《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》背中を向けるな
私達は離れた位置にいる神さん達から控えめなお小言を頂いたものの、殿下の「ごめん」と神長の「私の責任です」という言葉によって深い追及をけることなく、々なことが有耶無耶のままあっさりと解放された。
完全に分の高さがものを言った形だ。
ただ、“この場は”誤魔化せたという限定的なものだけれど――。
塔に戻り、なるべく早めに陛下に報告する段取りをつけたほうが良いということでさっそく作戦會議を始める。
「――でも、々ありすぎて何を焦點にすればいいのか分かんなくなったよ。えーと……目下一番悩ましいのはマーブル侯爵の件だよな。どう出てくるかサッパリ読めない」
「……水晶の力を使ってしまった事は?」
「あれは今回に限れば大したお咎めは無しでいけると思う。啓示をけられる人數に限りがあるとは言ってもさ、七歳になる子供が毎年同じ人數な訳がないだろう? 多の増減なら問題ないんだ。例外を認めると際限が無くなるし、爭いや不正の溫床になるから厳しめに取り決めているだけで――。それに今回、俺は當初は事故を裝ってステラに啓示をけてもらおうと思っていた。父に叱られるのは想定だ、問題ない」
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なんて事をさらりとおっしゃるのかしら。
事故を裝って、って……。やっぱり怖い人なのかしら。
この人に背中を向けるのはかも知れない……。
「事故を裝ってとは……? なぜ、そのような?」
「だって――“けようぜ”って事前に言ったとして……君、ける? 多分けないって言うだろ」
「まぁ……そうですけど」
だからってそんな……陛下に叱られる事を前提にしなくても。
めちゃくちゃなお方だ。
というか、父のことを考えなくちゃいけないのは勿論なんだけど――それよりも気になることがある。
「殿下。あの……」
「……うん」
「なぜ、ったのですか」
殿下がれた時に水晶がった。
神長も“分からない”と言っていたけれど、あれはスキルのではなかったのか。
殿下は真っ直ぐにこちらを見て、重たげに口を開いた。
「……スキルが、増えた」
「増えた!? なんですか、それ! そんな事ってあるんですか!?」
「知らないよ! でも確かに、頭の中に文字が浮かんだんだ」
「どのようなスキルなんです……?」
「…………“再構築”」
再構築。
まるで破壊と一セットのようなスキルだ。
「……試してみて下さい」
「……だよな。気になるよな」
「はい。とっても」
水晶がった件について自分からはれてこなかった殿下も、新たなスキルのことは気になっていたようだ。
テーブルに置いてあるチェス駒を模した金のペーパーウエイトにれ、あっという間に細かい金屬片に変えてしまう。
「これは“破壊”のほうね」
「はい」
謎の念押しをしてくる殿下。言われなくても分かるけど、きっと言いたかっただけなのでただ頷く。
「――で、“再構築”」
殿下がそう言うと、テーブルの上でバラバラになっていた金屬片が、まるで時間を巻き戻していくかのようにき、結合していく。
「まあ……」
凄い。
完全に元のチェス駒の形に戻った。
「す、凄いじゃないですか!」
「そうだな、凄いな」
落ち著き払った聲とは裏腹に、目が爛々と輝いている。
心の高揚が伝わってくるようだ。
「それ、違う形にも構築できるんですか?」
「やってみる」
今度は々になったペーパーウエイトを、し考えてから再構築していく殿下。テーブルの上でく金屬は徐々に形を作り、やがて手のひらサイズのの子像に姿を変えた。
「すごい! 殿下、これ凄い、凄いです!」
「だな! これ面白い! もっと応用が効きそうな覚もあるけど、まずはレベルを上げていかないとな! 々試してみるか!」
「レベル?」
「ああ。スキルの後に記號が付くだろ。あれだよ。練するにつれて上がっていくんだ」
「なるほど」
それなら今の私は掃除がCで浄化がFだ。
……あれ? よく考えたら、私も二つ持ってない?
「殿下……。そういえば、私も二つ持っているみたいです」
「はぁ!?」
とても驚いている様子の殿下。私もびっくりだ。
“無い”と思っていたスキル、実は最初から持っていた……?
「どういう事?」
「分かりません。ですが……今振り返ると、“浄化”の前から“掃除”を持っていたのだと思います」
「“掃除”……。ああ、そうだな。確かに……ちょっと普通じゃなかったもんな。だからこそ俺はステラに啓示をけさせようと思った訳だし。そうか……。あれは既にスキルの力だったのか。……でも、神殿に行ったのは今日が初めてなんだよな?」
「はい。神殿どころか、王宮に來たのすら昨日が初めてです」
「…………なぜだろう。何か思い當たることは?」
「うーん……」
口元に指を當てて考える。
スキルは、水晶にれて降りてくる啓示で授かるもの。
水晶……。
「……もしかして」
ふと閃くものがあって、控えの間に置いてあるバスケットを持ち出した。
お母様の品に水晶のアクセサリーがいくつかあった。もしかして、その中に何かがあるのではないかと思ったのだ。
「…………あった。これだわ……」
どうして今まで気付かなかったのだろう。
一つだけ、スキルの水晶と同じ神の力を放つ水晶がネックレスチェーンに付いて紛れ込んでいた。
指の先ほどの小さな水晶の欠片。そこからしだけピリピリとした特別な力をじる。これまでじ取れなかったそれが、今の私にはよく分かった。
「殿下、きっとこれです。母の形見の中に、しですがスキルの水晶と同じ力を持つものが紛れ込んでいました」
「本當に!?」
殿下も立ち上がり、顔を近付けてまじまじとネックレスを見つめる。
「……俺にはよく分からないな。これが神殿の水晶と同じなの?」
「はい」
「ふーん……。まぁ、聖にしか分からない何かがきっとあるんだろうな。それ、母君のご実家のものだろう? だったらそういう訳ありの水晶があったとして納得出來ないでもないかな」
「ええ……。きっと、知らないうちにお母様がこれを私にれさせていたのね」
「記憶にないの?」
「はい。ですが、いつでも出來たと思います。母を看病しながら橫で眠ることも多かったので……」
「そうか……。そうだな。君にすら何も伝えなかったのはきっと、不審なきをする侯爵から守りきる自信がなかったからだろうな。いっけん普通のアクセサリーにしか見えない、この切り札を」
そう言って殿下はネックレスを私から取ると留めを外し、私の後ろに立った。
「に著けておきなよ。著けてあげるから、髪を上げて」
「は、はい」
髪をひとまとめにして、捻って上に巻き上げる。すると私の頬と腕の間に殿下の手がり込んできて、ふと心臓が高鳴った。
心臓につられるように頬が火照っていく。意識しだすと首の後ろにかすかにれる手のがやけにくすぐったいものにじた。
「――はい、著けた」
「ありがとうございます……」
顔、あんまり見られたくないな……。
そう思ってしばらく振り向けずにいたら、何かを察したらしい殿下が橫から顔を覗き込んで來ようとしたので、ぷいと反対側に顔を背けて逃げた。
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