《【書籍化】世界で唯一の魔法使いは、宮廷錬金師として幸せになります ※本當の力はです!》14.街での遭遇
「……で、宮廷錬金師の工房つきメイドになったのか、フィオナは」
「はい……週に二日だけですが」
今日は薬草園のお仕事はお休み。私はお兄様と待ち合わせて街へ出ていた。
カフェにるのは一年ぶりで、なんだか落ち著かない。
引きこもる前はジュリア様やドロシー様と一緒にお茶をしに來ることがあった。けれど、あの婚約破棄事件があってからはいもないし、そもそも外に出るのが怖くなってしまった。
メニューを前にさんざん悩んだ末、私はフルーツたっぷりのトライフルと紅茶、お兄様はコーヒーを頼んだ。
メニューの絵を見ながら「いろいろなものの積み重ねでおいしい味になるのってまるで錬金のようで」と言ったら、お兄様は呆れたように「はいはい」と微笑んでくれた。やっぱり、お兄様を困らせてはいけない。きちんと自立しないと。
週に二回、宮廷錬金師の工房で補佐として働くことになった私をお兄様は褒めてくださっていた。
ちなみに、週に二回になったのはネイトさんが気を回してくれたから。本當に、優しい上司に恵まれたと思う。
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「推薦なしで引き立てられるなんてすごいじゃないか。それに、一月前にはわが家のアトリエから出られなかったとは思えない進歩だ。頑張っているな」
「……ありがとうございます……」
照れくさくて、子どもの頃みたいにへへっと笑ってしまう。すると、お兄様もなぜかへらりと笑った。張のない微笑み。なぜ、と思ったら。
「それで、どうして認識阻害ポーションを飲んできたんだ? 聲をかけられるまでわからなかったじゃないか」
そういうことだった。そう、私はお兄様との約束の場所に認識阻害ポーションを飲んで向かってしまったのだ。
「ご……ごめんなさい……。どうしても……街中はまだ勇気が出なくて」
「そんなので大丈夫なのか。王宮の工房にはミアとかいう男爵令嬢がいるんだろう」
「はい。でも、顔も聲も変えてしまえばミア様には私が誰なのかわかりませんし」
外は人が多い。最近はかなり慣れてきたけれど、もし王立アカデミーの知り合いにばったり出會ってしまったら、と思うととても怖くて。
でも、顔や聲を変えていると思えば自信が持てた。工房にミア様がいると思っても、なんとかなる気がするのはこのおかげだった。
「……まぁ、フィオナなりに頑張っているんだな。安心した」
「お兄様に心配をかけないよう……頑張ります」
注文したトライフルと紅茶が運ばれてくる。真っ白いプレートにフルーツとスポンジ、クリームがおいしそうに盛り付けられていて、イチゴの甘酸っぱい香りがテーブルに漂う。
「昔、フィオナが初めてポーションを作った日のことを覚えているか」
「はい。目の前でポーションがキラキラゆれて……本當に、魔法みたいでした」
「フィオナに、『そ(・)れ(・)』が使えてしまうことは緒だったからな。だから、宮廷錬金師への憧れを口にできなかったのだろう。補佐と言っても、王宮の工房で働くことは錬金を扱う者の夢だ。力を知られてはいけないが……一杯務めるんだぞ」
「……はい、お兄様」
私の夢と心配事の両方をわかってくださっているお兄様に、じーんとする。そのままトライフルをスプーンですくう。
甘いはずのクリームは、しの塩味がした。
「せっかく認識阻害ポーションを使っているんだ。外出のリハビリも兼ねて、街を歩くか」
そんなお兄様の言葉で、カフェを出た私たちは街を歩いていた。
背が高くて整った外見をしているお兄様は、一緒に歩くととにかく目立つ。見られているのが私ではなくお兄様とわかっていても、何となく居心地が悪い。
すれ違う人々の視線をじながら、私はこそっと囁く。
「お兄様って……モーガン子爵家のご令嬢と結婚準備中なのですよね。認識阻害ポーションを飲んだ私と並んで歩くのはまずいのでは……」
「確かに」
このポーションの効き目は半日ほど。効果を打ち消すポーションは持っていないし、やっぱり今度は『フィオナ』としてここに來よう、そのためにもっとしっかりしなきゃ。そう決意していると。
「フィーネ?」
私の、王宮での名前を呼ぶ人がいた。突然のことにし怖くなってお兄様の肘を摑む。そして聲の主の方に恐る恐る視線を向けてみると。
――そこには、驚いた表のレイナルド殿下がいらっしゃった。
どうしてこんなところに……? ううん、今はそれはどうでもいい。問題は、レイナルド殿下がし怒ったような表をしていることだった。
……私、何かした?
ぽかんとしていると、彼は一気に私たちとの間を詰める。そして、お兄様をひと睨みすると私の手を取った。
「フィーネ、行こう」
……えっ?
「ままま、ま……あのっ」
びっくりしすぎて言葉にならないけれど、レイナルド殿下は私の手を放してくれない。そのままお兄様から遠ざかっていく。
レイナルド殿下にきちんとご挨拶をしようとしていたお兄様は、なぜか「あーしまった」という顔をして私のことを見送ってくれたのだった。
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