《書籍・漫畫化/妹に婚約者を取られてこのたび醜悪公と押しつけられ婚する運びとなりました~楽しそうなので張り切っていましたが噂が大げさだっただけで全然苦境になりませんし、旦那様も真実の姿を取り戻してしまい》40 フィナーレ

季節が巡り、初夏のころに、父親の喪が完全に明けた。

待ちに待った結婚のパレードである。

その日、パストーレの首都には花を飾り付けた馬車の行列がずらりと並び、楽団や踴り子とともに主要な大通りを練り歩いた。

ルクレツィアが屋敷でヴェールやお化粧に最後の調整をしていると、可らしいの弾んだ聲が飛び込んできた。

「お姉様(・・・)! ご覧になって!」

妹のローザだ。

しとやかなドレス姿で、さっと一禮。

「まあ、素敵ね。見違えたわ」

「特訓したんだから!」

を張るローザ。

あれ以來、ローザはルクレツィアの忠告にも素直に従うようになり、家庭教師をつけてからは禮儀作法も見違えるようによくなった。

今ではもう、どこに出しても恥ずかしくない淑だ。

「お姉様、このドレスを取り戻してくださってどうもありがとう!」

薔薇のつぼみが刺繍されたドレスは、かつてローザが作らせたものの、爵位の返還で一度も著ることなく手放してしまったものなのだそう。

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古著として売りに出されていたものを、偶然ローザが見つけ出し、ルクレツィアが買い戻してやった。

それ以來、前にもましてローザはいい子になった。

下心があるとしても、うわべだけは取り繕えるようになったのだから、十分合格だとルクレツィアは思っている。

「お姉様の裝も素敵!」

どことなく『自分が一番』と言いたげなローザに苦笑を返す。こういうところはまだまだ修行が足りない。

ルクレツィアはローザに付き添われて、一際大きなオープンカー形式の馬車に乗り込んだ。

隣に、ラミリオが乗っている。

澄まして並ぶルクレツィアだったが、心ではとても平靜でいられなかった。

――晴れの裝のラミリオ様は本當にかっこいいから困るわ。

ラミリオが消極的だったため、ほぼルクレツィアが選んだ裝で、何度も目にしてすっかり柄まで覚えている。とはいえ、袖を通した姿はまた格別だった。

隣り合うだけで気分が高まり、張してしまう。

ちらりと橫目で様子をうかがったら、この上なく和に微笑み返されてしまい、ルクレツィアの頬は一気に赤くなった。

首都をぐるりと一周する間も、ルクレツィアはずっとそわそわして落ち著かなかった。

――こんな素敵な人が旦那様になるなんて、信じられないわ!

終點で馬車を降りるときに手を取られて、また赤面する。

手にれられる、ただそれだけのことがどうしてこんなに恥ずかしいのだろう。

ルクレツィアは頭が真っ白になってしまって、その後の容をほとんど覚えていない。

気がついたら、大勢の観客に促されて、誓いのキスをわすことになっていた。

「ルクレツィア」

小聲で呼ばれた名前の甘さに、ドキドキする心臓を抑えながら、そうっと橫手のラミリオを見上げる。

張してる?」

からかいまじりのささやき聲に、ルクレツィアはもうしで悲鳴を上げそうになった。こんなに距離が近いだなんて聞いてない。次は何をするのだっけ?

ガチガチでもはや何もかも頭から吹っ飛んでしまったルクレツィアは、すがるようにラミリオの手を握った。

予定にない作に、ラミリオが、くすっと一瞬顔を崩して笑いをこらえる。

「オーケー、分かった。そのままじっとしてて。俺にを任せて。いい?」

「は、はい」

無我夢中でうなずくと、ラミリオはルクレツィアを抱き寄せて、羽れるように軽くくちづけをしてくれた。

し離れたラミリオと目が合う。

おしむようなまなざしを見て、ルクレツィアは、ああ、この人と結婚するのだな、と、慨を深めた。

***

――ルクレツィアとラミリオはこのあと領中をパレードして回り、數えきれないくらいたくさんの人から祝福をけた。

パレードは何日にも渡って続き、行く先々でパストーレ公からたくさんの食事や酒の施しがあったため、人々を長く楽しませることになったのだった。

ラミリオの領主としての名聲も高まっていき、ルクレツィアと一緒に、名君と讃えられるようになるのは、もうし先のお話。

****

そして五年後。

ラミリオとの仲はこれでもかというほどよく、二人目の子どももすくすくと長中だ。

さらにこの年、ルクレツィアがせっせと書き綴った日記帳が偶然にも劇作家の目に留まり、オペラとして上梓されることになったのである。

『六度婚約破棄されたる

醜悪公の

七度目の奇跡』

このタイトルが、ルクレツィアには不満だった。

いつか醜悪公の名前を完全にこの國から消し去りたいと思っていたからだ。

だから彼は、タイトルに々手をれた。

『真の姿を取り戻したる

ラミリオ・パストーレ公の

難と奇跡』

――と。

これにて完結です。

◆書籍化・コミカライズのお知らせ◆

醜悪公と押しつけられ婚は書籍化・コミカライズが決定いたしました

連載中に応援してくださった皆様には重ねて深くお禮申し上げます

沢山の方のご閲覧、ブックマーク、ご想、評価ありがとうございました!

◆新作のお知らせ◆

魔道師リゼ、開業します~姉の代わりに魔道を作っていたわたし、倒れたところを氷の公爵さまに保護されました~

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