《【書籍化】世界で唯一の魔法使いは、宮廷錬金師として幸せになります ※本當の力はです!》10.魅力的ない
「そっ……そこまでは考えていませんでした! あの、帽子を取りに來て……」
「ここの薬草に元気がなかったから料を作ってくれたんだ?」
「は、はい」
そうですそれです。
「ちょうど、ローズマリーとタイムが植えてあるね」
「!」
レイナルド殿下の視線を追うと、そこには確かにローズマリーとタイムが植えられていた。まったくの偶然です……!
もしかして、レイナルド殿下は『鑑定』スキルの持ち主なのかもしれない。あらゆるモノを鑑定できるそのスキルを持つ人は稀に存在し、『鑑定士』として大切にされる存在で。
ただ、私にとって救いなのは、その『鑑定』の対象はモノだけということ。生きは対象外なので、私の力や正が知られてしまう心配はない。
レイナルド殿下は、私が即席で作った料をつまんでサラサラと落としてみたり、じっと見つめてみたりして何だか楽しそうにしている。……どうしよう。
「決めた」
な、何をでしょうか……? 瞠目して立ち盡くす私に、彼はさらりと仰った。
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「気にった」
「き、ききき気に……?」
「俺のアトリエに招待したいんだけど、どうかな。君の意見を聞きたいものがたくさんあるんだ。めずらしい素材や錬金の資料、レシピ……魔石の類も揃ってるよ。寶石を砕いたなんかも」
「!」
魅力的ないに私はさらに固まった。
あの、カラフルなレンガでできていて、蔦で絶妙に彩られた家はレイナルド殿下のアトリエらしい。彼の立場を考えれば、手にらない素材なんてないだろう。そして、私はそれにものすごく興味がある。……けれど。
「し、仕事中なので! 申し訳ございません!」
落ち著く場所で、大好きな草だけを相手にできるこの仕事を辭めさせられたら大変だった。何よりも、薬草園の奧には行くなと言われていたのに。ネイトさんの言葉はこのアトリエのことを指していたのだろう。
「……そう。薬草園つきのメイドなんだよね? 名前は?」
「も……もも申し訳ございません! フィーネ・アナ・コートネイと申します」
パニックになって挨拶を省略していたことを思い出した私は、設定上の名前を名乗るともう一度淑の禮をした。殘念そうに息を吐いたレイナルド殿下は「ふぅん」と呟いてから続ける。
「……その聲、聞いたことがある気がするんだけど」
「! き、きききき気のせいです」
いけない。容姿に関しては違うものに見せられているけれど、聲はそのままだった。
一応、私とレイナルド殿下は王立アカデミーの同級生なのだ。もうこれ以上話すのはやめておこう、と私は口を引き結ぶ。
どうして気がつかなかったんだろう。今夜、部屋で聲を変えるポーションを作らなきゃ。
「あの、私……仕事がございますので失禮いたします! ア……アトリエの敷地に勝手にって申し訳ございませんでした!」
私は勢い良く頭を下げると、レイナルド殿下のお返事は聞かないことにして、薬草園の方へと駆け出したのだった。
「つ……疲れた」
薬草園があるこの王宮の南側の庭はとても広い。やっと自分の持ち場に戻れた私は土の上にへたり込む。
「レイナルド殿下って、王立アカデミーで顔を合わせていた頃とは隨分と印象が違う気がするのだけれど……」
私が知っているレイナルド殿下は、績優秀、生徒會長を務めていて、いつも厳しい表をなさっていた。
言葉遣いだってもっとくて近寄りがたくて。婚約破棄された私にも、その場でしっかりした言葉をかけてくださったのだ。
そういえば、気絶した私を醫務室に運ぶように指示してくださったのはレイナルド殿下だったらしい。
あの日、立ち盡くした狀態からいきなり倒れたはずだったのに、私には傷ひとつなかった。
お兄様は言葉を濁していらっしゃったけれど、殿下宛にお禮狀を書くように言われた私は、急かされるままお手紙を書いた。そして刺繍りのハンカチを添えて送った。
ちなみに、一応マナーのようなものなので刺繍りハンカチを添えたけれど。レイナルド殿下には似たような贈りが山のように屆いていることと思う。
できることならハンカチは捨てられず、お掃除擔當のメイドが窓拭きにでも使ってくれていたらいいな。……それにしても。
「まさか、レイナルド殿下があんなに……気安くお話してくださる方だったなんて」
――もしかしたら、私と同じように魔法や錬金がお好きなのかな。それなら仲良くなれるかも……、そこまで考えて、私は慌てて思考に蓋をする。
これではミア様のときと一緒だ。一方的に仲良くなれるかもしれないと思って近づいて、すべてを失ってしまったあの時と。せっかく外に出て、薬草と優しいネイトさんだけを相手にお仕事できているのだから、この場所を失わないようにしなきゃ。
私はふるふると頭を振って立ち上がり、溫室に移した。プリムローズとブルーベリーを採取しなきゃ。部屋に戻って、聲を変えるポーションを作るのだから。
ブルーベリーの木はかわいい。しかも、この溫室にあるものは丁寧に育てられているから、素材として上質な上においしい。ひとつ食べたいけれど、採取させていただくのだからつまみ食いはがまんしなきゃ。
「あのぅ。中級ポーションの生に使う薬草がほしいんですけど」
「!」
ブルーベリーの甘酸っぱい香りに酔いしれていた私は、急に聲をかけられて振り向いた。
そこには、ふわふわのピンクブロンドを揺らし、宮廷錬金師見習いの服を著たミア様がいた。
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