《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》【改稿済み】☆おじさんという生きの背中から漂う哀愁
引き続き妹視點です。彼目線は今回でいったん終了。次からまた主人公視點に戻ります。
「――それでは皆さん。“次期宰相様”が聞いてくださるせっかくの機會ですから、準聖としての活をわたくしにご報告くださらないかしら」
マルツェリーナ様はお茶を置いてお嬢さま達に水を向けた。
すると薬師のスキルを持つケリー様が先陣を切って話し出す。
「おそれながら……私は薬師のスキルを使ってポーションをたくさん作りました。近年は瘴気が濃く薬草が不作続きで苦心しておりますが、スキルレベルを上げていたおかげでなんとかそれなりの治癒効果を保てております」
「まぁ、素晴らしいですわ。ケリー様の作ったポーションは騎士団で重寶されているそうですね。騎士達だけでなくたくさんの民の命を救ったことと思います。これからも頼りにしていますよ。――……ジェニファー様はいかが?」
「わ、わたくしですか? ええと……わたくしは気象の変を予測する“天読み”のスキルでアマンド地方の治水を今年中に見直すことを議會に提案いたしました」
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「まぁ……! なんて素晴らしい!」
準聖の中でも規格外の有用さを誇るジェニファー様にお嬢さま達の賞賛が集まる。
確かに凄いのよね、ジェニファー様のスキルって。レベルが上がるごとに読める範囲が広がっているようだし……。
いつも思うけどスキルって本當に不公平だわ。格差がすごい。
本人の資質に関連したものが與えられる傾向があるそうだけど……高位貴族だろうとなんだろうと外れる時は外れるし、何も與えられないパターンもそれなりにあるものだからスキルで人を評価するのは(表向きは)いけない事だとされているらしいじゃない。
そんなの、いくら規制しても無理よねぇ。
実際にこうして未婚のの子で人の役に立つスキルの持ち主は準聖なんて呼ばれて特別扱いされているし。
いちおう結婚したらその稱號は名乗れなくなる決まりだけど……。
これって偉い人達が結婚前の娘の価値を高めたいってだけで立している制度よね。
わたしはセシル殿下と結婚しても準聖を名乗りたいわ。
それからも準聖のみんなはそれぞれの功績を語り、最後にわたしの順番がやってきた。
「――それで、聖の末裔たる癒しのステラ様はどのようなご活躍を?」
わたしはなにげなく答えた。
「わたしは最近睡眠が不足しているお父さまに癒しを與えてあげました」
「それだけ……ですの?」
「はい」
「あら……そう。――まぁ、どのような容でも人のためにスキルを使うのは尊いことですわよね。それが天から授かった能力に対するわたくし達の取るべき正しい姿勢ですから」
マルツェリーナ様の言葉に皆がうんうんと頷き、空気が緩んだところでこのお茶會はお開きの空気となった。
みんながご挨拶をして解散していく最中、カイル様はわたしの前に跪き、手を取って甲に口付けをしてくる。
そして顔を上げて眩しそうに目を細めて言った。
「今日はお目にかかれて嬉しかったです。またお會いできる日を楽しみにしています、私の聖様」
カイル様の中でわたしは聖そのものらしい。原理主義者は縁に弱いようだ。
確かに、わたしは準聖でありながらわたしのお母さまが先代の聖を出した家の出らしくて。
彼が丁重に扱ってくれるのはそのせいなのだ。
なんでもお母さまは政略結婚が嫌で隣國から逃げてこっちで踴り子として生計を立てていたところをお父さまが見付けた――らしいんだけど。
でも誰にも言うなって口止めされているのよね。普通に結婚してこっちの國に來たってことで世間では通っているらしい。
そんなお母さまは社が苦手なのか、こういう場には一切出てこないし貴族の友人も一人もいない。
調が良くないんだって。でも本當かしら。ご飯はしっかり食べるし辛そうな顔もしたことないし、それどころかたまにお父さまがいない日があると家を抜け出して下町で遊んでいるのをわたしは知っているのよ。
お母さまは実は踴り子がに合っていたのねって思ってるんだけど……お父さまにバレたら大変よね。
黙っておくのが吉だわ。
カイル様が手を離すと、召使いさんがススっと近寄ってきて話しかけてきた。
「ステラ様、帰りましょう」
「はぁい。ではカイル様、ごきげんよう」
嬉しそうに微笑む氷の貴公子に手を振って馬車へと足を向ける。
カイル様には悪いけど、わたしは貴方とは結婚できないの。だってわたし、運命の人と出會ってしまったから。
セシル様。これって、お父さま公認のお付き合いになるのよね。
今までどんな人でも反対してきたお父さまが初めて薦めてきた男の人が、わたしの初の人。
本當に運命だわ……。素敵。
うっとりしながら馬車に乗り込み、家路につく。
王宮からほど近いマーブル家のタウンハウスに著き、召使いさんが開けた扉からエントランスにった。
「……あら」
気のせいかしら。なんだか召使いさんがフラフラしているわ。
「貴、大丈夫なの?」
「……はい。最近すこし夢見が悪うございまして……あまり眠れていないのですが、お仕事には差し支えありません。大丈夫でございます」
「そう」
眠かったのね……。ダメじゃない。仕事中に眠くなるなんて怠慢だわ。わたしだってお晝寢は二時間までって決めてるのに。
もっとしっかりしてもらわないと。ちゃんと召使いさんの指導してってお父さまに言っておかないといけないわよね。
ああそれと、今日のお茶會で運命の出會いをしたことも報告しなくちゃ。
意気込んでお父さまのお部屋に行き、扉を開ける。
すると見慣れない長い銀髪のおじさんが飛び上がってこちらを見た。
「だだだ誰だっ!? ……なんだフィオナか」
「あら? お父さまじゃないですか。誰かと思いましたわ。なんですか、その頭」
「か、カツラだよ。マリアンヌ用の。ちょうど良いの銀髪が売ってたから、買ったんだ」
「ちょうど良い……?」
その長い銀髪のカツラはさらさらとをたたえる絹のような質で、の角度によってはし青みがかって見えて綺麗だった。
まるでお姉さまの髪みたいだわ、とも思った。
なぜそのがちょうど良いのかしら。……というか、なんでお父さまが被っているのかしら。
マリアンヌはわたしのお母さまの名前なんだけど、お母さまに買ったカツラをなぜお父さまが……?
「どうしてお父さまがそれを被ってるんですか?」
「…………フィオナ。大人はね、時にこうして違う自分になってみたいと思うものなのだよ」
「そうなんですか」
よく見たら不格好ながら小さな三つ編みがあって、それを縦結びのリボンがきゅっと縛っている。
セットがいくらなんでも下手すぎる気が。まさか――お父さまがこれを自分で?
「それよりもフィオナ、人の部屋にる時はきちんとノックをしなさい」
三つ編みリボンのおじさんに常識を教えられてしまった……。
「はい。次からはそうします。……あの、もしよかったら、わたしのドレスを貸しましょうか?」
するとお父さまは悲しそうな顔をした。
「らない」
「……そうですね」
さて、わたしは何をしにここに來たんだったかしら……。忘れてしまったわ。出直そう。
「また後で來ますね」
「うむ。そうしてくれたまえ」
威厳たっぷりに頷くお父さまを部屋に殘し自室へと向かう。
――なんだか最近、家の中が暗い気がするわ。召使いさん達もきがやけにのろのろとして緩慢だし。
わたしまで気が滅っちゃう。
……いやぁね。お茶會で疲れたし、夕食までお晝寢しましょ。
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