《【書籍化】 宮廷魔師の婚約者》【おまけSS】アニエス・スチュワートの衝撃 ①
★角川ビーンズ文庫さまより、2022/06/01 発売予定★
「宮廷魔師の婚約者 書庫にこもっていたら、國一番の天才に見初められまして!?」
出版を記念して、おまけSSを連載致します。
第一段は本編にはあまり登場しないメラニーの家族のお話です。
メラニーの妹、アニエス視點のお話。
「お姉様が、婚約ですって!?」
ダリウス叔父様から発表された衝撃的な容に、私は大聲を上げていた。
驚いているのは私だけではない。
リビングに集まった家族全員が唖然とした様子でお姉様に注目していた。
叔父様にわれて魔法學校へ行っていたお姉様が、久しぶりに家に帰ってきたと思ったら、とんでもないことになっていた。
だって、お姉様はつい最近、公爵家の嫡男に一方的に婚約を破談されたばかりなのだ。
まぁ、その元婚約者のジュリアン・オルセンは本當に碌でもない男だったから、寧ろお姉さまがあんな馬鹿男のところに嫁がなくて正解だったけれど。
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それでも婚約破棄によって、お姉様が酷く傷つき、落ち込んでいたのは事実で、そのお姉様にこんなにも早く新しい婚約話が持ち上がるなんて、全くもって信じられなかった。
「お姉様! どういうことですの?」
「え、えっと……。それが、私にもよくわからなくて……」
私が詰め寄ると、當事者であるはずのお姉様はおろおろとした様子で隣に座るダリウス叔父様に助けを求めた。
一、これはどういうことなのだろうか?
「叔父様?」
「アニエス。落ち著きたまえ。これから説明するから」
叔父様はそう言うと、正面に座る私のお母様(叔父様にとっては実姉だ)に目を向けた。
現在、スチュワート家の當主はお父様となっているが、お父様は婿養子で、実際にこの家を仕切っているのはスチュワートの筋を引くお母様だった。
「それで、相手はどなたなのかしら?」
「私の教え子でね。皆も名前くらいは知っているだろう。クイン・ブランシェットという男だ」
「クイン・ブランシェット……。あの宮廷魔師の?」
お母様の眉がピクリと跳ね上がった。
その名前は私も聞いたことがあった。
ただし、宮廷魔師としてではなく、魔法學校在學中に數々の異名を殘した大天才としてだ。
彼が卒業したのは隨分と前だが、學校には彼が殘した輝かしいトロフィーや賞狀が飾られており、教師や生徒の間で語り継がれる逸話は星の數ほどある。その天才ぶりは、彼が在學中に書いた研究論文が授業の教材として使われるほどだった。
私は実際にその姿を見たことはないが、クイン・ブランシェットは相當の男子という噂も流れている。
「ああ。あの今、宮廷で話題になっている若手のホープだね。一度、城の催しか何かで見たことがあるな」
お母様の隣でお父様がのんびりとした聲を上げた。
「お父様、どんなお人なのですか?」
「いやー、遠目で見ただけだからな……。背が高い男だったとしか」
「もう! お父様ってば、肝心な時に役に立たないんだから!」
私が怒ると、橫からお兄様が口を挾んだ。
「まぁまぁ。アニエス。ちょっとは落ち著いて」
「お兄様は黙ってて! ──お姉様。どういう方なんですの?」
「……それは。……その……私もよくは……」
お姉様に訊ねるが、なぜかお姉様は困気味に首を傾げた。
「──どういうことなんですの? 叔父様?」
「うむ。まぁ、なんだ。ちょっと々と複雑な話でね」
叔父様も叔父様でちらりとお姉様の方を見て、口ごもる。
何かあるのだろうか?
妙な空気をじていると、ヘンリックお兄様がお姉様に聲をかけた。
「メラニー? なんだか顔が悪いようだが、大丈夫かい?」
「え? あ、その……」
改めてお姉様の顔を窺えば、確かにお兄様の言う通り、あまり調がよくなさそうに見えた。
「々あって疲れているのでしょう。し休んだ方がいいわ」
「ああ、そうだな。姉さんの言う通りだ。バタバタとして帰ったし、メラニーも疲れただろう。後のことは私から説明しておくよ」
気遣ったお母様と叔父様がそう言うと、お姉様はホッとしたように頭を下げた。
「……そうさせていただきます。すみません、叔父様。よろしくお願いします」
お姉様がリビングを出て行ったのを見屆けて、私たちは再び叔父様に注目した。
さっきのお母様と叔父様の連攜したやりとりを見るに、お姉様に席を外してしかったようだ。
(お姉様がいると話しにくいことでもあるのかしら?)
「それで? 何があったの?」
家族を代表してお母様が訊ねた。
「……それが。何から話せばいいものか。……実は、メラニーに対して、重大な事実が見つかってね。……そうだな。まずはこれを見てくれ」
叔父様は歯切れの悪い言葉を並べると、鞄の中から薬瓶を取り出し、テーブルの上に置いた。
「これは何だい? 隨分と変わった薬品のようだが」
「今まで見たことのない薬品ね。毒薬かしら?」
「それにしても禍々しいをしているな。何を煮詰めればこんなになるんだ?」
「っているようにも見えるけど、何がっているの?」
目の前の奇妙な薬品を見て、皆が思い思いの想を口にすれば、叔父様は困ったように眉を顰めながら頷いた。
「まぁ、そういう反応をすると思ったよ。……これはメラニーが作ったものだなんだ」
「えっ?」
「お姉様が!?」
「……実は、これは古代魔の古文書に書かれた製法を再現した回復薬だ」
「──っ!?」
叔父様のとんでもない発言に私たちは息を呑んだ。
「──こ、これが回復薬!?」
「お兄様、驚くのはそこじゃありませんわよ」
私は隣に座るお兄様を叩くと、すぐに叔父様に顔を戻す。
「どういうことですの? お姉様が、古代魔なんて使えるわけが……」
「──その様子を見るに、誰も彼が古代語を読めることを知らなかったようだな」
「メラニーが古代語を!?」
「ダリウス君、どういうことだい? 君は一、何を……」
「──順を追って、説明します」
そう言って、叔父様はお姉様の婚約に至るまでの経緯を説明するのであった。
【つづく】
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