《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》今後を考える

陛下がランランちゃんに頬りすると、ランランちゃんはピィッと澄んだ鳴き聲を上げながら小さな羽をばさばさかした。

その作がれあう喜びから來るものなのか、それとも驚いて抵抗しているだけなのか――私にはちょっと分からなかった。

「――それにしても、魔獣がこのように変化したのには驚いたな。何十年も國王などという因果な生き方をしているが、こんなに驚いたのは初めてだ。歴代の聖でも初じゃないか? 魔獣を変えた聖というのは」

「そうですね。俺も様々な聖の本を読んできましたが、魔獣を浄化で消したという記述しか見たことがありません。……実際、先ほども、浄化だけでは形を保つのは難しいように見えました」

「ふむ。魔獣を聖なる獣に変えるには、浄化と再構築のスキルが必要という事だろうか。……セシルよ、水晶に二度れた件を私の立場から褒めることは出來ないのだが、この先もその新たなスキルで救われる魔獣達がいるのだと思うと――ありがとう、と言いたくなる。そうだ、ここはランランちゃんに代わって私が禮を言っておこう。……“セシルしゃま、ありがとうだピィ”」

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「やめて下さい! 父上!」

「なんだ、照れておるのか?」

「違います! いやある意味そうですけど! なんか……辛い……」

殿下……。なんておいたわしい……。

々と自由すぎる陛下の神攻撃に、殿下は疲れ果てた様子で頭を抱え、テーブルに突っ伏した。

その時ふと、陛下の手の中にいたランランちゃんがぴくりと反応を見せる。

もぞもぞいて陛下の手からピョンと飛び降り、テーブルの上に乗って殿下に向かって歩き始めた。

「おお! 歩いとる! 歩いとるぞ! 見ろセシル! ランランちゃんが歩いてる!」

「そんなに言わなくても見えてますって! ……ふっ、おまえ、足あったんだな。短くて見えなかったよ」

テーブルに突っ伏したまま顔を橫に向け、ふっとらかな笑みを浮かべて、目の前に歩いてきたランランちゃんの足元の羽を指先でふわふわと弄る。

殿下の言う通り、足が短くて羽に埋もれてしまっているので、パッと見では足の存在に気付けない。とても可い。

ランランちゃんは、殿下の顔にをスリスリし出した。

くすぐったそうに笑う殿下の橫で陛下は拳を握り、を噛み締めている。

「いいなあぁ!! なにゆえお前だけ!! ズルい!」

「そんな事言われても。……ステラ、これって何か意味のある行なのかな?」

「は、はいっ! ……えぇと……」

よく観察してみると、殿下のところに集まってきている瘴気――今は薄くて見えにくいけれど、微かに殿下を取り巻く瘴気を、ランランちゃんはに取り込んでいるようだ。

黒い靄が白銀の羽の中に吸い込まれていくのが見える。

「――瘴気を取り込んでいるようです」

「なんと!? そこは魔獣と変わらない質があるのだな!? それで、ランランちゃんは大丈夫なのか? 再び狂暴化するなど……」

「まだ確かなことは申し上げられませんが、今のところ悪い影響は無いようです。しばらく観察する必要があるとは思いますが」

「うむ。そうだな。……もしも、もしもだぞ。で瘴気を消化できるのだとしたら――それは大変なことだ。聖がいなくても瘴気の深化を止められるという事になる。世界の歴史が変わるぞ」

陛下のおっしゃる通りだ。

これまでは水晶の力に頼って浄化のスキルを持つ人間を探し出す必要があったけれど、ランランちゃんが瘴気を取り込んで自らの力に変えるのだとしたら――それはまさしく、聖獣と言うに相応しい生きが誕生したことになる。

どのくらい長く生きるのか、またはどのくらいの瘴気を取り込むのか――未知數なことばかりだけど、ランランちゃんの小さなに大きな可能められているのは間違いない。

「この子がどのように長していくのかまだ分からぬが、大事に育てていこうではないか。我々三人で」

「三人で、ですか?」

「うむ。衛生係のステラ嬢と、餌係のセシルと、係の私。當面は三人いればじゅうぶんだろう」

係……」

大丈夫なのだろうか。

ほのかな不安を殘しつつ、ランランちゃんをひとしきり構い倒した陛下が最高にご機嫌な様子で部屋から出ていくのを見送る。

「また明日様子を見に來る」

「えー……。まぁ、いいですけど」

「セシルよ。良い機會だから改めて言っておく。ステラ嬢の実家の件が片付くまではここにいても良いが、彼が堂々と分を名乗れるようになったらすぐにでも王宮の部屋に戻って來なさい。ベネディクトの事なら心配いらぬ。あやつは立派な王太子になった。お前の真似ばかりして悪ぶっていた弟はもうおらぬのだ」

「……そうですか……」

ランランちゃんを肩に乗せたまま殿下は呟く。その聲は、心なしか寂しそうなものに聞こえた。

自分から塔に引きこもったのは、気楽だから、というのは確かにそうなんだろうけれど、王位を継ぐ弟君の立場を磐石にするため、というのもきっと大きな理由だったのだとじる。

狙いどおりにいったのだとしたら、それは確かに寂しい事だ。自分の存在が人の中から消えて嬉しい人などいない。

「それでは、また明日」

「……はい。お待ちしてません」

「お前……正直にもほどがあるぞ」

文句を言いながら陛下は自ら扉を閉め、そしてすぐに悲鳴を上げた。

石の塔に響き渡る陛下の絶は、螺旋を描くようにぐるぐると回りながら一瞬で下まで遠ざかっていく。

「殿下……。階段を変形させたなら先にそうお伝えしませんと」

「うん……。次からそうするよ。あのさステラ、手のひらを見せて」

「手のひらですか? ……はい。どうぞ」

言われるがまま両手を上に向けて殿下の前に差し出す。

すると殿下は僅かにの滲んでいる右手を取って言った。

「ここ……。ランランに怪我させられたとこ、痛くない?」

「もう平気です。そんなに深い傷ではありませんでしたし」

「そうか。でも……もし傷が殘ったら嫌だよな。俺は平気だけど」

「何のお話ですか?」

「いや、あのね、ここに再構築を試してみてもいいかな? って訊きたかったんだ」

「怪我に再構築を……?」

言われるまで思い付かなかった使い方。もし本當に怪我をも治せるのなら――殿下はこれからきっと、多くの人を救う事になる。

「ぜひ、試してみて下さい」

し怖いけど、人実験くらい付き合わないとね……!

「うん。じゃあ――」

そう言った殿下が傷口の周囲に指先を置くと、ピリッとした痛みを手のひらにじて思わず手を引っ込めそうになった。

攻撃をけた時と同じ痛みだ。みるみるうちに傷口が閉じていく。どうやら、元に戻る時も負傷した時と同じ痛みがあるらしい。

「――出來た。どう? 大丈夫だった?」

「はい。し痛みましたが、大丈夫でした。ありがとうございました」

「そうか。痛むのか。……やっぱりそうだよな。痛いよな。……分かってはいたけど」

殿下はし泣きそうな表を浮かべ、顔を傾けて、肩に乗るランランちゃんに頬をり寄せ「ごめんな」と言った。

その時私は、殿下が魔獣を破壊しようとした事を――いや、破壊してきた事を、決して平常心でおこなって來た訳ではないのだと気付いて、何も言えなくなった。

「……殿下……」

「まぁ、怪我を治せて良かったよ。すごく汎用が高いね、再構築って」

殿下はそう言ってカウチに腰掛け、ごろんと橫になって、しばらくしてから再び口を開く。

「……ねえ、ステラ。この塔で暮らすのは……やっぱり大変?」

「え……、私がですか? ……そうですね。水汲みが大変といえば大変ですけど……。殿下がお好きな場所で暮らすお手伝いと思えば苦ではないです。そのうち慣れるでしょうし」

「そう……。そうだよね。大変だよね……」

殿下はの上でちょこまか歩き回るランランちゃんを指であやしながら、思いに耽るように遠くを見つめていた。

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