《【書籍化+コミカライズ】悪ですが、する旦那さまのお役に立ちたいです。(とはいえ、嫌われているのですが)※完結済み》8 旦那さまが夜も格好良いです!

好きな人の名前という大収穫を得たのち、老人と別れたシャーロットは、日暮れまで屋敷の中を歩いて回った。

メイドたちを怖がらせないよう、人の気配を察知したら、廊下のにそっとを潛める。そのおで、夜になるまで誰にも見つからず、あらかたの探検を終えることが出來た。

に満ち満ちた気持ちで部屋に戻ると、部屋の前には食事の乗った配膳臺が置かれている。

晝時にも同じようになっていて、それを有り難くいただいたのだ。なにかの魔が使われているのか、食事は時間が経っていても溫かく、とても味しい。

ひとりぼっちの食卓だが、シャーロットは味しく平らげた。

(作ってくださった料理人さんと、怖いのに部屋の前まで運んでくださったメイドさんたちに、どうにかお禮が伝わるといいのですけれど……)

そう思いながら、お禮を書いた小さな紙を見下ろした。

ペンとインクは、この部屋の機から見つけ出したものだ。自由にして良さそうな紙は無かったため、ペーパーナプキンを丁寧に手で切り、それにメッセージをしたためた。

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手紙を添えた配膳臺を廊下に出し、部屋に戻る。午前中の探索時、裝部屋のほかに浴室があったことを思い出して覗き込むと、なんとバスタブにはお湯が用意されていた。

有り難く浴を終え、ナイトドレスに著替えたシャーロットは、ほかほかしながら長椅子に腰かけた。

そして、日記帳の一ページ目を開いたあと、ペーパーナプキンの使わなかった部分に書いた文字を眺める。

(これはやっぱり、私の字のようです)

日記帳に書かれた『敵』という文字と、ペーパーナプキンに書いてみた文字を見比べた。

(挾まれていたのは、オズヴァルトさまの肖像畫。その下にメッセージということは、オズヴァルトさまが『敵』なのでしょうか? でも、誰にとっての……普通に考えれば、記憶を失う前の私にとって、神力を封じることの出來るオズヴァルトさまの存在が『敵』だったということですよね)

シャーロットは、ぎゅっと眉を寄せて手帳を睨んだ。

(以前の私とは、あまり気が合わないかもしれません。だって、どうしてこのしい肖像畫を前にして、そんな言葉しか浮かばなかったのでしょう!)

オズヴァルトに出會ったのはいつか、そのときの彼はどんな服裝で、どんな表をしていたのか。そういったことが書き留められていてもいいはずなのに、『敵』の一言しか書かれていないのだ。

(もっとこう、有益な……オズヴァルトさまに関する報などが、あってもいいはずなのですが)

日記帳を振ってみても、なんの変化も起こりそうにない。

二ページ目以降に何かあるかもしれないが、やっぱり普通には開かなかった。

(開けない方が良いのかもしれません。神力が発すると、またオズヴァルトさまが駆け付けてしまいます)

彼には何度でも會いたいが、迷を掛けたくはない。

(ご足労をお掛けする訳には參りません。なにしろ私は、『あの方に憎まれている妻』なのですから……)

シャーロットは、沈痛な面持ちで日記帳を見下ろした。

「…………」

そして、周囲を見回す。

誰もいないことを確かめ、オズヴァルトの小さな肖像畫を手に取ると、それをきゅっとに抱き締めた。

(……ううううう。い、生きる力……!!)

オズヴァルトは肖像畫であろうともしい。もちろん、本の素晴らしさには敵わないが、シャーロットはたちまち元気になった。

(憎まれていても、妻! 嫌われていて二度と會えないかもしれませんが、私はなんとなんと、あの方の妻なのです!)

座っていた長椅子から立ち上がり、ぐっと拳を握り締める。

(その事実だけで、側から健やかさ発。粛々とお役に立って參りましょう!)

他には何もいらない。

そんなことを思いつつも、肖像畫自はいそいそと日記帳に挾んでおく。

(他には何もいりませんが、得られるものは得ておきませんとね……! これは私の私、記憶を失う前の私……!)

それに、得たものはもうひとつある。

「……オズヴァルト・ラルフ・ラングハイムさま」

ぽつりと彼の名を呟くだけで、の奧底から暖かくなった。

(しかもおじいさんったら、オズヴァルトさまが公爵閣下であることも教えて下さいました! お名前だけでなく、こんなにたくさんのことを教わってしまってよかったのでしょうか……。うう、嬉しい……)

喜びをしみじみ噛み締める。

ノックの音が響いたのは、そのときだ。

「――シャーロット」

「ほわああああ!?」

信じられない人の聲がして、シャーロットは聲を上げた。

「悲鳴? ……おい、開けるぞ!」

「おっ……お、おず、オズ……っ」

目の前に現れた人の姿に、思わずへなへなと崩れ落ちる。

「オズヴァルトさまが格好良い…………っ!!」

「………………」

扉の前には、肖像畫より何百倍もしいオズヴァルトが、戸いの表を浮かべて立っていた。

「……一応聞いておくが」

その目は、完全に得の知れないものを見るまなざしだ。

「先ほど悲鳴を上げたのは、なんらかの急事態が起きたのか?」

「もうっ、それはもう、非常事態の急事態です!! 夜にお見掛けするオズヴァルトさま、朝日の中のお姿とはまた趣きが違って素晴らしく……!! あああっ、瞬きせずに眺めていたい気持ちと、直視するにも心臓がもたないという危機が、どきどきの二律背反……!!」

「分かった。調が悪い訳ではなさそうだな」

オズヴァルトが後ろ手に扉を閉めたので、シャーロットは両手で口元を押さえる。

室に、ふたりきりになってしまいました……!!)

と歓喜に打ち震え、聲に出すことすら出來なかった。

だが、オズヴァルトが長椅子に腰掛けたので、使命に駆られて立ち上がる。

(大変! い、急ぎませんと……!!)

「……待て。何をしている?」

「はい! オズヴァルトさまの周りに、この部屋にあるだけのランプをぐるっと並べています!! 三百六十度、あますところなく、オズヴァルトさまのお姿を拝見したいので!!」

「やめろ! 新手の儀式のようになっているだろう!!」

オズヴァルトは疲れた顔をして、「向かいに座れ」と言った。傍にいることを許可された喜びにくらくらしつつ、オズヴァルトに向かい合った長椅子へと座る。

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