《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》の義母になるんだからわたくしは聖母で差し支えないわよね

瘴気の石にれ、浄化を発する。

崩れていくマロンのを殿下が再構築すると、白銀のリス型聖獣に生まれ変わった。

マロンはふわふわのシッポをくるんと丸め、手のひらにすっぽりと収まって眠っている。それを見た瞬間ケリー様は口元を抑えて膝から崩れ落ちた。

「まぁ……! これが魔獣の浄化! 本當にそんな事が可能だったなんて! 信じられませんわ! 私は奇跡の瞬間に立ち會ってしまったのね! ステラ様。私、今とてもしています……!」

瞳を潤ませるケリー様を見て、王妃様はしゃがんで目線を合わせた。

緒の忙しい子ね。し落ち著きなさいな。まぁ、気持ちは分かるけど? ……そうよね、陛下の言を見た直後に魔獣が聖獣に変わるところまで見てしまったら常識の揺らぎくらいじるわよね。

いいわ。とっておきの事実を教えてあげる。ケリー、この聖はねぇ、歴代でも類を見ないほどの力をめた大聖なの。その大聖を手中に収めたのは? ――そう、わたくし」

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あのお二人は何をしているのかしら……。見ていると、殿下が小聲で呟いた。

「価値観が揺さぶられた時って、洗脳の絶好のチャンスなんだって……」

「洗脳?」

なんだか騒な単語が飛び出してきた。

「ではあれは洗脳なんですか……? なんのためにそのような事を」

「さぁ……」

ケリー様が「王妃殿下は聖母様だった……?」と呟き始め、王妃様は満足そうな笑みを浮かべて立ち上がった。

こっちに顔を向けてきたので私達は咄嗟にパッと目を逸らし、あくまでも自然なじで手の上のマロンをナデナデする。

「わぁ、ふわふわ~」

「かわいいねぇ~」

「小さいねぇー」

どうしよう。せっかくの新しい聖獣の誕生なのに気の利いた言葉が出てこない。言葉を覚えたての児みたいな想しか言えない。こんなに可いのになぜ……?

「ステラ。セシル」

「は、はいっ!」

ぴゃっと姿勢を正して橫一列に並んだ。なぜか陛下も一緒に並んでいたけれどその件には誰もれず、三人とも訓練された従者のようにただ帝の聲を待つ。

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王妃様はゆったりと言葉を紡いだ。

「――畑、耕しましょうか」

……あ、そうだった。私達、ここに薬草畑を作りに來たんだったわ。

「わし、鍬と鋤持ってくる!」

真っ先に陛下がいた。

「私は小石や雑草などを取り除きます!」

「……じゃあ俺は地面をらかくしようかな」

実にスムーズな役割分擔が行われた。殿下が破壊スキルを裏庭の固い土へと発すると地面にひびがり、瞬く間に土がほぐされらかな土の畝が出來上がる。

私はマロンをエプロンのポケットにれて、掃除スキルと浄化スキルを同時に発しながら雑草を一株拾い上げた。

すると不思議な事が起きた。スキル範囲の雑草という雑草が、空中に溶けるように消えていったのだ。

「草が消えた!?」

ケリー様が聲を上げた。そう、れていないものまで消えたのだ。私もびっくりした。いつからそうなっていたのだろう。

最近は行範囲の狹さのせいで塵や埃くらいしか相手してなかったから、ゴミが消えるようになっていたなんて知らなかった。

「どこに消えたんです!?」

「ごめんなさい……。分かりません」

「えぇ……?」

ふっと雑草の消えた畝へと目をやると、聖域化してほのかにを放つ地面にはまだ小石がごろごろ転がっている。

あれ、掃除しなきゃいけないやつよね……。

そう思って一つ拾うと、やはりこれも雑草と同じようにスキル範囲の小石という小石が幻のように消えていった。

やだ。怖い。自分でやっている事なんだけど、どこに行ってしまったのか分からな過ぎて怖い。

パッと殿下を見ると彼はビクッと肩をこまらせ、スススッと後ろに下がって行った。

「なぜ下がったんですか?」

「いや、なんとなく……。消されるんじゃないかと思って」

「そんな事ある訳ないじゃないですか。……えっ? ないですよね?」

すると王妃様が答えた。

「それは知らないけど、あの子が自分をゴミだと思っている事だけは分かったわ」

「切なすぎです」

「そうね。だから、ステラ。セシルの事をよろしくね……」

なんて悲しそうな表……。

そうよね。我が子が自らをゴミだと思っているなんて、そんな悲しい事は無いわよね……。

なんだか私まで悲しくなってきたわ。

「はい。私めにお任せ下さい……。必ずや幸せにしてご覧にれます」

決意をに深く頷くと、ケリー様から“きゃっ”と悲鳴が上がった。

「素敵―! 相思相! ラブロマンス!」

「ち、違いますよ! ケリー様、これは慕とかロマンスとかそういうあれではなくて!」

「えっ……違うの?」

今度は殿下が悲しそうな顔をした。

「ああっ、違います! あの、違わないんですけど、違うんです」

「うふふ、ステラ様ったらお顔が赤いですわよ。そんなに照れなくてもいいじゃありませんか」

ふえぇ……。恥ずかしい。泣きたい。蹲ったまま頬を押さえると、王妃様とケリー様がきゃっきゃっと笑う聲が辺りに響く。そんな中ふと殿下が聲を上げた。

「あっ……。父上」

陛下? そうだわ。畑仕事の道を取りに行くとおっしゃって――戻って來られたのかしら。

顔を上げると、そこには庭仕事用の大きな荷車を引いてこちらに向かって來る陛下の姿が。

「凄い景ね」

王妃様の呟きに同意せざるを得なかった。

立派な服を著た王様が農を載せた荷車を一生懸命曳いて來る。一生のうち何度目にする機會があるか分からないその景を全員でじっと眺めた。

「おい……。セシル。見てないで手伝え」

「あ、ああ。はいはい。後ろを押せばいいですか?」

「いや。もうここまで來たのだから、荷を下ろしてくれればそれで良い」

殿下は荷車の後ろに回った。かと思うと積載を見て「あっ」と聲を上げる。

「父上。この大きい麻袋ってもしかして」

「そうだ。聖域を隠すように置かれていた腐葉土だよ。あれはお前達の仕業だろう。せっかくだし、畑作りには必要だろうと思って持って來たのだ」

「へー。まさかあれを自分達が使う事になるなんて思わなかったな。この土、ずっと聖域の上にいたのなら何か面白いものを生やしてたりしないかな」

「まさか。いくらなんでもそれは無いだろう」

「ですよねー。ははは」

お二人で笑いながら麻袋を荷車から下ろす。それから鍬や鋤などの農作業用道も――。

「いや、父上。これらは必要ありませんよ」

「何っ!?」

「耕すのはもう俺がやりました」

陛下は地面を見下ろし、がっくりと肩を落とした。

「お前……。どうして先にそれを言わないのだ」

「すみません」

「まぁいい。重かったけど寛大な心を以て許そう。私にはマロンちゃんやランランちゃん、それにポチもいるから多の事なら気にしないぞ。すごく重かったけど」

あっ、すごくに持っていらっしゃるわ……。

「で、マロンちゃんはどうしてる?」

癒しを求めておられる。そう察知した私はポケットに手を突っ込み、背中を丸めて眠っているマロンを差し出した。

「おぉ。まだ眠っていたか。よく眠りまちゅね~。いいんでちゅよ、手後はゆっくり休まないといけないでちゅからね」

そう言いながら小さなピンクの鼻先と額の間をこしょこしょでる。するとマロンちゃんはぱちっと瞼を開いて、綺麗な青い瞳にを宿らせた。

「あっ、起こしちゃいまちたか! ごめんねぇ~! マロンちゃんはリスみたいにシッポがふわふわでで本當に可いでちゅね~」

こんな調子の陛下にケリー様は早くも慣れたようだ。

「聖母様。陛下はがとてもお好きですのね。初めはし驚きましたけど、あのような振る舞いになってしまうお気持ちは私にもよく分かりますわ」

聖母様……。

「あら。ケリー。貴が好きなの?」

「はい。あまり大きかったり狂暴だったりするとさすがに恐ろしさの方が先に立ってしまいますが、あのくらい小さくてフワフワしたなら大好きです」

ケリー様もがお好きなのね。

私も好きなんですよ、ケリー様。

「……マロン。あちらのお嬢様――ケリー様にご挨拶しましょう」

手の上できょろきょろ辺りを見回すマロンに話しかけると、返事の代わりに嬉しい時のを通して伝わってくる。

急に元気になったマロンは私の腕を伝って駆け上がり、頭の上に乗ってぴょんとケリー様に向かって跳んだ。

「きゃあ! もう、びっくりしましたわ! ……ふふ、可い」

マロンをキャッチして優しくでながら微笑むケリー様。

小さな聖獣と理知的なお嬢様の組み合わせはとても目に優しい景で、思わず頬が緩む。

「……いいなぁ。私もになったら懐いてくれるのかな」

羨ましそうな表の陛下がぽつりと呟いた言葉に、王妃様は黙って首を橫に振っていた。

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