《【書籍化】誰にもされないので床を磨いていたらそこが聖域化した令嬢の話【コミカライズ】》☆マーブル家の現在

妹視點です

私は召使いさんにおのお手れをして貰うのが好きなの。

一日一回はお気にりのりの良いガウンを著て、熱めのお湯に浸したコットンの布で顔を蒸して、薔薇のオイルでマッサージして貰うのが習慣。

今日もそうして貰っていたら、お父様がやつれた顔でやって來て、

「フィオナ。悪いけど、し疲れたんだ。癒しのスキルを使ってくれないか?」

と言った。

「えー? 今忙しいんです。後じゃダメですか?」

「私も忙しいんだ……。今から王宮に行って、なるべく早くお前とセシル殿下の縁談を進めなければ」

「やります」

そういう事なら早く言って下さればいいのに。

私はお手れ用の椅子から起き上がり、お父様に癒しのスキルを使った。

土気だったお父様の顔がいくらかマシになって、背筋もしゃんとびる。

「さすが、フィオナの癒しはよく効くなぁ。準聖として立派にやってくれてパパは嬉しいぞ」

「うふふ。じゃあ早く行って下さいな。わたし、セシル様となら結婚しても良いかなって思ってるんです」

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「やっとその気になってくれて良かった。最近、し風向きが怪しくなって來ているのでな。急がないと」

「風向き?」

「う、うむ。どうも殿下に婚約者が出來たのではないか、という噂があちこちで」

「どういう事ですか?」

「あー……、殿下は最近急に元気になって、あちこちに顔を出すようになってきたという話なのだが……その傍らにはいつも同じメイドが付いていて、そのメイドがどうもただの使用人ではなさそうだと噂なのだよ。時折正裝で現れ、殿下と共に陛下や王妃殿下の私室にまでり王族と親しげに話しているらしい」

「まぁ」

お父様、陛下は忙しくて滅多に會って貰えないって言ってたけど……忙しいんじゃなくて、嫌われてるんじゃないかしら。

……って、そうじゃなくって!

殿下がお可哀相だわ。わたしじゃないと強引に婚約を結ばされるなんて……。ダメよ。助けに行かなくちゃ。

「お父様。わたしも行きます」

「……なぜ?」

「殿下を助けなくっちゃ。好きでもなんでもない人と結婚しなくちゃいけないなんて、不幸だもの」

「うぅむ……。それはそうなのだが……今日はやめておこう。また今度、な」

「どうしてですか?」

「どうしてって……今から支度したら何時間かかる? 明日になるのではないか?」

むぅ。

……確かに、わたしは今ガウン姿で顔はオイルまみれ。

王宮に行ってセシル様とお會いするなら、今からお風呂にって髪を直して、ドレスを厳選して著替えなくちゃいけない。

明日は大げさだとしてもそこそこ時間がかかる。

「……仕方ないですね。今日はおうちで待ってます。でも明日! 明日はついて行きますからね!」

「うむ。いいだろう。明日は早起きして目いっぱいおめかししておくが良い。今日はおが荒れないように、しっかり眠っておくんだぞ」

「はぁい」

「では、行って來る」

出て行こうとするお父様。その足元に小さな小さな黒い影が見えて目をみはった。

――あれは、ねずみかしら? 黒くて小さいねずみ。

「きゃああーっ! 旦那様! お、お足元に魔獣が!」

召使いさんがんだ。

魔獣!? また出たの!? 昨日は小鳥型だったけど今日はねずみ型!?

「何っ!? 早う、早う叩き潰せ!」

「ひいぃっ!」

召使いさんが自分の靴をいで思いっきり叩き潰した。スゥッと煙のように消えていく小さな魔獣に、全員がホッと肩の力を抜く。

「……最近、多いな。以前は一匹も出なかったし、それが我が家の自慢でもあったのだが」

「どうして急に出るようになったのかしら……」

「瘴気の濃度が上がっているのだろうな。……今は小さいのばかりで退治も容易だが、発見がし遅れると大変だな。魔獣は長が早いし、どの個も何かしらのスキルを使うから……戦闘向きのスキルを持つ人間でないと対応出來なくなる」

戦闘向き……。

スキルの種類はたくさんあるけれど、役に立たないがほとんどで更に戦いに向いているとなると本當にごく僅からしい。ちなみにお父様は“醸造”スキルの持ち主。

なにそれ、と思って訊ねたら、これはお酒を一瞬で作れるスキルだと教えて貰った。役に立つ方のスキルではあるけれど、戦闘には向いていない、とも。

「嫌……。怖いわ……」

「なぁに、セシル殿下がいればどんな魔獣が出ても一撃で倒して下さるだろう。あのお方にはなんとしてもフィオナと婚姻を結んで頂かねばな」

「……はいっ!」

嬉しい。お父様が全力で応援してくれている。きっと上手くいくわ。前向きに頑張っていれば、願いはいつか必ず葉うの。わたしはお母様からそう教わってきたし、実際にその通りだと思っている。

お父様が部屋から出て行くのを見送り、お手れ用の椅子に戻って使用人さんにマッサージの続きをして貰う。

――あら? なんだか召使いさんの顔の悪い気がするわ。

「どうしたの?」

「……申し訳ございません、大丈夫です」

「それならいいけど……なんだか最近みんなそんなじね。フラフラしてるし、表にも活気が無いわ」

「私もそのようにじております……。聞くと、日中は異様にが重く、眠れば夢見が悪い者が多いとか。これは瘴気の多い場所で長く過ごす人によくある癥狀です。お嬢様は大丈夫ですか?」

「わたし? ……そうね。言われてみればいつも眠い気がするわ。夢の事は覚えてないけど、わたしもそうなのかしら」

「もしかすると、もしかするかもしれません。……浄化の聖様が現れて下されば、きっとこのような事は無くなると思うのですが。早く聖様が現れると良いですね」

――浄化の聖、ねぇ。どんな素晴らしいスキルか知らないけど、わたしだって準聖として頑張ってるのよ。

何もしないどころか存在すらしていない人間を崇めるなんて、今頑張ってる人に対して失禮なんじゃないかしら?

マッサージをけながら悶々としていたら、また部屋の扉がコンコンとノックされた。

はぁい、と返事をすると、執事さんの聲で來客が告げられる。

「お嬢様。アルフレッド様がお越しです。……いかがなさいますか?」

アルフレッド様……。

お姉様の元婚約者。お姉様がいる時にはただ純粋にわたしに優しくしてくれる人だったけど、いなくなってからは急に「ステラはどこに行った!?」って怖いお顔で詰め寄って來るようになったのよね。

きっと今日もお姉様の手がかりを聞きに來たんだわ。もう婚約は解消されているんだから、追いかけても意味が無いのに。

「いないって言って下さる?」

わたしの話を聞いてくれないどころか、お姉様の事ばかり聞いてくるようになったアルフレッド様と會っても楽しくないの。

わたしは忙しいし、居留守を使わせて貰おうっと。

「……かしこまりました」

執事さんの返事を聞いて、安心して目を閉じる。

召使いさんのマッサージが微妙にツボを外しているのをじながらうとうとと眠気にを任せると、夢の中でアルフレッド様が「どこだ! ステラ! 出てこい!」とぶ聲が聞こえたような気がした。

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