《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》Your Majesty

梯子を使って井戸の中にり底を調べると、やはり瘴気石が出てきた。浄化したスライム――ポチ(陛下による命名)のとはまた別の瘴気石だ。

ただ、指などに加工されているものではなく元の形のままだったので、非常に足がつきにくそうで厄介な代に思えた。

「ステラ。大丈夫?」

「はい。――あ、ありがとうございます」

井戸部に浄化をかけながら梯子を登り、殿下の手を借りて縁石から足を下ろす。

瘴気を払った魔獣の石は綺麗な緑だった。それを殿下に手渡すと、殿下は緑の石を日のかすようにして眺めながら言う。

「これ、何の力を持っているんだろう。……てうか、井戸にあった理由が人為的なものなのかそうでないのか分からないな。父上、どうします?」

「そうだな……。これだけでは何とも言えぬ。この周辺に出りする人をリストアップすれば後日何かの參考になるやも知れぬといったところか。その石は、今はステラ嬢に預かっていてもらいたい」

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陛下はそう言って寒さでカタカタ震える私を見やってきた。その時どうしてかスッと表が険しくなり、し威圧を出してくる。

「……ステラ嬢。こちらに付いて來なさい」

「は、はい」

どうしたんだろう。

王宮に向かって歩き始めた陛下の後ろ姿を追おうとして、ふと、スライムのポチをどうするかを考えた。この子を置いていけないし、人に見られるのも良くない気がする。

結果、細長い形狀になって片方の腳に巻き付いてもらう事にした。

足元からスカートの中にもぞもぞとっていくポチを見た殿下は何か言いたげな表を浮かべ、口を開きかけてやはり閉じるという奇妙な反応を見せた。

そしてようやく、いつになく厳しい顔つきで先を歩く陛下の後を追って王宮の部へっていく。

……何か機嫌を損ねるような事をしてしまったのだろうか。

何も思い當たる事がない。

考えながら歩いていると、陛下は前を向いたまま私へ語り掛けてきた。

「……君のことはまだ公にはしていない。今はまだマーブル侯爵を泳がせている段階だからだ。それは先日申した通りだね」

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「はい」

それがどうしたと言うのだろう。

「……しかし、私が最も信頼している人にだけは話をさせてもらっている。聖が見付かり、その娘は今セシル付きのメイドとして塔にいると」

「まぁ……」

陛下が最も信頼する方だなんて。

いったいどのようなお方なのだろう。

「それはきっと、素晴らしいお方なのでしょうね」

「……………………」

返事が無かった。

何故……?

「素晴らしい、か……。ふふふ。確かに素晴らしい人だ。私は全く頭が上がらないよ。昔から、ずっと。隠し事はすぐにバレるのだ。特に私の隠し事に関しては恐るべき勘の持ち主で、君の事もすぐにバレたのだよ」

「そんなにですか!?」

思わず聲を上げると、橫で殿下が「あぁ……あの人ね」と呟いた。

あの人?

「ど、どのようなお方なのですか……?」

「怖い」

「怖い!?」

ところで、なぜ、今このタイミングでその話を……?

もしかして――。

「あの……私今もしかして、その方のところに連行されているのですか?」

「そうだ」

「なぜですか!? 私、何か相をしてしまいましたか!?」

「いや、そうではない。ただ、今は真っ先に會う必要があると思っただけだ」

「どういう事ですか……!? 室の調査は?」

「會った後で良い」

「えぇ……?」

しているうちに一際立派な扉の前に著いた。陛下は軽くノックをし、返事を待たずにかちゃりと開く。

こ、怖いのにそんなりかたをして大丈夫なのですか……!?

ビクビクしながら室に目を向けると、そこには豪奢な紅のドレスにを包んだ非常に立派な貴婦人がティーカップを手に座っていた。オーラが凄い。

貴婦人は私達の姿を目に止めると同時に「あら」と可憐な聲を上げる。

「どうなさいました? 陛下……に、セシルも一緒なの? 珍しいわね」

「まぁね」

殿下はさりげなく私の前に立ち、室にいる貴婦人と侍達からの視線を遮った。

その様子を見た貴婦人が優雅な仕草で片手を振ると、室にいた侍數人が音もなく退室していく。

貴婦人と私達だけになった室で、貴婦人はティーカップを置きこちらに向き直った。

「それで、そちらのずぶ濡れのお嬢さんはどちらのかた?」

らしく小首を傾げて尋ねてくる貴婦人に、殿下が答えた。

「“聖”ステラです、母上。井戸に落ちていた魔獣の石を取ってもらったのですが、おかげでずぶ濡れになってしまいました」

母上!?

お、王妃様……!! この方が!?

「まぁ……!」

王妃様は口元に手を當て、スッと立ち上がった。そして意外なほど早い腳捌きでこちらに歩み寄って來る。

迫力が、迫ってくる――。

「では、あなた方は揃いも揃ってこのようなの子がずぶ濡れになるのを黙って見ていたと言うの!? 信じられないのだけど!?」

前に立つ二人がビクッと肩を震わせた。

「す、すまなかったと思っておる! しかし我々では石を見付けるのが容易ではなかったゆえ……」

「だったら自分達も桶一杯水を被るくらいの事をしなさいよ! 全く、気が利かないんだから!」

「そっ、それは気が利いていると言うのかね……!?」

「全く効いてないわね! そもそもの子を井戸にれるところからして間違っているのよ! 貴、ステラと言ったわね!? こっちに來なさい!」

「はいぃっ!」

むんずと手首を摑まれて引っ張られ、部屋の奧へ連れて行かれる。

「――あ、セシルも來なさい。お湯を作ってしいのよ。今すぐに」

「はい!」

お湯!?

「陛下はどこかへ行っていて頂戴」

「イエス! ユアマジェスティ!」

訓練された侍従のような俊敏さで陛下は退出していった。

もしかしたらこの國の真のトップは陛下ではなくこの王様じみた王妃様なのかも知れない、そう思った。

私の腕を引く王様が部屋の扉を開けると、そこには大理石の大きな浴場が広がっていて――。

「お、お風呂ですか!?」

「そうよ。だってほら、もうこんなに冷えちゃってるじゃない。陛下も貴をお風呂にれてしくてわたくしのところに連れて來たのでしょう?」

「陛下は何もおっしゃっておりませんでした!」

「あらそう? まぁ、あの中年のおじさんが年頃のの子に“湯浴みしなさい”なんて言えないわよね。あの方はそういうところはウブだから。大丈夫、わたくしに全て任せなさい」

ち、中年のおじさん……。

何も言えずにいるうちに、殿下のスキルによって大きな浴槽に張られた水からあたたかそうな湯気が立ち上ぼり始めた。

「ご苦労様。ではセシルもどこかへ行っていて頂戴。……ああ、そうだわ。あなたしばらくこっちの自室に戻っていないでしょう。良い機會だから本來の自室でこれまでの自分について反省して來なさいよ」

「……かしこりました」

王様の圧倒的な強さに殿下もたじたじだ。

陣を追い払った浴場で、王様は迫力のあるオーラを背負って私の前に立ち塞がった。

「さぁ、ぐわよ」

湯浴みはもはや決定事項のようだ。準備は萬端、そして王様の迫力。

ならば――甘んじてけようではないか。

でも。

「自分で出來ます!」

水気で重たくなったエプロンの結び目を解かれてついを引いてしまった。

王様――じゃなくて王妃様に浴のお手伝いなんてされたら、この社無しの私のは圧死してしまう。

「あら。貴、元は侯爵家のご令嬢よね? 湯浴みのお世話なんてされ慣れてるのではなくて?」

「そんな事はありません!」

崖っぷちで獅子に追い詰められているシマウマのごとく、じりじりと壁際に追い詰められていく。制服のボタンをおさえる手がカタカタと震えているのはもはや寒さのせいだけではなかった。

「じゃあ本當に自分でやっていたの? ……マーブル侯爵は何を考えているのかしら。……まぁいいわ。ちょっとぉ貴! 聖なんだからボタンから手を離しなさい」

「そんな! いい子なんだからみたいな言い方で言われても!」

「うふふ。貴けっこう口ごたえするのね。嬉しいわ。そういう生意気な娘、大好き」

――強い。

抵抗むなしくに張り付く制服を強制皮させられた直後、王妃様は私の腳に巻き付く明なスライムを発見した。

とてもびっくりした様子で、驚きのあまり後退した勢いで浴槽の中に背中から落っこちていった。

ここまで非常にフワフワした主人公で來ましたが、この王妃様との対話を通じて自分の意思を強く持ってもらいたいと思っております。

どうか、見守って下さい。

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