《【8/10書籍2巻発売】淑の鑑やめました。時を逆行した公爵令嬢は、わがままな妹に振り回されないよう格悪く生き延びます!》66、もらったものが盾となり

素手で剣をけ止めた伯爵の右手からは、が滴り落ちていた。もうしで隻腕になりそうなほどの深い傷に見えるのに、ドゥリスコル伯爵は嬉しそうに笑う。伯爵は、黒い霧のきを止めるように、一度頷いてから両手を広げた。

「私は左でも戦えますよ?」

痛みすらじていないその様子に、イリルの表が険しくなる。伯爵は左手に剣を持つ。

「試してみましょうか?」

その聲に、私の中の伯爵への嫌悪が急激に膨らんだ。

——気持ち悪い!

本能的なそのに、私は思わず守り石を取り出した。握りしめて、ハッとする。

自分の中の衝に気付いたのだ。

なぜそうするのかは、わからない。だけど確信がある。私は守り石と共に黒い霧に向かって走った。

「クリスティナ?!」

イリルの驚いた聲がする。大丈夫。きっと大丈夫だから。

「ダメだ!」

イリルはぶが私は聞かない。イリルが取り込まれるよりは、私が黒い霧に飛び込む方が勝算があるのだ。なぜなら、この強い嫌悪。さっきから、伯爵を見るだけで沸き上がる強烈な嫌悪。それが私を導くから。

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絶対に滅しなければならない。そう思うと力が漲る。そのための行が不思議とわかる。

黒い霧がまるで勝負を挑むように、塊になって私に襲いかかってきた。私は顔を上げ、守り石を目の高さに掲げた。

けれど、予想外にも、守り石は私の手から離れて、イリルに向かって飛んでいった。

「え?」

守り石はイリルの頭上で止まり、黒い煙のようなものを一気に噴き出した。ドゥリスコル伯爵が信じられないというように眉を上げた。黒いものを吐き出した守り石は濃い紫になって、側から発し始める。

「すごい……」

——もしかして、あれが本來のなの?

共鳴するように、イリルの左手首のブレスレットもり始めた。そのに溶かされるように、黒い霧が、端からどんどん消滅していく。

「……生意気な」

ドゥリスコル伯爵が初めて苛立った聲を出した。イリルが聲を張る。

「ティナ! 今だ逃げろ!」

その言葉に頷き、今度こそ私は修道院に向かって走り出した。

背後から剣と剣がれ合う金屬音がする。でも、振り向かない。あれはイリルが私を守ろうとしてくれている音だ。

だから私も私がするべきことをする。今度は修道院だ。早く、早く、早く、修道院に。

途中何度か転びそうになりながら、私はペルラの修道院に向かった。

あとし。大丈夫。思い出した。

ドゥリスコル伯爵と戦いながら、イリルは以前リュドミーヤに言われたことを思い出していた。

クリスティナが「聖なる者」だと確信したとき、イリルは、私に彼が守れるのかと聞いたのだ。リュドミーヤはこう答えた。

——その者からもらったものが盾となり、與えたいと思うものが剣になるでしょう。

あのときのイリルはそれを象的に解釈した。もらったが盾となり、與えたい気持ちが剣になるということか、と思ったのだ。リュドミーヤも否定しなかった。

だが、こういうことなのだ、と思う。

「……くそ!」

イリルが剣を突くたびに、ドゥリスコル伯爵に確実に打撃を與えた。対するドゥリスコル伯爵の攻撃はかわすことができる。

ブレスレットが盾となり、守り石が攻撃に力を貸してくれている。そんな気がするのだ。

守り石はイリルの頭上で、役目を果たすようにっている。

ペルラの修道院にたどり著いた私は、り口で座り込みながら懇願した。

「すみ……ません……すみま……せん……」

「あなたどうしたの?!」

「あの……お願い……があ……ます」

呼吸を整える間も惜しみ、私は迎えてくれた修道に切れ切れに喋り続ける。修道は私を抱き抱えるようにして言った。

「わかったから、先に落ち著いて。誰かお水持ってきて!」

ああ、この人、初めて會うけど覚えている。

「どうしたの? 誰?」

この人も。

よかった、きっと大丈夫だ。

私は初対面でありながら久しぶりの修道たちに懇願する。

「王笏……を見せてください……」

修道たちは顔を見合わせる。

無理もない。この修道院に保管されている、シーラ様の王笏は、その存在を公にしていない。なぜ知っているのかというところだろう。

でも私は「前回」それを見ている。そして思い出した。先端に使われている寶珠の深い紫しさを。

さっきの守り石と同じだった。

ーーきっとそれが必要なのだ。

「魔」を倒すために。

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