《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》メイドの靴下は黒がいい

この瘴気、魔獣が生まれる一歩手前まで來てるんじゃないかしら……。

ふと脳裏に浮かぶ恐ろしい景にさっと溫が下がる。

……す、しでも薄めないと!

「お、畏れります、殿下。さっそくですが、窓を開けてもよろしいでしょうか?」

「…………あぁ」

返事があった!

本當に存在していたのね!? 見えないから不安だったけど!

窓際に足早に近寄り、窓を開く。

開いた途端強い風が吹き込んできて僅かに瘴気が薄まり、しだけ室が明るくなったような気がした。

「……け、けっこう風が強いですね!」

「塔のてっぺんだからな。そりゃ強いさ。……えーっと、ステラ? だっけ」

「はい」

「スカート、捲れてる」

「!!!」

バッとスカートをおさえて、窓を閉める。

「……み、見えました?」

「いや。黒いストッキングとガーターベルトしか見えてない」

それ、ほとんど見えてるじゃない……。

こんなに瘴気が濃くて視界が悪いのに、よく見えたわね。いまだに私からは殿下の姿は見えていないというのに。

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こほん、と咳払いをして、気を取り直してから控えの間の扉を探す。とにかく一旦を落ち著けなければ。

壁伝いに歩きながら探すと、窓の向かい側のところでドアノブを発見した。きっとここが控えの間だ。

私の當面の居場所はここになる。

「殿下。手荷を控えの間に置いて參りますので、一度前を失禮いたします」

「ああ。いいよいいよ、適當で」

ぱら、と紙を捲る音がする。どうやら本を読んでいるようだ。

こんな暗いところでよく読めるわね。

頭が痛くなったりしないのかしら……。

不思議に思いながら控えの間にり、手荷を置いて一息つく。

ここは修道院の部屋より更に狹い、ベッドと機だけで一杯になる部屋だ。しばらくはここが私の居室になる。

「……まずは掃除しないと、ね」

的に埃っぽくて息が苦しいので、著いて早々だけど掃除をする事にした。

下に下りて掃除道一式を借り、桶に水を汲んで階段を上がる。これがものすごい重労働だった。

「はぁ……はぁ……」

なんとか辿り著いた殿下の部屋の前で、桶を置いて息を整える。

手が痺れてるよ……。水を持って階段を上がるって、とんでもなく大変なことだったのね。

「どうした? ステラ。大丈夫か?」

「だい、じょうぶ、です……」

ヘタってなんていられないわよね。

頑張る。

「殿下。早速ですが、これからし掃除をしてもよろしいでしょうか?」

「いいよ。ありがとう」

あら。

幽閉なんて扱いをされているからどんな人かと思っていたけど――普通に良い人じゃない?

不遇な上にこんなに空気の悪いところで暮らしているのに。それって凄いことなんじゃないかしら。

「……それでは、始めさせていただきます」

一禮してハタキを手に取る。

し考えて、窓をほんのしだけ開けた。隙間から強い風がってくるけど、しだからさっきみたいな見苦しい事にはならないと思う。

埃を落とすのに閉めきったままなのはに良くないからね。うん。

埃を落とし、床を掃き清めていると、室しずつ明るくなっていってるような気がした。これは教會でもじたことだ。掃除をすると室が明るくなる。

気持ちが良いし、綺麗になるし、空気が明るくなるし。掃除って良いことだらけね。

雑巾を絞って壁から黙々と磨き始める。石造りの壁は最初は濃い灰に見えていたけど、拭いていくと段々と白くなっていく。けっこう汚れていたようだ。今まで壁を磨いたりとか、あまりしてこなかったのかしら……。

「……ねえ、ステラ。君はここにいてもけるんだね。が怠くなったりしないの?」

殿下が話しかけてきた。

「今はそこまでじません。平気です」

「へえ……。すごいね。今まで來てくれた人達は控えで待機しているだけで一杯だったのに」

「この中にずっと居たらいつかそうなるかも知れませんが、今はまだ……そういえば殿下は大丈夫なんですか?」

ふと顔を殿下の聲がする方向に向けてみる。

すると濃霧がし晴れたかのように瘴気が薄まっていて、殿下のいる辺りがうっすら見えるようになっていた。

まあ……! 掃除のおかげかしら。知らなかったわ。瘴気って掃除をすると薄まるのね。

「あんまり大丈夫じゃないかな。ご覧の通り、ほとんど起き上がれないくらいには弱っているよ」

「そうなんですか……」

ご覧の通りと言われても、あんまり見えてないけど……。

でもここにいたらそうなるわよね。メイドは代できるけど、殿下は代できないのだし。

何が原因なのか分からないけれど、ここに満ちている瘴気をどうにかしない限り調なんて良くならない。

――待ってて下さい、殿下。

私が掃除して、しでも薄めて差し上げますからね!

壁を磨き、床も磨き上げたところでふぅと息をついて顔を上げた。

壁も床も喜んでいる。完全に消えた訳ではないけれど、瘴気もかなり薄くなっている。

視界は良好だ。

「終わりましたよ! 殿下――」

ぱっと殿下を見ると、そこにはカウチベッドにを橫たえ、長い黒髪をぼさぼさにしたままの細の男がいた。

ちょっとびっくりしてしまった。

初めて姿が見えた。

この、髪ので顔が見えなくなっている人が第一殿下なのかしら……。

殿下は手元の本から顔をこちらに向け、室に目をやった。

「凄い……! なんだか全的に白くなってる! ここまで綺麗にしてくれたのはステラが初めてだよ。ありがとう!」

「いえ……。あの、殿下」

「ん? どうかした?」

「差し出がましいかとは存じますが……髪が長すぎではございませんか? もしよろしければ散髪いたしましょうか」

「君が?」

「はい。私が」

「えー……大丈夫なの? それ」

「その道の職人のようには出來ませんが、短くするだけでも生活の質は上がるかと存じます」

殿下はし考えているようだった。

あ……。

確かに、王族が初対面のメイドに刃を持って背後に回られるというのは避けるべき狀況といえるかも知れない。

もうし信頼関係を築いてからでも良かったかな……。

そう思ったのだけど、殿下は了承してくれた。

「……じゃあ頼もうかな。さすがに鬱陶しかったんだ」

「よろしいのですか?」

「うん。でも、鋏はここには無いんだ。メイド長に訊いてみて」

「かしこまりました」

掃除道を持って塔を下り、メイド長に鋏を借してほしいと言いに行った。

「鋏? いいけど、何に使うの?」

「散髪です。殿下の」

「散髪……ああ、そうね……。かなりびてしまっていたものね。殿下の許可はあるの?」

「はい」

「じゃあお願いしようかしら……。殿下ならもしもの時の対処も可能だし」

「もしもの時?」

「貴が間者だったとしても殿下なら大丈夫という意味よ」

「間者ではありませんが、殿下ってお強いのですか?」

こう言っちゃなんだけど、殿下はひょろひょろな格だ。

私も人のことは言えないけれど、格闘などに長けているようにはとても見えない。

「強いというか……危険というか。貴が間者でないなら関係のない話よ。はい鋏。使い終わったらすぐに戻しに來てね」

「はい。ありがとうございます」

鋏を借りけて、再び塔のてっぺんへ。

階段つらい。

足腰が鍛えられそう。

「か、借りて來ました……」

ゼエゼエ息をしながら部屋にる。すると殿下はカウチから椅子に移ってシーツを用意してくれていた。

「おかえりー。準備してみたんだけど、こんなじでいい?」

「は、はい。良いと思います」

王族らしからぬ行力。

退屈のなせる業かしら……。

やや失禮なことを考えながら、椅子に座ってシーツを肩にかける殿下の背後に立つ。

「ステラ。念のために訊いておくけど……散髪の経験は?」

「一度だけあります」

「へー。誰の髪を?」

「自分のを」

すると殿下は顔をこちらに向けてじっと見てきた。

長い黒髪の隙間から深みのある青い瞳が覗く。

――あら、綺麗な目をしているじゃない。サファイアみたいね。

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