《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》初・浄化

火照りが治まった頃ようやく振り返ることが出來たけれど、なんとなく殿下の顔が見られなくて目を逸らしながら話を続けた。

「……それで、何のお話でしたっけ」

「えーと、侯爵をどうするかって話だったかな。俺達が話してどうなるもんでもないけど……でも父に伝える容と順番によっては、一連の出來事の印象をある程度は作できる。……ステラは家族をどうしたい?」

「私ですか? 私は……もう関わりたくない、それだけです」

「……だよな。そりゃ當然だ。……破滅してほしいとか、そういう事は?」

「さすがにそこまでは考えておりません。このまま他人として生きていければ満足です」

「そうか。……他人か。うん。そうだな。……だったら――なぁ、あのさ、ステラ。良かったら、なんだけどさ」

「はい?」

「その……えーと」

「何ですか?」

珍しく下を向いて指先を組んだり離したりして、もじもじと言い淀む殿下のつむじを見ていたら、ふと、殿下の肩の後ろに何か強烈なの渦が現れるのが目にった。

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黒くて、重くて、悲しくて、憎い。の塊。

――ああ、瘴気だ。

これが瘴気の中なのだ。苦しくて助けてしくて、れてくれそうな人を探してはすがり付こうとしている。

――だめよ。殿下は今それどころじゃないの。

じっと瘴気を見つめて語りかけるけれど、意思の疎通は出來そうにない。モヤモヤとした黒い瘴気が殿下のにまとわりつき、蛇のように首もとに巻き付く。

を持たないそれが殿下のこめかみの辺りから頭の中にろうとしているのが分かった瞬間、私は思わず立ち上がり手を振りかぶった。

「……えーと、つまり、対策のひとつとして考えてみてほしいんだけど……ステラ、俺とけっ」

パチーンと私が殿下のこめかみを叩いたのと、殿下がぱっと顔を上げたのは同時だった。

殿下にまとわり付いていた瘴気がとなって消え、ホッとして思わず満面の笑みで殿下の目を見る。

「やりましたよ! 殿下!」

殿下は目をまん丸くしてこちらを見上げ、何が起きたのか分からないといった表で「何が……?」と呟き、次第に瞳にじわっと涙を浮かべだした。

「あらっ……? ご、ごめんなさい、殿下。先ほどここに瘴気がですね」

「いや……いいんだ……。俺もさすがに早急すぎるような気はしていた……。聞かなかったことにしてくれ……」

聞かなかったも何も、言いかけだったじゃない。

「途中で遮るような真似をして申し訳ございませんでした、殿下。ちゃんと聞きますので、どうぞお話し下さい」

「君は悪魔か何かなのか!?」

「違いますよ!?」

「じゃあ何で人の急所を狙った後で言い直させようとするんだよ! 叩くにしても普通は頬だろ!? あのなぁ、人はここを叩かれると目が回るんだぞ!?」

「そうなんですか? いえあの、急所を狙った訳ではなくてですね、そこに瘴気が」

「もういいよ! ……くそっ、涙が止まらない」

「ご、ごめんなさい殿下……」

怒りながら涙を拭う殿下におろおろしながら立ったり座ったりしていると、ふわっと脳に“浄化:E”と浮かんだ。

やかましいわ。空気を読みなさいよ。今それどころじゃないって、分かるでしょう……。

「あ、あの……、殿下。神殿に連れて行ってくださって、ありがとうございました。スキルのことだけではなく、母の事も――たくさんの気付きがありました。謝しております」

「本當に……?」

「はい。一生の恩人です。私、これからずっと殿下をお守りいたしますね」

瘴気と呼ばれるものの中を見て、なぜ殿下が纏わり付かれるのかが分かった。あの行き場のないドロドロしたは、救いを求めてさまよっているのだ。

つまり、殿下は選ばれている。この人なら助けてくれると思われている。

殿下がご自で言っていた通り。悪いものを、無意識に引き寄せてしまっているのだ。きっとこの大らかな格のせいだと思うのだけど――。

「ずっと……? 聖として皆に認められてからも、ずっと?」

「はい。そのつもりです」

私がけた浄化のスキルは殿下がくれたと言っても過言ではないし、それに、こんなに瘴気に好かれている人を放っておくことも出來ない。

恩人の中でも上位スリートップの一角を飾るこの人の力に、私はなりたい。一生涯をかけて守りたいと思う。

「そうか。……うん、ありがとう。そうしてくれると、嬉しい」

そう言って、綺麗な笑顔を見せてくれた。

次に浮かべたのは何か強い意思を宿した目。すっと立ち上がると、陛下への報告は先に自分が行ってしてくるから、後で呼び出しがあったら出てきてほしい、と言って一人で塔を出て行った。

留守番を任された形の私は手持ち無沙汰になり、とりあえず掃除でもしようかしら、と思い立って水を汲むために階段への扉を開ける。

石の階段へ一歩踏み出したその時――、私はズルッと足元をらせ、盛大に転んでしまった。

「ひきゃっ!? あ、ああああっ!!」

なんという事でしょう。

階段の段差が無くなり、ただの斜面に変形している。

殿下あああ!! 元に戻してから行ってよおおお!!!

おそらく再構築スキルでツルッツルになった石のり臺を、私は絶する聖として一気に下までり下りていった。

読んで下さる皆様のお力で、総合ランキングで日間一位になれました!!ありがとうございました!心から謝いたします!

またすぐ更新いたします!

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