《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》【改稿済み】葡萄の味

まずいことになってきた。

ランランが巨大化してきているのだ。

聖獣化してからおよそ半月、最初の數日こそ手のひらにすっぽり収まるサイズだったランランはあっという間に長し、鷹サイズを経て今じゃ塔の部屋の窓をぎりぎり通れるかどうかくらいの大きさになってしまった。

このペースで長していったら部屋から出られなくなる日もそう遠くない気がする。

筋トレしてくると言って外出した殿下が戻られたところで、この懸念を伝えてみた。

「どうしましょうか……」

「大きくなってきたもんなぁ。そろそろ室飼いに限界が來そうだ……。分かってた事だけど、でもどうにも出來ないよな。父に相談してみよう」

「そうですね」

外で飼うなら“この子は聖獣です”という周囲への説明は絶対に必要になる。

これ以上大きくなったらどう見てもただの鳥ではないと一目瞭然になるのだから。

「――という訳で、父上。どうしましょうか」

お晝過ぎ頃、今日も手土産を抱えて塔にやって來た陛下に殿下は訊ねた。

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ランランのお腹に顔を埋めた陛下はしばらくそのまま停止したのち、ゆっくりと顔を上げる。

「うむ。そろそろ仕掛け時だと思っていたところだ。段取りを整え始めよう」

「というと?」

「マ―ブル侯爵の辺の調査について目途が立ってきたのだよ。まぁ、おおむねセシルの言った通りの容ではあったが……よくぞここまでタチの悪い事をしてくれたものだという想しかない」

陛下のお言葉に、私は知らず知らずのうちに張でが固くなっていた。

陛下がお持ちになった葡萄や林檎などをお皿に盛り付ける手がカタカタと震える。

それに気付いたらしい殿下はそっと私の肩に手を置き、後ろに引っ張ってきた。

「……ステラ。俺がやるよ。座ってな」

「いえ、そんな訳には」

「いいから。はい口を開けて」

無意識に言う通りにしてしまい、パカッと開けた口に一粒の葡萄が押し込まれた。

に広がる甘酸っぱい香りと味に、張がふっと和らぐ。

「おいしい?」

もぐもぐしながら頷くと、殿下は満足そうな笑顔で頷き返してきた。

手の震えがおさまった……。すごい、殿下。凄い。

「あの―……私がいる事を忘れて貰っちゃ困るんだが……」

陛下が困ったような聲を出した。

いえいえ、決して忘れてなんておりませんが!?

殿下は果を載せたお皿を運んでいき、雑な作でどんとテーブルに置く。

「それで? 調査の結果は的にはどのようなじだったんです?」

「ああ。まずはステラ嬢の母君の件だな。――結論から言うと、王宮にマーブル侯爵が再婚したという報告はっていない。つまり、ステラ嬢の母君は今も生きている事になっている。……書類上は、な」

あまりの容に頭がクラっとした。

怒りなのか悲しみなのかよく分からないが、心の底から込み上げてくる。

殿下が予想していた通りだった。お母様は、あの義母様に肩書きを利用されている。

親しい人に見送られることもなく、ただ地中に埋められた時から今までずっと――。

「正直、私もこんな事をする者が存在するのかと驚いておる。貴族の家には何かと爭いが付きだが、だからこそ最も信頼できる仲間であり後ろ盾でもあるはずの妻を平民の踴り子とれ替えるなど、思い付く事すら出來ぬ。

その……後妻? は、ずっと調不良だと言って表に出てこなかったのだが――、なんの事はない、出れば別人だとバレるからだな」

「娘は社の場に出て來ているんですよね?」

「ああ。私も見たことはあるが、あの娘は髪のがマ―ブル侯爵と同じだからな。侯爵自ら“この子が我が家の一人娘です”と紹介して來ればこちらは疑う理由もない。あの娘、名前もステラと名乗って準聖として活しておる。もはや完全にれ替わっているのだな……。ステラ嬢は期以來、社の場に出たことがないと言っていたな?」

不意に話を振られて、咄嗟に聲が出ずに無言で頷く。

期に數度目にしただけの子どもなら、年齢がさして違わなければ他の子どもとれ替わっていても社界の者はなかなか気付けぬ……。貴族が王都に集まって顔を合わせるのは一年間の中でも社シーズンの限られた期間だけゆえな。その上、児の髪はセシルもそうだったのだが長に従って濃に変化していく事がある。……気付けなくて、すまなかった」

ぶんぶんと頭を橫に振った。

これは私も不甲斐なかったのだ。

お父様が怖かったのは事実だけど、やられっ放しだった自分が一番けない。

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