クイン・ブランシェットは二十代と若くして、この國の宮廷魔師の中でトップに君臨する魔師だった。

い時から膨大な魔力を持っており、ありとあらゆる魔法の勉強をけて育ってきた。

また、生まれ持ったセンスと本人の飽くなき努力により、人を前にして宮廷魔師になり、數年でトップに上り詰めた男である。

年の半分以上は、國の外で蔓延る魔狩りに參加し、その功績は國王にも認められるほどに彼は人一倍國に貢獻していた。

そんな魔のことなら誰よりも優れている男が、一枚の論文を見て、度肝を抜いているのだから余程のことである。

一見、あまりに荒唐無稽な研究容で、もし普通の魔師が見たら、悪戯で書いただと見なしたかもしれない。

だが、クインはこの國一番の魔師であり、彼の直がこれが偽りで書かれたものではないと告げていた。

――一、誰がこんな研究を？

普通に考えれば、先程自分にぶつかってきた、あのが書いたものと考えられる。

しかし、フードを目深に被った華奢ながこんな重厚な容の研究をしていたとは俄には思えなかった。

――とにかく、さっきのを探そう。

そう考えたクインは大で校舎を闊歩する。

向かうのは講師陣のいる研究棟だ。

クインは迷うことなく目的の部屋へ辿り著くと、ノックもなしにその扉を開けた。

「ダリウス教授！」

偶然にもクインはダリウスの教え子であり、真っ先にその師を頼った。

「――おや？ これは珍しい、クイン君じゃないか」

応接用のソファに腰掛けていたダリウスが、クインを見て腰を浮かせた。

「あー、すまない。クイン君。今、し立て込んでいてね」

「……來客中でしたか」

ダリウスの向かいにローブ姿の生徒が座っているのを見て、クインはタイミングを間違えたと息を吐く。

また後にしようと思ったが、クインの目に機の上の紫に輝くが止まった。

「……教授。それは、何ですか？」

「あ、これはだね……その。――お、おい。クイン君っ！？」

クインはズカズカと部屋の中に踏み込むと、ダリウスの制止を無視して、機の上の瓶を手に取った。

今まで見たことのない妙な発をしている紫のにクインは食いるように見つめる。

「……この紫はケイトウモネ草のか？ それに……リリックバスのの出か？ って見えるのはメビュリアの花、いや、違うなハイナスビカの鱗か」

「わぁ、正解です！ すごい。見ただけで分かるなんて！」

可らしい聲に振り向くと、目をキラキラとさせたがクインを見つめていた。

「……お前、さっきの」

「ひゃっ！」

はクインと目が合うと即座に目を逸らし、ローブのフードを被ってしまった。

「失禮。彼は人見知りなんだ」

「す、すみません。……あ、あの、論文を拾ってくれた人ですよね……。さっきはありがとうございました」

「やはり、そうか」

クインはこんなに早く目的の人が見つかったことに驚きながらも、冷靜になって自分の持っていた論文をに差し出した。

「――まだ、もう一枚あったぞ」

「あ！ ありがとうございます」

しかし、がけ取る前に、クインは論文をひょいと上に挙げる。

「えっ？」

驚くにクインは言った。

「そっちの束を見せろ」

クインの言葉にダリウスが顔を変える。

「クイン君！」

「ちょうどこの論文を書いた人間を探していたんですよ」

クインはダリウスに手にしていた論文をヒラヒラと振って見せると、ニヤリと笑った。

「……読んだのかね？」

「ええ。とても興味深かったです。なので、見せてくれませんか？」

「…………はぁ。読んでしまったのなら、仕方ない。メラニー。彼にも論文を読ませてもいいかね？」

「え？ あ、はい……」

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