《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》☆小さな頭

引き続き侯爵視點です。

最後に別作品ですがコミカライズ開始のお知らせがございます。ぜひ…!

それから私はマリアンヌの言う通り、妻の寢に瘴気石を仕込み始めた。

直接れないように、小さな布に包んでこっそりと。

罪悪は薄かった。もしも彼が潔白なら、聖の末裔なのだからこの程度の瘴気に負けはしないだろうと何の拠もなく決め付けていた。

案の定妻はどんどん弱っていき、私は(それ見た事か)と冷めた思いで見ていた。

しかし、ステラが近くにいる時だけは気丈に振る舞い笑っていたようだ。母としての意地かと思ったが、どうもそれだけでは無いような気もした。

本當にが楽になっているように見えたのだ。

ただそれも一時的な事。

階段を一段ずつ降りていくように妻はしずつ起きている時間が減り、筋力が落ち、やがて歩くことすら困難になった。

その隙を見て私はステラがけるはずだったスキルの儀を、フィオナにけさせた。

水晶玉が眩しくり“癒し”と文字が浮かんだ時、まさにマリアンヌの質そのものなフィオナのスキルに私はすら覚えた。

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フィオナに儀式をけさせて良かった。まさか私の娘が準聖になるとは。

“妻”も喜ぶだろう。私の選んだ道は、間違っていなかった。そう思った。

それから數か月。意外と長く粘った妻も、とうとう息を引き取る時が來た。

私は執事以外の使用人を、理由をつけてはれ替え始めた。簡単には替えられない執事には

“お前の息子が我が家の金庫に手を付けているようなのだが”

と言って、見逃す代わりにこれから私がする事に協力するように言い付けた。

奴の息子が金庫に手を付けていたのは本當だ。ただ、彼がやりやすいようにわざわざ金庫の扉を閉め忘れたり、その金庫がある部屋にうっかり忘れをして度々取りに行かせたりなどの工作があったのは否定しないが。

協力者を得た私は裏に妻を葬り、マリアンヌを“妻”として、フィオナを“娘”として家に迎えれた。

あぁ、これでようやく本當の家族と暮らせる――。

そう思った時、ふと、ステラは本當に不義の子なのだろうかという思いが浮かんだ。

目的を達した瞬間冷靜になるのはなぜなのだろうか。ずっと頭にが上りっぱなしだったのがようやく落ち著いたせいで、気持ちに余裕ができたのかもしれぬ。

しかし、もう“やって”しまったのだ。後戻りなど不可能。そうだ。あれは私の娘ではない。

それからの私はステラを見るのが怖くなってしまった。

ことさら厳しく當たり、自室に籠るよう仕向け、自分の罪から目を背け続けた。

そして年頃になったステラの結婚相手にと社界に出られぬ沒落貴族の次男を用意し、金と仕事を世話する代わりに我が家の“”――隠し子をれてくれと頼んだ。

なに、隠し子がいる貴族など珍しくもなんともない。これは貴族社會にはよくある普通の“お願い”だ。

ろくに教育をけていないその男は犬のように頷いていた。隠し子とはもちろんステラのことだ。

市井に放り出す事も考えないでもなかったが、親子として過ごしたわずかな思い出が追放を思いとどまらせた。

そう、私とて初めからステラを憎く思っていた訳ではないのだ。

首も據わらぬ飲み子だった頃から、ようやく歩き始めて“おとーたま(お父様)”と呼び掛けてきた頃までは、私と似ていない子だと思いながらもそれなりのじていた。

が憎しみに転じたのは、マリアンヌに見せてからの事。

憎しみと、この二つの間で私はおかしくなっていた。全てを肯定してくれるのはマリアンヌだけだった。

ステラから目を背け、無視しながら時に厳しい言葉をかける。その一方で教育だけはしっかりけさせたのは、せめてものけのつもりだったのだろうか。自分でも分からない。

ただ、誰か私ではない人間が、ステラをしてやってほしい。そんな思いが心のどこかにあったように思う。

修道院に逃げたステラをマリアンヌはたいそう不安がった。あそこから全てが呈するのではないかと恐れたのだ。

私とて同じ気持ちだ。しかし、もう限界だという気持ちも否定できなかった。

踴り子の淺知恵に乗って妻を死に追いやり、家族をすげ替えてしまった。あの時點で私の破滅は決まっていたのだ。

こんな事、いつまでも誤魔化し続けられるものではない。

でも、仕方がなかった。あの頃の私には、そうする以外に救われる方法が思い付かなったのだ。

今の私ならどうするだろうか。……きっと、妻に本當の事を話してくれと願っただろう。

ーーああ、そうだったな。私は、妻と何も話し合ってこなかった。

解決すべき問題から逃げて、人の甘い言葉にばかり依存して。

依存先を失いたくないばかりに馬鹿な事をしでかした。

――しかし、後悔するにはもう何もかもが遅いのだ。私に出來ることは、このまま悪の道を突き進むことのみ。

“あのを連れ戻そう”

といきり立つマリアンヌを適當な言葉でなだめながら、

(君はもはや運命共同なのだよ。私と共に最後まであがこうではないか)

と心の中で語り掛ける。

破滅の道も一人ではないと思うと気が楽だ。もはや妻よりも長い時間を共に過ごしてきてしまったマリアンヌは、馬鹿でろくでもない。けれども、救いでもある。

共に地獄に落ちよう。そう思うと、どんな愚かな言でもけ流すことが出來た。

きっと私にふさわしいなのだろう。どうしようもなく愚かで、狡くて、高い地位に見合わぬの小さな

を表舞臺に出さないことにはフィオナを王族と結婚させるのは難しい。だからこの青みの銀髪のかつらを手した。妻と、ステラとそっくり同じの髪を。

マリアンヌに妻の仕事など無茶もいいところだろうが、フィオナを守るためには王族に嫁がせるしかない。

王族の子を産みさえすれば、私達が破滅してもフィオナは助かるだろうから。

♢♢♢

私が弄ってもつれてしまったかつらの髪を、切れないように手で優しくとかす。その時ふと、赤ん坊のステラの頭をでた記憶が甦って切なくなった。

あの子の頭をでた記憶など赤ん坊の時以來存在しない。あの子も覚えてはいないだろうが、一瞬とはいえ私達にもそんな時があったのだ。

大きくなったなぁ、と、かつらの髪に向かって語り掛けてみる。

もちろん返事はない。

なぜか、し泣きたくなった。

次回から再び主人公視點に戻ります。

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