《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》掃除が楽しい

「……なるほどねぇ、父親は無関心で、後妻さんとその娘がデカイ面してるおかげでの置き場がない、と。そういう訳ね」

「は、はぁ……」

奧に通してもらってお茶をいただきながらかいつまんで事を話すと、溫和そうなのに案外口の悪いお婆さんシスターはすぐに大のことを理解してくれた。

「ありがちな話とはいえ腹が立つね。あたしゃそういうのが大嫌いなんだ。修道院は子供の味方だから匿うのはいっこうに構わないよ。労働はしてもらうけど……それは大丈夫なのかい?」

「はい。勿論、そのつもりです」

「そうかい。でも……々事はあるだろうけど、お母さんの実家は頼れないのかい? 可能ならそっちで面倒を見てもらったほうが良いと思うけど」

「母は外國からの輿れだったので……。一人で向かうには難しいものがあります。それに、母が亡くなってからはほとんど手紙の流もなくて。助けを求められるほどの関係じゃないなと」

「そう……。確かにね。下手なのほうが頼りにくいってのはあるよね。いずれ相談くらいはした方がいいと思うけど……まぁ、いいよ。とりあえず、部屋と服を與えるからついといで」

Advertisement

「はい」

話はとんとん拍子に進み、シスター、――メアリーは修道が暮らす別棟に案してくれた。

簡素なベッドと小さなタンスと機。それだけでいっぱいになる修道の部屋は確かに広くはない。でも暮らすのに何の不足もない。

「……こんな部屋だけど大丈夫かい? 家出してきたお嬢様の中にはこれを見ただけで逃げ帰るのもいるんだよ」

「大丈夫です。屋と寢床がある事に謝いたします。ありがとうございます」

「殊勝なことだねぇ……」

カーテンを開け、それから窓を開くシスターメアリー。彼のいるところから風が吹き込む。

気持ちの良い、新しい風だ。

私はバスケットからお母様のアクセサリーのうちのひとつ、真珠の首飾りを取り出して彼に差し出した。

「あの……お禮になるかどうか分かりませんが、こちらをお役立て下さい。母が、私が困った時のためにしてくれたものです」

こういう場所は寄付でり立ってるっていうからね。

全部一度に出すのはちょっと不安だから今はひとつだけど、様子を見ながら徐々に手離していこうと思う。

「ふぅん……? ちょっと拝見するよ。……これは素晴らしい真珠だね。照りが良くてと粒が揃ってる。…………おや、留めに何か印がついているね。紋章かな。これは……」

すると、メアリーの顔がさっと変わった。

そして私に視線を移して、まじまじと見つめてくる。

「……そうか。ステラの母君は、先代の……」

何やら納得しながら何度も頷き、私に真珠の首飾りを押し付けて返してくる。

「寄付はありがたいけど、これは換金は出來そうにないね。今はまだステラが持っていなさい。ここにいる対価は、労働と社會奉仕で貢獻してもらえればそれで良いから」

「そ、そうですか……? かしこまりました」

換金、出來ないんだ……。

どうしてだろう。足がつくとマズイとかそういう理由かしら。

「……ところでさ、ステラは貴族階級の娘だろう? スキルを持ってるんだよね。多分だけど、癒しのスキル持ち?」

「いえ。私はスキルを持っておりません。啓示を授かりませんでした。癒しのスキルを持っているのは妹です」

「妹!?」

「はい。……それが何か?」

やけに驚いた様子のメアリーに首を傾げる。

「いや……。そうか、妹か。なるほど。あの家、ずいぶん思いきった事をしたもんだね。」

「なんの話です?」

「うーん……。確証が持てないから、今はまだ話せないけど……。ステラ、あんたよく今まで頑張って來たねぇ。無事にここに辿り著けたのも神のお導きだろう。さ、まずはそのボロをいで、こっちのボロに著替えなさい」

メアリーはそう言って使い込まれたシスター服を手渡してくる。私は思わず笑ってしまいながらそのシスター服をけ取る。

「……なんだ、あんた笑うと可いじゃない。これからはたくさん笑いなさいよ。笑いが次の笑いを呼び込んでくるんだからね」

笑うことが次の笑いを呼び込む――。

ドン底にいた時は絶対にれられない言葉だった。

でも、メアリーに言われると、不思議とスッと心に沁みる。

「ありがとうございます、シスターメアリー。とても親切なんですね」

「別にそれほどでもないさ。あたしゃね、若いには厳しいんだ。覚悟しておきなよ」

ふふん、と笑うメアリー。

もう、好度はマックスだ。こんなになっていけたらいいなと強く思う。

「著替えたら下りといで。ここでの過ごし方の話をするよ。それと、しばらくは町に行くのはやめておきな。きっとあんたの家の人間が連れ戻そうとしてくるはずだから。もちろんそうならないように、あたしや神父様が間にって話し合いをするけどさ。あんたはしっかり自分のを守りなさい」

「はい。ありがとうございます。……大変な事をさせてしまって、申し訳ありません」

「いいんだよ。行き場のない子供を守るのがあたし達神職と大人の役割だ。あんたは子供というにはちと育ち過ぎてるけど、それでもあたしから見ればじゅうぶん子供だからね。……なぁに、どんなに偉い王様だって清貧を貫く神職には強く出られないものさ。心配いらないよ、任しときな」

「ありがとうございます……」

なんと謝すれば良いのかわからないくらい有り難かった。

手早く著替えを済ませ、階下へ下りる。

するとメアリーはハタキとホウキと桶、それからモップと雑巾を用意して待っていてくれた。

「ここでの過ごし方と言ったけど、やる事は至ってシンプルだ。朝晩と食事前の祈り、それと掃除がメイン。バザーをする時もあるけど、それはまたその時に教えるよ。まずは掃除。汚い教會なんて神様も嫌がるからね。誰も見ていないようなところまできっちりと磨くんだ」

「はい、シスター」

「大丈夫かい? 掃除なんてやった事ないだろ」

「ありませんけど、頑張ります」

腕まくりをしてハタキを摑む。

するとメアリーは目に皺を作って嬉しそうに笑った。

「助かるよ。最近はみんな清貧を嫌ってかシスターのり手がないんだ。最初は高いところから頼んだよ」

「はい」

まずは禮拝堂の掃除から。

メアリーの教えに従って、はしごに登って高いところからハタキをかけていく。

きれいに見えていた禮拝堂も、角や燭臺のまわりをよく見ると蜘蛛の巣や埃で案外汚れているようだ。

そこをパタパタとはたくとし綺麗になった。

気のせいか、白さが増して壁が喜んでいるような気がする。

場所を変えてどんどんハタキをかけていくと、壁が喜んでいるのが不思議と確信に変わった。

「あら……楽しい」

どうしよう。

掃除、楽しいわ。

こんな楽しいことを知らなかったなんて。私、今まで損していたのね。

「……ん? どうした? ステラ」

「なんでもないでーす」

夢中になってどんどん埃を落とし、ハタキ掛けを終わらせて、次の作業、ホウキに移る。

床には意外と砂埃や髪のが落ちていて、隅から掃いていくとあっという間にゴミが溜まっていく。

床掃除はメアリーが毎日やってると言っていたけど、それでもこんなに汚れてしまうのね。

掃き掃除を終え、ゴミを集めたあとでモップ掛けに移る。濡れたモップで床を拭くと、飴の木板が艶々と輝いて見えた。

とても、気持ちが良かった。

それから雑巾を使って椅子を拭き上げ、磨き布で燭臺や取っ手などの金屬を磨く。

ぴかぴかだ。

これ、禮拝堂全が喜んでいる。間違いない。

満足に浸りながら掃除の果を眺めていると、ふと頭の中に文字が浮かんだ。

“掃除:F”

…………?

掃除F?

私、何を考えているのかしら……。

    人が読んでいる<【書籍化】誰にも愛されないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください