《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》黒髪に青い瞳の王子様

「……まとめ髪だからよく分かんないな。まぁいいや。任せた」

「は、はい。まずはブラッシングいたしますね」

持ち込んできた荷から私用のブラシを取り出し、先からとかし始める。

癖がなくて真っ直ぐな髪だ。背中の真ん中くらいまである長い髪。もつれを解いていくとすぐに艶が出てくる。

きっと普段は洗いっぱなしで放置しているんだわ……。し手をかけるだけですごくるものをお持ちなのに。なんて勿ない。

「では、切らせていただきます」

「うん」

ひとまず肩の辺りでばっさりと切ってみた。このあとしずつ形を整えようと思う。

「ねえ、ステラ。本當に大丈夫?」

「何がです」

「思ったよりばっさりいったけど。ガタガタにならない?」

「……大丈夫です。……多分」

ばしっぱなしで放置していた割にはやけにうるさい。

これは失敗したら怒られそうだ。

慎重に、慎重に……。

「多分って。怖いなぁ……。ちょっとずつ切ってね」

「はい。気を付けます」

「本當に? 気を付けるったってセンスの問題もあるからね? あんまり短すぎてもイヤだし長すぎても邪魔だし、ちょうどいいところを見極めてもらわないと」

「だから気を付けますって言ってるじゃないですか! ちょっと黙っててもらえます?」

「は、はい」

つい口調が荒くなってしまった。

集中している時に橫やりをれられると困るんですよ、殿下。

任せるって言ったんだから任せてもらわないと。

ものすごく集中して形を整えていった。

れていると殿下の頭の形の良さがよく分かる。髪質も良いし、鼻は高いし……。

あれっ。もしかして、殿下。実は形なんじゃ……。

前に立ち、長い前髪を取って鋏を當てる。と、隙間から深くてき通る青い瞳が覗いてくる。睫は長く、は意外でも何でもなく白い。

――なんだか張してきた。

まるで彫刻家になったような気分だわ。

この素材を使っておいて失敗は出來ない。前髪は顔の額縁。この青い瞳を際立たせるようなカットをしていかなければ。

とは言っても所詮は素人。

がたつきが出てしまった。だけど頭の形と髪質と顔立ちの良さに助けられて何とかそれっぽい仕上がりに出來た。ご希通り、長すぎず短すぎず丁度良いところにおさめられたと思う。

だ。

最初の印象とは全く違う細青年がここにいる。

こ、これが、私の作品……? 本當に?

「こ、これが本當の俺……?」

似たようなことを言う人がもう一人いた。

殿下は私の手鏡を覗き込んで乙のような事を言っている。

そういえば、この部屋に鏡はないようだ。自分の姿に無頓著なのかこだわりがあるのか良く分からないお人である。

「ステラ、俺ってもしかしてカッコいいんじゃないかなって思ったんだけど、どう思う?」

この最高に頭の悪そうな発言も今の殿下が言うなら納得だ。

「ええ、とっても素敵ですよ。どうして今まで放置していたんですか?」

「特に理由はないけど……そのうちやろうかなーと思っていたらいつの間にかびてた」

「そうですか……」

軽い調子で話すからつい軽い気持ちで頷いてしまったけれど、それって誰も殿下のなりを気にしていなかったってことよね。なかなかひどい境遇じゃない……?

実家での私よりひどい生活をしていると思う。

どうしてなのかしら。

「……殿下は、どうしてそんなに飄々としていられるのですか?」

「ん? こんな生活をしておいて、ってこと?」

「はい」

「うーん……出ようと思えば、いつでも出られるし? あんまり苦に思ったことがない。それより好きなだけ本を読んだりパズルで遊んだり、好きな時に寢て、好きな時に起きる生活。最高だね」

「そ、そうなのですか……。ですが、調は悪くなったりしないのですか? こんな、真っ暗になるほど瘴気の濃い場所で」

「真っ暗?」

「はい。何も見えないくらい真っ暗だったじゃないですか」

そう言うと、殿下はじっと私を見つめた。

「……それ、普通の人には見えてないんだよ、俺も見えてない。瘴気はでなんとなくじるだけだ」

「えっ?」

「そういえばステラは所作が貴族のっぽいよね。どこの家の娘なのかは後で世間話でもして聞かせてもらうとして、スキルは何? 瘴気が見えるなら、準聖として扱われているんじゃない?」

「スキル……は、ありません……」

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