《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》自立の必要

國王夫妻の案により、王太子殿下の部屋の扉が開かれる。

その瞬間目にって來たのは、片足を鎖に繋がれた白銀の鷹だった。

……白銀の鷹……?

「あれっ!? ランラン!?」

セシル殿下が聲を上げた。

やっぱりそうよね!? ランランよね!?

「兄上! こちらに居られるなんて珍しいですね!」

「ああ、々あって……。ていうかベニー、それどうしたんだよ」

セシル殿下よりも格ががっしりしている黒髪の王太子殿下は、陛下に禮を取ったあと得意げにランランを腕に乗せて見せてきた。

「本日の鷹狩りで偶然見付けたのですよ。どうですか、この突然変異としか思えぬしさ。とても大人しくて近付いても逃げなかったので、抱えて連れ帰って參りました」

あちゃー、とセシル殿下が小聲を出した。

どうやら塔から走していた様子。

陛下は慌てて足元の鎖を外しにかかっている。

「父上!? なぜ外すのですか」

「あー……、これから説明するが、この子は鷹ではないのだよ。浄化された魔獣――いわば聖獣だ」

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「聖獣!? いやだって、浄化って言ってもどうやって――」

その時ふと王太子殿下の視線がこちらに向いた。

ざっと上から下まで視線が走り、それから困したように國王夫妻へと目を移していく。

「……あの、そちらのご令嬢は……?」

「その話をしに來たのだよ。先日ついに聖が現れたのだ。それがこちらのご令嬢、ステラである」

紹介をけ、私は深くお辭儀をした。

鎖を外されたランランは翼を広げ、こちらに向かって飛んできて肩に止まろうとしてやっぱり頭の上に腳を下ろしてくる。なるべく爪を立てないように気遣ってくれているらしい。

驚いた顔の王太子殿下はが開きそうなほどこちらを見つめた後、しばらくして突然噴き出してしまった。

「ぶはっ……! ご令嬢の頭の上に、鳥が乗ってる……!」

「こらっ! 笑うところではないだろう! ……フフッ、いや、失禮」

王太子殿下をたしなめつつ、こちらを見た陛下も噴き出した。

そ、そんなに変な格好かしら……?

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隣からセシル殿下がそっとランランを引き取り、抱っこしてくれた。

慣れた場所におさまったランランはつぶらな瞳を閉じて、快適そうな表でおやすみの勢にる。

セシル殿下はランランを抱っこしたまま王太子殿下の近くに歩み寄り、ソファーに腰を下ろした。

「……久し振りだな、ベニー」

「――はい。お久し振りです。兄上。お元気そうで何よりです」

王太子殿下は心なしか嬉しそうな表でセシル殿下の隣に座り、陛下と王妃様も向かい側に座った。この王家、々あっても家族仲は悪くないようだ。

私も王妃様に手招きされ、王妃様の隣に座った。

そして一連の流れが説明された。

「――ふーん。マーブル侯爵がねぇ……。前妻との娘を現妻の娘とすり替えようとしてる、ですか。それは予想が付かない事ですね。メリットが皆無の割にリスクが高すぎません?」

「今の話で反応するのはそこなのか? ……いや、分からないでもないが。それなりに地位のある男がこんな事をしようとする原因など一つしか思い浮かばないが、それはまぁ今は置いておこう。とにかく、こちらのステラ嬢が浄化を得た結果、これまでの聖伝承とは違う出來事が次々に起きているという事だ。ランランちゃんもその一つ。どうやら魔獣の時と変わらず、瘴気を取り込んで長するらしい」

「とんでもない話ですね。それでこんなに懐くなんて……國が強くなりそうだ」

何気ないその言葉に、先ほど王妃様が話してくれた“道”にされると言う言葉が脳裏をよぎった。

悪意があって言っている訳でもなんでもなく、ごく自然に出た言葉だからこそ真実味が増していく。

これは確かに、確固たる自分の意思を持たない限り、私は著実に王家の道になっていくのだと思った。

命令が“良い事”ならそれでも構わないかも知れない。でも、その判斷が今の私に出來るだろうか……?

きっと難しい。

王妃様のおっしゃった通りだ。私は世界を知らなすぎる。

「――それでは、俺も浄化を見てみたいのですが。良いかな、ステラ……様?」

「どのようにでもお気軽にお呼び下さいませ。えぇと……、では、予定通り室の調査をしても構わないでしょうか?」

「調査?」

「おお、そうであった。ここに來た目的の一つは瘴気石の回収であった。ベネディクト、構わないな?」

「あぁ、なるほど……。いいですよ。全て見付け出してくれるなら助かる」

許可を得て室を観察して回る。

普段はそこらじゅうをうっすらと漂う瘴気だけど、浄化をに付けて以來、意識を集中して焦點を合わせると僅かな流れまでよく見えるようになった。

初日のセシル殿下の周囲くらい濃ければ意識しなくても見えるけれど、あんな場所は他にない。ここでは集中する必要があるのだ。

「あぁ……、ありました」

「もう!? 早いな……。さすがだ」

の下の隙間。置き時計の中。裝飾品をれる箱の奧。そして壁に掛けてある絵畫のキャンバス全など。全部で十三箇所見付けた。

多い。

「こんなにあったのか……。ベニー、お前大丈夫なのか?」

セシル殿下が心配そうに聲を掛ける。ベネディクト殿下は笑って答えた。

「俺も兄上ほどではありませんが、耐はある方なので今のところは平気です。でも……この絵から瘴気が出るとはどういう事だろう。思い起こせば確かに、この絵から恐ろしい怪が出てくる夢はよく見ていましたが」

初めてのパターンだった。

王太子殿下が生まれる前から部屋にあったというその絵はどこかの湖が描かれたしい風景畫で、石からというよりもキャンバスそのものから禍々しい気配をじるものだった。

セシル殿下は絵の前に立ち、腕組みをして考え込む。

「この絵は確か……何代も前の王太子が立太子の祝いとして獻上されたものだったな。ステラ、本當にこの絵全がそうなのか? どこかに石が隠されているとかじゃなくて?」

「はい。キャンバス全からですね。……いえ、すみません。良く見ると影のところが特に強いようです」

すると陛下が確信を得たように頷いて言った。

「それはあれだな……。絵のに石を砕いたを混ぜたのではないか? 瘴気の石は黒いから、の明度を下げるだろう。影から強く出るのはそういう事ではないだろうか」

その言葉に、セシル殿下は顔をしかめた。

「なるほど。……おぞましい事をする奴がいるなぁ。そんな絵が何代も前からずっとここに――。よく皆平気だったな」

「全くだ。これが風景畫だったのが功を奏したのかも知れぬな。瘴気と同化しやすい――例えば、戦の絵だったらもっと影響力を持っていたと思うが」

「同化……」

聞いたことがある。

瘴気は二種類の質を特に好んで寄っていくと。

一つは“救済”、もう一つは“同化”だ。

例えばセシル殿下には“救済”も“同化”もどちらもじさせるものがある気がしている。ご本人には言えないけど。それであそこまで引き寄せてしまっているのだと思う。

絵畫も同様に、瘴気が好むモチーフが描かれていると引き寄せやすくなる――らしい。

つくづく思う。瘴気は生きだと。人と同じようなを持っていている。

王家とはそういった様々なを呑み込んで大きくなった家で、王家の人々みんなに強い耐があるのはある意味必然にも思えた。

「……と、とにかく浄化しちゃいますね」

「ああ。頼む」

王太子殿下が頷いたのを確認してからキャンバスにれる。

皆が見守る中浄化を発すると、私の手が置かれた部分から波紋が広がるようにが変化していった。

「おお……!」

嘆の聲が上がった。新しく生まれ変わったキャンバスには影の部分にさまざまなが浮かんでいて、まるで虹を通して見た景のような――しい、不思議な雰囲気の湖が広がる。

「まぁ、綺麗ね」

「……そうだな。魔獣も喜んでおる事だろう」

國王夫妻はキャンバスの前に並んで絵を眺め、それぞれに思いを口にした。

「これが浄化か……。素晴らしいな」

ベネディクト殿下がそう言ってこちらを見る。

鋭さのある視線にし値踏みするような気配をじてしまい、そちらに顔を向けることが出來ない。

さりげなくセシル殿下のに隠れて視線をやりすごした。

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