《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》【改稿済み】☆聖原理主義者はめんどくさい

引き続き妹視點です。

著替えを済ませてお茶會に戻ると、お嬢さま達はすっかり落ち著きを取り戻して公爵家のお嬢さまとテーブルを囲みおしゃべりに花を咲かせていた。

話題はやっぱりさっきの第一王子様の件だ。わたしはさりげなく端の席に座り、ティーカップを傾けながらお話に耳を澄ませる。

「――では、マルツェリーナ様はセシル殿下とは舊知の仲だったという事ですのね。お人が悪いですわぁ。あのようにしっかりしたお方だと知っていれば、わたくしもお見合いを申し込みましたのに」

マルツェリーナ様とは公爵家のお嬢さまのことだ。王太子殿下の婚約者さんで、この中で唯一、あの第一王子様と面識のあるらしい人。

興味津々のお嬢さま達にマルツェリーナ様は苦笑いを浮かべる。

「舊知と言っても顔見知り程度ですわよ。ご挨拶以上の會話をしたことはありませんし……。それにしてもし見ない間にずいぶん健康的になったご様子でしたわね。前はもっと亡霊みたいなじだったのですけど」

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「亡霊ですって!? またまたぁ」

ご冗談を、ときゃあきゃあ盛り上がるけれど、マルツェリーナ様の目は笑っていなかった。

「本當に……。見違えるようでしたわよ。顔が良かったし、近くに來られても誰も調が悪くなりませんでしたし……。いったいどうなさったのかしら。――あのメイドが何かしたのかしら。そうね、何かのスキル持ちならあるいは――」

「あのメイド?」

メイド……。誰のことかしら。何人もいるから分からないわ。

「メイドですか? どちらのお方ですの?」

お嬢さまのうち一人もわたしと同じ疑問を持ったようで、周囲に控えるメイド達をぐるりと見渡しながら訊ねる。

マルツェリーナ様は答えた。

「殿下に付いていたメイドですわよ。もう行ってしまいましたわ。……それにしても妙ですわね。セシル殿下の調を整えることが出來るほどのスキル持ちなら、準聖としてここにいてもおかしくないのに。知らない顔だった……。どちらの家のご出なのかしら。どこかで見たことがあるような気がするのだけど……」

そこまで言って彼はハッとした表になり、しばらくのあいだ一點を見つめてそれからゆっくりとこちらに視線を寄越した。

「…………マルツェリーナ様……?」

明らかに様子がおかしい彼に、周囲のお嬢さま達が怪訝な表を浮かべる。

の視線を追って數人がわたしに目を向けた。

その中の一人、なんていったかしら……忘れてしまったけれど、どこかの侯爵家のお嬢さまが扇を口元に當てて言った。

「あ、あら……。ステラ様。お著替えから戻っていらしたのね。……相変わらず素敵な趣味でいらっしゃること。シャンデリアのように飾りがたくさん付いてますけれど、眩しくないんですの?」

クスクスと笑いが広がる。

何が面白いのかしら……。

趣味って言うけど、この中ではわたしが一番若いのよ?

みんな十六歳十か月から二十歳手前くらいの年上じゃない。

地味なドレスを著るしかないような歳の人からは趣味に見えるのかしら。集団で若いの子をからかうなんて……ひどいわ。

「皆さん、おやめなさ――」

マルツェリーナ様が何か言いかけた時、生け垣の向こうから慌ただしい足音が響いてきて會話が止まった。

お茶會の會場に駆け込んで來たのは人呼んで氷使いの貴公子――カイル様とその取り巻き達三人組だ。

カイル様は宰相の跡取りで、スキルの通り氷のような淡い青の髪の人。

人當たりが冷たいと評判だけど、わたしにはいつも親切にしてくれるの。

マルツェリーナ様は落ち著き払った聲で話しかけた。

「あら、カイル様。そんなに慌ててどうなさいましたの?」

「……準聖たちを労う會に魔獣が現れたと聞いて――飛んで來た。魔獣はどこに?」

「もうとっくに退治されました」

「そ、そうなのか……? 護衛が手出し出來なくて結構な騒ぎになっていると聞いたぞ。どういう事だ?」

「セシル殿下が倒して下さいました」

麗しの王子様のお名前が出た瞬間、カイル様は不意を突かれたような顔になる。

「セシル殿下が、ここに? 來たのか? 本當に?」

「噓をついて何になるんですの? ……まぁ、もしかしたらセシル殿下だけではないかもしれませんが」

「どういう事だ?」

「何でもありませんわ。それより、ご用がそれだけならもう解決しておりますからどうぞお引き取り下さいませ。せっかくのお茶會ですのに、そのような怖いお顔の方が混じりますと準聖たちがおびえてしまいます」

するとカイル様はフンと鼻を鳴らした。

「……準聖か。を飾り立ててお菓子を摘まむことが準とはいえ聖の活とはずいぶん気楽なものなのだな。……そればかりか君たちは本の聖の末裔に意地の悪い事を言って楽しんでいるらしいではないか。なんとみっともない」

「まぁ。どこの誰がそのようなことを?」

明らかにムッとした表でマルツェリーナ様は訊ねた。

……やだ。それ、わたしが言ったの。

でも事実よ。ちょっと大げさにはしたけど。

だって、相談すると男の人はみんな優しくなるから。

「誰が話したのかなど関係ないだろう。そのように言われてしまうような言をする君たちの問題なのだから」

カイル様はそう言いながらごく自然な作でわたしの隣に座ってきた。

途端にマルツェリーナ様をはじめとしたお嬢さま達の纏う空気が張したのが分かる。

「……カイル様。なぜお掛けになったんですの?」

「せっかくの機會だから準聖たちがどのような話をするのか聞いてみたいと思ってね。どうぞ、私のことは気にせずおしゃべりを続けるといい」

「無茶をおっしゃいますのね……」

マルツェリーナ様は呆れた顔でティーカップに口をつけた。

お嬢さま達もつられてそれぞれのお茶を飲み始める。

微妙な空気の中でわたしはカイル様のほうをチラッと見てみた。

するとカイル様はパチッとウインクをして見せてきたから、この方はもしかしてわたしを助けたつもりでいるのかしらと思った。

あのねカイル様。下手すぎよ。

あんな言い方したら反を買うに決まってるじゃない。

このお方、お顔は素敵だしわたしには優しいけどコミュニケーション能力に難があるのよね。

地位と顔でどうにかなっているだけの人だ。

ついでに聖を崇拝しすぎなところがあってちょっと面倒くさい人でもある。

原理主義者は、準聖に當たりがキツい。

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