何かがってこようとしているように思える」

「じゃあ、王領以外にも起こっているかもしれませんね」

「だろうな。王に報告して祭祀の頻度を上げてもらおう」

ブライアンは目を丸くしてイリルを見た。

「なんだ、その顔は」

「いえ、珍しいですね、イリル様がそんなことを言うの。儀式など面倒くさがる方なのに」

「私が嫌いなのは心のこもっていない儀式だ。これは違う」

「そういうものですか」

報告書に再び目を通し始めたイリルは、苦々しく呟いた。

「……しかし、もはや遅いのか」

何かがってきたからこそ、こんな現象が起きているのかもしれない。

イリルは報告書を睨むように読み返した。

「クリスティナ、あなた、ドゥリスコル伯爵にお會いしたんですって?」

フレイア様が、突然私にそう尋ねた。

晝下がり、フレイア様のお部屋で一緒に刺繍を刺していたときのことだ。

私は頷く。

「帝國からいらっしゃった方ですよね? はい、この間偶然、お會いしました」

「どんな方だった?」

「あまり深い話をしてないので、よくわかりませんが……ギャラハー伯爵夫人ととても親しそうでした」

「ああ、やっぱりそうなのね。今度のお茶會にギャラハー伯爵夫人をお呼びしようと思っているんだけど、その伯爵も一緒でいいかと聞かれてちょっと驚いたのよ」

フレイア様は定期的にお茶會を開く。

それ自はよくあることなのだが、男も呼ぶのはし珍しい。

「どうされるのですか?」

「まあ、お呼びするしかないでしょうね」

「そうなると、ドゥリスコル伯爵だけというわけにも行きませんね。人數を増やしますか?」

「そうね。いっそ、広々と庭園でしようかと思うの。手伝ってもらえる?」

「もちろんです」

「參加もしてくれる?」

「もちろんですよ?」

フレイア様が不思議そうな顔をするので、こちらも聞き返した。

「どうしたのですか?」

「だって、クリスティナ、そういうの苦手だったじゃない。そんなにサラッと応じてもらえるなんて、別の人みたい」

あ、そうか。

そういえば、デビュタントしてしばらくは社が苦手だった。

段々と場數を踏んで慣れていったことを忘れていた。

——まあ、でも別に今さら不慣れな真似なんてしなくていいわよね。

「フレイア様のところにお世話になると決めたんですもの。それくらいこなしてみせますわ」

「頼もしいわ」

フレイア様は本當に嬉しそうに笑ってくださった。

そしてお茶會當日。

「ルシーン、私これで大丈夫かしら」

「ええ。お綺麗です」

フレイア様に作っていただいた新しいドレスに著替えた私は、何度も自分を鏡に映した。

これも新しいデザインなので、きっとご婦人たちの興味を引くに違いない。著こなせているかどうかは大事だ。

なんとか自分に及第點を出せて、で下ろした。

そして呟く。

なりが整っていると、何だか無敵な気がするわ」

ルシーンが意外そうな顔をする。最近私の周りの人は、よくこの顔をするのだが。

「どうしたの?」

「いえ、クリスティナ様は、今まであまり著飾ることに興味を持ちませんでしたので」

「ああ、そうだったわね」

父から離れたことも大きいのだろう。

父はよく出かける直前などに、そのドレスはダメだ著替えてこい、と理由も言わずに反対することがあった。

だから、昔の私は自分の好みを後回しにして、とにかく怒られないような無難な格好をしていたものだ。

「お灑落って楽しいのね。やっとわかったわ」

「よかったですわ」

ルシーンがどこか極まったように微笑んでくれた。

そんな楽しい気持ちで參加したお茶會は、いつも以上にのびのびと過ごせた。苦手だった社もそつなくこなし、和やかな時間を過ごせた。

お茶もお菓子もたくさんいただいた後は、それぞれ皆様、庭園などを自由に散策された。なんとなく人のきを見守っていると、

「クリスティナ、そのドレス、やっぱり似合っているわ」

主催者として忙しいだろうに、フレイア様がそっと寄ってきてくださった。

「ありがとうございます。フレイア様もとても素敵です」

フレイア様ももちろん、マレードが仕立てた新しいドレスだ。帝國の流行を取りれたそれは、このお茶會をきっかけに、この國でも発的に流行するに違いない。

「いい天気で良かったですね」

「そうね、助かったわ」

澄んだ青空が広がっていた。じゃあまた、とフレイア様はまた別の人のところに行ってしまう。

ギャラハー伯爵夫人は、ドゥリスコル伯爵とずっと一緒だった。最初に簡単な挨拶だけわしたが、それ以後は特にお話していない。

時間的にもそろそろ解散かしら、と私はこの後の手筈を思い返す。

——馬車の手配が出來てるかもう一度確認したほうがいいかしら?

き出そうとしたら、

「クリスティナ様」

背後から懐かしい聲がした。

「まあ、リザ様」

振り返ると、四大公爵家のひとつオコンネル公爵家のリザ様がそこにいた。

「お顔を拝見するのは久しぶりですね」

思わずそう言うと、怪訝な顔をされた。

「何言ってるの? この間、デビュタントで會ったばかりでしょう」

あ、そうだった。

咄嗟に誤魔化す。

「それくらい私には、リザ様にお會いできない時間が長くじられたということですわ」

「あら、そう?」

苦しい言い訳かと思ったが、リザ様はまんざらでもなさそうだ。

しかし、それだけでは終わらないのがリザ様だ。

扇で口元を隠していてもわかるくらい、意地悪な笑みを浮かべて言った。

「そんな想をおっしゃるなんて珍しい。やっぱりあの噂は本當なのね」

「噂? なんのことですか」

とぼけているわけでもなく、本當に心當たりがないので聞き返すと、

「今、あなた、公爵家での居場所がなくなって、フレイア様のところにいらっしゃるとか」

そうおっしゃった。

私はあっさり頷いた。

「まあそうですね」

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