《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》の回りのお世話というお仕事

デートという響きに驚いてしまったけれど、行き先は神殿、という事で。冗談めかした言い方だっただけだ。

うっかり揺してしまった事実に悔しさをじながら廚房に食を下げ、そのついでにお湯をもらっての清拭をする支度に移る。

「はぁ……はぁ……お湯をお持ちしました」

さすがに疲れてしまって、階段を上るのに時間がかかってしまった。そのせいでお湯がかなり冷めてしまっている。

「大変だねー。ごめんね、ありがとう」

殿下は沐浴用のガウンに自分で著替えてくれていた。

腕がプルプルしているから、助かる……。

「いえ。それではお手伝いいたしますので、お背中をこちらに向けて下さい」

「うん」

お世話をされ慣れている殿下は素直に背中をこちらに向け、ガウンを肩から落とした。

初めて見る、他人の素張してしまう。

しぬるいかとは思いますが、我慢してくださ――あら?」

布を桶の中の水に浸そうとしたら、なぜか熱めのお湯に戻っている。

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溫かくて気持ちがいい。

「どうしてお湯になっているのかしら……?」

「ああ、それ俺のスキル。水をちょうどいいじに破壊するとお湯になるんだよね」

「水をちょうどいいじに破壊? ……ちょっと何を言っているのか分かりません。水って壊れるんですか?」

「うん。々試していた時期に発見したんだ。俺ってすごく役に立つと思わない?」

子供か。この十九歳児は。

「……そうですね。原理は良く分かりませんが、火を起こさなくてもすぐにお湯になるなんて最高じゃないですか」

「だろ? 呪われたスキルとか言われてるけど、要は使い方だよな」

「呪われたスキルなんて言われてるんですか!?」

「まあね」

ちょいちょい不穏な単語が出てくるのね……。

気を取り直して、お湯に浸した布で殿下の背中を拭く。痩せ型だけどちゃんと広い背中だ。骨格が案外男の人らしくて本當に張してしまう。

だけど、余計なことは口にすまいと黙って靜かに清拭を遂行した。

「あれっ……?」

「どうかしましたか?」

「なんか……が軽くなってきた」

「??」

「こんな覚、初めてだ……。まるでの中から瘴気が消えたような……。もしかしてステラ、俺のこと掃除した?」

「掃除って。……確かにそう言えなくもない狀況ですが」

「やっぱり!? ステラ、俺のことゴミか何かだと思ってない!?」

「思ってません!」

そんな解釈をしてくるなんて心外だ。

「まぁいいや……。あのさ、ステラ」

「はい」

「明日、絶対に神殿に行こうね」

「……はい」

妹のフィオナが啓示をけた當時の話を聞きに行くのだと殿下は言った。

神聖な場所なので本來なら祭事以外では出り出來ないのだけど、そこは権力でなんとかするそうだ。

関係者に話を聞くだけなら、中にる必要は無い気もするけど……。でも神殿がどんな場所なのか興味がある。

ここは殿下に甘えよう。

「……殿下」

「うん」

「ありがとうございます。私のために、いて下さるなんて……」

「惚れた?」

「惚れてません」

「そうか」

さっきから何なのかしら、この會話……。

そうか、モテたいのよね、殿下は。

まぁ、寂しい生活だもの。當然よね。

「殿下、いつか誰かにをしたら私に相談して下さいね。のお手紙を屆けるくらいならお手伝い出來ますから」

「……はぁ」

あらっ?

背中が丸まっていく……。

今までシャキッと真っ直ぐにびていたのに。なぜ。

「どうかなさいましたか? 元気出して下さいよ」

「……うるさいなぁ。ほっといてよ」

は、反抗期!?

さすが十九歳児……。

「……背中、終わりました。次は頭を洗いましょう。カウチに橫になって、頭をこちらに向けて下さい」

「はーい」

突然ご機嫌になった。

もう、何なのかしら。

小さな桶にお湯を取り分けて石鹸をし溶かしれ、椅子の座面に乗せた。それから殿下の背中の下にクッションをれて、頭の位置を桶に合わせる。

修道院で、シスター同士でこうして洗いっこしてきたのだ。もう手順はばっちり覚えている。

殿下の後頭部を支えながら桶のお湯に導すると、仰向けに寢転がった殿下と目が合った。咄嗟に目を逸らして、黒い前髪を掻き上げお湯で濡らす。

額まで全開になった殿下の目が、閉じていない……。

石鹸のお湯で頭を指圧するように洗いながら、私は何とも言えない居心地の悪さをじていた。

「……あの、殿下。目を閉じていて下さい」

「うん」

返事は素直なのに目は開いたままだ。

やりづらい……。

「上手だね、ステラ。すごく気持ちがいい」

「そ、そうですか?」

「うん。頭がスッキリしてくる。……不思議だ。俺は今まで瘴気にあまり影響されないタイプだと思っていたけど……そうでも無かったみたいだって、いま初めて知った」

ふと目を見ると、真っ直ぐにこちらを見つめてくる青い瞳と目が合った。ずっと見られていたみたいだ。

……意外と理知的で、綺麗な目。こんなところで毎日ゴロゴロしているのは勿ないと、思ってしまう。

「……元気が出たのなら良かったです」

綺麗なお湯で流して、洗髪を終わらせた。

なんだか妙に心臓がドキドキしている。

こんな近い距離で異に見上げられるなんて、普通に過ごしていたらまずない経験だからね……。

木綿の布で髪を拭いながら、香油をほんのしだけ馴染ませていく。これでもっと髪の艶が出るはずだ。

こういうものがちゃんと部屋に置いてあるのに、全然使ってる様子がなかった。これからはどんどん使っていこうと思う。

「――ありがとう。すごく気持ち良かった。あとは自分でやるから下がっていいよ。まだお湯が殘ってるから、ステラも橫の部屋でやっておいで」

「はい。ありがとうございます」

「……俺が洗ってあげようか?」

「けっこうです」

桶にひとすくいお湯をもらい、控えの間に引っ込む。

制服をを拭いていると、急激に謎の悸と火照りに襲われて、無駄にをゴシゴシこすり続けてしまった。

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