《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》51、何かがおかしい
「カロリーヌ様がご無事なのはとても喜ばしいことですが、フレイア様、何かがおかしくないですか?」
「クリスティナもそう思う?」
はい、と私は頷いた。
「正直に申し上げますと、リザ様からブレスレットに特別な効用があったと聞いたときはちょっと嬉しかったんです。リザ様をお守りすることができましたし。最初にご説明したように、ロザリオにも使われるビーズですから、そういうこともあるかもしれません。でも」
私は自分が付けているブレスレットに視線を落とした。薄い紫。シェイマスやミュリエルとお揃いだ。
これに何か特別な力があるなんて、まだ信じられない。でも、もしあるとするなら。
「その効用がそんなに発揮される事態が続く——そのことが心配です」
フレイア様も同じことを考えていたようで、小さく頷いた。
何かが起こっている。でも何が?
もしかして、気づかなかったけど前回も起こっていたのかしら? だからミュリエルはあんなことを? でも何が? わからない。
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フレイア様はゆっくりとおっしゃった。
「ブレスレットのを見たのはカロリーヌ様だけだったんですって。それもリザ様と同じよ」
私は驚いた。そのことは厳重に口止めしていたので、カロリーヌ様がリザ様の真似をしたとは思えない。
フレイア様は顔を上げた。
「こうなると呑気に売り上げがいいとか悪いとか言ってられないわね。クリスティナの言う通り何かが起こっているのよ……王妃様にご相談しましょう」
「王妃様に?」
「一度きちんと狀況を説明しておいた方がいいわ」
確かに、と私は頷いた。今はまだこの程度で済んでいる。でも、放っておけば、ブレスレットなんかじゃ防げない何かが起こるかもしれない。
騒ぎをじた。
‡
翌日。
フレイア様の計らいで、王妃のルイザ様のお部屋にお邪魔した。手れされたブロンドの長い髪をぴったりとまとめたルイザ様は、ときに冷たい印象を與えるほどテキパキとしたお方だ。
午後のお茶を飲みながら、私とフレイア様が一部始終を説明すると、ルイザ様は張りのある聲でおっしゃった。
「クリスティナのブレスレットにそんな効果が?」
フレイア様が答える。
「ええ。二件ともなると偶然や思い違いではないかと思いましたの」
「確認するけど、その二つが特別なブレスレットというわけではないのね?」
私は頷く。
「はい。どれも同じビーズから作りました。作り方も他のと同じです」
「あなたは無事なの? クリスティナ」
「え? 私ですか?」
意外に思って聞き返すと、ルイザ様は眉間に皺を寄せて私を見つめた。
「ブレスレットに不思議な効果が出た上に、原因不明なんでしょう? 作り手であるクリスティナに、変わったことが起こったりしていないの?」
心配してくださっているのだ。私は笑顔で答えた。
「ありがとうございます。私の方は何も変わりはありません」
「それならまだいいわ」
実はとてもが深いルイザ様は、間違いなくこのカハル王國を側から支えるお一人だ。私もフレイア様も、ルイザ様を目標にして厳しい王子妃教育を乗り越えたところがある。
「実はね」
ルイザ様は目を細めて、優雅に茶を下ろした。
「まだ公表していないけれど、各地で不穏な出來事が起こっているの。イリルがあちこち駆け回っているのも、その関係よ」
ただの視察にしては戻ってくるのが遅いと思っていたらそんなことが。フレイア様も初耳だったのだろう。驚いた顔で、私と目を合わせた。
「何が起こっているのですか?」
思わず聞くと、ルイザ様は首を振る。
「それはまだわからない。でも確かに、何かがおかしい」
ルイザ様は私を真っ直ぐに見つめた。
「これは私の直だけど、クリスティナ、あなたのブレスレットはそれを防いでくれている気がするの。無理させるのでなければ、し多めに作ってくださらない」
「わかりました。お役に立てるなら栄です」
「私も手伝うわ、クリスティナ。職人を早く探すようにする」
「ありがとうございます、フレイア様」
ふと顔を上げると、私とフレイア様のやりとりをルイザ様は微笑みながらご覧になっていた。そして慨深けにおっしゃった。
「本當にアルバニーナによく似てきたわ」
「そうですか?」
「ええ。その角度なんてそっくり」
ルイザ様は母と舊知の仲だった。その縁もあって私とイリルは婚約したと聞いている。表向きは母の実家が後押ししたことになっているが、病弱だった母が自分がいなくなった後の私を守るためにルイザ様を通して結んでくれたのだ。
「あなたたちを見ていると、私とアルバニーナの若い頃を思い出すわ」
私とフレイア様は照れたように顔を見合わせた。とても嬉しかった。
「もっとも、アルバニーナほどお人好しじゃなくていいと思うわ。あの子は面倒見が良すぎた」
「そうなんですか?」
「寄りのないエヴァのことをアルバニーナはとても可がっていたのよ」
ミュリエルの母のことだ。
「あなたが生まれるとき、エヴァはアルバニーナのの回りの世話を一手に引きけていて、出産にも立ち會ったの。それくらいエヴァのことを信頼していたのね……オフラハーティ公爵もむごいことをするわ」
「本當ですわ」
フレイア様がまったく同だという調子で答えた。私も深く頷いた。
ふと私は、気になっていたことを口にした。
「あの、ルイザ様、サーシャ・マクゴナー子爵令嬢とブリギッタ・ドムス子爵夫人のことはご存知ですか?」
「どちらも、あまり社界に出てこない目立たない方たちよ。どうかした?」
「ミュリエルの家庭教師と侍になってくださったんですが、その……今までお付き合いがなかったものですから、どうしてかと思って」
「そうね、どちらも困窮していると聞いたことはないけれど、なにか働きたい事があったのかしら。誰の紹介?」
「ギャラハー伯爵夫人です」
ルイザ様は片方の眉をピクリとかした。
「ギャラハー伯爵夫人、最近、様子がおかしいと聞いているわ。隨分痩せたようで、どこかお悪いんじゃないかという噂よ」
「病気でしょうか?」
私が聞くと、まさか、と目を細めた。
「あの帝國から來た伯爵とずっとべったりらしいの。さすがのギャラハー伯爵もそろそろなんとかしなくてはと思っているようよ」
ドゥリスコル伯爵のまとわりつくような視線を思い出した私は背筋に寒気を一瞬じた。
「ではドゥリスコル伯爵もそろそろ帝國に戻られるのかしら」
「そうだと思うわ」
フレイア様とルイザ様のそんな會話を聞くだけで、気持ち悪さがよみがえった。
——私ったらあの人のことが本當に苦手なのね。
小さく息を吐いた。
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