《【書籍化】 宮廷魔師の婚約者》3 出會い

「……日差しが眩しい」

數日ぶりに浴びる太にヨロヨロとしながら、メラニーは校を歩く。

時折、廊下の向かい側から生徒たちがやってくるたびに、ビクビクと廊下の端に寄ってやり過ごした。

學校という場なのに、引き篭もっていたせいで、人見知りはますます激しくなっているようだ。

それにしても、生徒たちが通りすぎるたび、奇怪な目を向けられるのは何故だろうか?

メラニーは疑問に思うが、建の中なのにローブを目深に被り、ふらふらと歩く姿は奇行そのもので、悪い意味で彼は目立っていたのだが、殘念ながらそれを指摘してくれる人間はいない。

「……うう。怖いよ」

人の目が気になり過ぎて、メラニーの歩みは自然と早くなる。

その上、フードを目深に被っているものだから、視界が狹まってしまう。

よって、廊下の曲がり角からやってきた人とぶつかってしまうのは避けられないことだった。

「きゃっ!」

ぶつかった拍子に、せっかく書き上げた渾の論文が宙に舞った。

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「きゃあ! 論文が!」

メラニーは悲鳴を上げてしゃがみ込み、オロオロと散らばった論文を拾う。

「すみません、すみませんっ!」

「……」

ぶつかった人に謝りながら、床に散らばった羊皮紙を集めるが、運の悪いことに、開いていた窓から何枚か外に落ちてしまっていた。

「あ、あんなところにまで……」

更に悪いことに外は風が吹いており、メラニーの論文がひらひらと風に舞い飛んでしまっている。

「ど、どうしましょう……。取りに行かなきゃ」

「待て」

「えっ?」

急いで踵を返そうとするメラニーだったが、後ろから低い聲がかかり、驚いて振り返った。

メラニーを止めたのは先程ぶつかった男だった。

よく見れば、學生にしては歳を取っており、に纏っている服も學生制服ではなかった。

――宮廷魔師の制服?

メラニーは思わず、フードをし上げて、その人をマジマジと見た。

年は二十代後半から三十代といった頃だろうか。

黒い真っ直ぐの髪を後ろに下ろした、目鼻立ちの整った丈夫で、長のダリウス教授と同じくらい背が高く、小柄のメラニーは自然と見上げる形となる。

男はそんなメラニーの視線を気にすることなく、窓辺に近づくと、指をパチンと鳴らした。

「え?」

すると驚くことに、外に散らばった羊皮紙が風に乗って集まってくるではないか。

男は手の中に集まった紙をひとまとめに摑むと、メラニーに差し出した。

「ほら」

「……あ、ありがとうございました」

唖然としながら、メラニーはお禮を口にする。

風を一度に複數同時に発生させ、それぞれをコントロールするなんて、初めて見た。しかも、無詠唱で指先一つで、そんな高度な技をやってのけるなんて聞いたことがない。

宮廷魔師の使う魔法とは、こんなにもすごいものなのかとメラニーは心した。

「……おい」

「――っ! す、すみませんでした!」

切長の目に睨まれ、メラニーはぼうと男を見つめていたことに気づき、慌ててローブを深く被り直すと、ペコペコと頭を下げて退散した。

「おい!? ――待て!」

男はメラニーの背に聲をかけるが、メラニーはそのまま行ってしまう。

「――ちっ」

メラニーに逃げられた男は、再び窓の外に目を向けると、木に引っかかったままの羊皮紙を眺めた。

まだ一枚殘っていると言いたかったのに、逃げられてしまった。

どうやら、さっきの風魔法の威力では上手く風に乗らなかったらしい。

男はもう一度指を鳴らすと、今度は先程より強い風が吹き、木に引っかかっていた論文もちゃんと男の手に戻ってきた。

「……全く、どこの生徒だ?」

このまま無視して捨ててもいいが、論文のページが抜けていたら、教授から再提出を食らうことになる。

過去に同じように勉學に明け暮れていた男にとって、それは見過ごせないお節介であった。

「……」

名前など書いていないかと思って、男は手元の論文に目を這わせた。

「………………はっ?」

チラリと見るつもりだった容は男を驚かせるには十分なもので、男は何度もその文章を読み直す。

「なんだこれは……」

最年で宮廷魔師に昇格し、現在この國のトップに君臨している男は、今まで見たことのない研究論文の容に言葉を失うのであった。

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