《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》54、グラスを再び満たす
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「初めまして。アラナン・ドゥリスコルです」
禮儀正しく自己紹介するドゥリスコル伯爵に、オーウィンは満足そうに挨拶を返した。
「オーウィン・ティアニー・オフラハーティです。ギャラハー伯爵夫人から噂はかねがね」
「まあ、公爵ったら。私そんなにお喋りかしら」
「おや、気づいてなかった? 彼に関してはとてもお喋りですよ」
「嫌だわ」
ギャラハー伯爵夫人が照れたように扇で口元を隠し、それを見たドゥリスコル伯爵とオーウィンは長年の知己のように笑い合った。晝下がりのオフラハーティ公爵家は、和やかな雰囲気で満たされていた。
「そしてそちらがお嬢様ですね」
ドゥリスコル伯爵は嬉しそうに、オーウィンの背後に隠れるように立っていたミュリエルを見つめた。
「はい、末娘のミュリエルです。ご挨拶なさい」
促されたミュリエルはスカートの裾を摘んでお辭儀をした。
「ミュリエル・オフラハーティです」
「……これはらしい」
ドゥリスコル伯爵が赤い瞳でミュリエルをじいっと見つめる。思わず眉をひそめたミュリエルを、オーウィンがすかさず叱った。
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「なんて顔をしているんだ。お客様の前で」
仕草やマナーはなんとかについてきたミュリエルだが、はまだまだコントロールできない。
「申し訳ありません」
それでもすぐに取り繕うことは覚えた。サーシャとブリギッタがそうしていれば大抵の人は許してくれると教えたからだ。
「いえ、構いませんよ。子供らしいのはいいことです。それより」
案の定、目の前のドゥリスコル伯爵とやらも笑顔で言った。
「その手首のそれはどこで?」
伯爵は、ミュリエルの左手首の袖からチラリと見えたブレスレットに目を止めたようだ。
「そういえば見慣れないな? どうしたんだ、ミュリエル」
「クリスティナお姉様が以前お土産にくださいました」
一度は捨てようかと思ったブレスレットだったが、メイドのマリーが今これと同じが流行していると言ったのを聞いて、はだと割り切ることにしたのだ。
「お姉様の手作りで、シェイマスお兄様とクリスティナお姉様と、三人お揃いですの」
「やっぱりそうか」
「え?」
噛み合っていない會話に顔を上げれば、ドゥリスコル伯爵は赤い瞳を細め、嬉しそうに口角を上げた。
「お兄様もそれと同じのをつけていらっしゃると?」
「え、はい」
「それは愉快ですね」
ミュリエルがどう答えていいかわからず困っていると、
「お食事の用意ができております。皆様、どうぞこちらへ」
さっと現れたトーマスが間に立ってそう告げた。
「隨分と勘の強そうな執事ですね」
食堂に移しながら、ドゥリスコル伯爵がオーウィンに囁いた。
「トーマスですか? いやいや、愚鈍でね。困ったもんですよ」
謙遜ではなさそうなオーウィンに、ドゥリスコル伯爵は呟いた。
「……公爵がこの國にいてくださって本當によかった」
「おや? 褒めても何も出ませんよ?」
「私は本気ですよ、ねえ? ケイトリン」
「ええ。いつも公爵様のことをアラナンは褒め稱えていますわ」
「まいったな。晝間からワインを開けたい気分だ」
満更でもなさそうなオーウィンに、ドゥリスコル伯爵は頷く。
「無理を言って連れてきていただいた甲斐がありました」
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食事が終わると、大人たちだけでサロンに移した。トーマスが止めるのも聞かず、何本ものワインが開けられる。
「公爵、いや、オーウィンと呼んでも?」
「もちろん。私もアラナンと呼ばせてください」
トーマスが下がったのを確認してから、ドゥリスコル伯爵は切り出した。
「ときにオーウィン、ケイトリンから聞きました。ご子息が好き放題して困っていらっしゃるとか」
ああ、とオーウィンは悲しそうに目を伏せた。
「お恥ずかしい。私の不徳の致すところですよ。男手で一生懸命育ててきたつもりが、やはり手落ちがあったらしい」
「オーウィンのせいではありませんよ」
「そうですか?」
「だってミュリエル様はあんなに可憐で素晴らしいじゃないですか」
「ええ、あの子だけはなんとかしてやりたいと思ってね」
オーウィンの中で、あっという間にミュリエルを苦労して育てた語が出來上がった。グラスの中のワインがオーウィンをめるように揺れた。
「それに比べて、と言いますか……実は先日、宮廷でお宅のお嬢様にお會いしました。クリスティナ様とおっしゃいましたか」
ワインを飲み干しながらオーウィンは聞く。
「ああ、クリスティナ。元気でしたかーー」
「ひどく高慢なお嬢様ですね」
「え?」
オーウィンは驚いた。クリスティナのことをそんなふうに言われるのは初めてだったのだ。
「しだけお話したのですが、周りを見下すような態度が鼻につきました」
「そんなはずは」
オーウィンの揺をじ取った伯爵は、さらに畳み掛ける。
「オーウィンの前ではそうではないのですね?」
「ええ。大人しい娘です」
「となると……」
伯爵はじっとオーウィンを見つめた。赤い瞳が炎のように輝いた。
「父親から離れたのが良くなかったのではないでしょうか。連れ戻してはどうですか?」
「連れ戻す? ここに?」
伯爵はあっさりと頷く。
「ええ。しっかり再教育するのです」
「しかし宮廷がなんと言うか」
クリスティナと仲のいい王太子妃が反対するに違いない。ドゥリスコル伯爵は、オーウィンを安心させるように微笑んだ。
「宮廷がうるさく言うのは、第二王子様と婚約されているからですよね」
「そうですが」
「だったら簡単です」
ドゥリスコル伯爵は、自ら手をばしてワインのボトルを持った。そのままオーウィンのグラスを再び満たす。
「いっそ婚約解消してはどうですか? もっと地位の低い貴族と婚約させて、あの高慢な鼻をへし折ってやるんですよ、おっと、これは大事なお嬢様のことを……失禮しました」
「いや……大変興味深い話です」
伯爵はボトルを置いた。
「オーウィン、私は貴方が心配なのです。この國の寶とも言えるあなたが上のお嬢様に振り回されて消耗するんじゃないかと」
確かに、とオーウィンは芝居がかった仕草で頷いた。クリスティナのわがままに振り回されてばかりだ。
「……しかし婚約解消はできません。王妃様と亡くなった妻の実家から絶対にと決められているのです」
「だが重視されているのは家と家の結びつきですよね?」
「もちろんそうです」
伯爵はオーウィンの目を覗き込んだ。
「じゃあ、簡単です。もっと素晴らしい娘さんがいるじゃないですか。そちらと第二王子様を婚約させたらいい。そして高慢な娘さんは教育し直すのです」
「でもなんの瑕疵もないクリスティナとの婚約を解消……」
「オーウィン。できるできないじゃない、するんだ」
「……する」
「そうだ」
「そうですね」
「よし、決まりだ、これはお祝いですね」
ドゥリスコル伯爵は満足そうにグラスを掲げた。オーウィンはゆっくりとその仕草を真似る。
「婚約解消おめでとうございます」
ギャラハー伯爵夫人がそう言って微笑んだ。
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數日後。オーウィンの元に、次の賢人會議に出席するようにお達しが出た。
「謹慎が解けた……あの人の言う通りだ」
シェイマスからも卒業式なので戻ると連絡が來た。オーウィンは満足そうに二つの知らせをけ取った。
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「世界最初の超知能マシンが、人類最後の発明品になるだろう。ただしそのマシンは従順で、自らの制御方法を我々に教えてくれるものでなければならない」アーヴィング・J・グッド(1965年) 日本有數のとある大企業に、人工知能(AI)システムを開発する研究所があった。 ここの研究員たちには、ある重要な任務が課せられていた。 それは「人類を凌駕する汎用人工知能(AGI)を作る」こと。 進化したAIは人類にとって救世主となるのか、破壊神となるのか。 その答えは、まだ誰にもわからない。 ※本作品はアイザック・アシモフによる「ロボット工學ハンドブック」第56版『われはロボット(I, Robot )』內の、「人間への安全性、命令への服従、自己防衛」を目的とする3つの原則「ロボット工學三原則」を引用しています。 ※『暗殺一家のギフテッド』スピンオフ作品です。単體でも読めますが、ラストが物足りないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。 本作品のあとの世界を描いたものが本編です。ローファンタジージャンルで、SFに加え、魔法世界が出てきます。 ※この作品は、ノベプラにもほとんど同じ內容で投稿しています。
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