《【書籍化】世界で唯一の魔法使いは、宮廷錬金師として幸せになります ※本當の力はです!》19.一緒に朝ごはんをいただきます

「あ、ああああの、一般的なポーションの『味』ってどれぐらいなのでしょうか……」

「ん?」

「私が生した上級ポーションの味は1でしたが、それぐらいまずいのってどれぐらいあるのでしょうか。何割、とか的な數字で教えていただけるとあり」

「うん、ちょっと待ってね」

私の怒濤の質問に、レイナルド様は軽く吹き出すとアトリエの扉を閉めた。

「おはよう、フィーネ」

「! あ、お、おはっ……おはようございます」

いけない。『味1』の話に夢中になりすぎていて、朝の挨拶を忘れていた。

昨日、レイナルド様にアトリエの使用許可をいただいた私は、早速、今朝もこのの場所にやってきていた。

今日は薬草園勤務の日。しだけ早めにきてアトリエを覗いてみよう。庭や溫室をちょっと眺めるだけ。そんな軽い気持ちだったのに、アトリエの扉に手をかけてみたら鍵がかかっていなかったのでびっくりした。

許可はいただいているけれど、さすがにレイナルド様がいらっしゃらないのに勝手にるのは……と思った。でも好奇心が勝ってそのまま足を踏みれてしまい、今に至る。

「フィーネは朝ごはん、食べた?」

「はっ、はい。いただきました」

「何を」

「パン……です」

「あとは?」

「……パン、です」

レイナルド様が微妙な顔をしている。私は何か返事を間違ったのかな。

「フィーネさ、昨日の夕食は何を食べた?」

「パ……パンです」

「……」

そんなに固まらなくても……。

昨日、レイナルド様に言い當てられてしまった通り、私は食べにあまり興味がない。

デザートは好きだけれど、食事の時間よりアトリエにこもって研究する時間のほうが大事だ。それに、本的におの煮込みよりもその煮込みに使われるハーブや材料のほうに興味がある。

だから、引きこもり生活は本當に快適だった。

「じゃあ、ポーションの味についてはこれを食べながら考えようか」

レイナルド様が差し出してくださったバスケットに、私は目を見張る。

「な……何がっているのでしょうか?」

「朝ごはん。今溫めるから待っていて」

「! あっ……わ、わ私が……」

「いいよ。フィーネは続きをやっていて。今、素材の加工をしているところだったんでしょう?」

やっぱり『味1』では手伝わせてもらえないみたいだった。

ちなみに昨日、私のレイナルド殿下への敬稱は『殿下』から『様』に変化した。

お互いにここのアトリエでは好きなように振る舞うのがルールらしい。ということで、王太子扱いしてほしくないというレイナルド様の要請でこんなことになってしまった。

せめて、ということで私はお湯を沸かすことにする。ホーローのケトルにお水をれて、火にかける。

レイナルド様はバスケットから出したパイをオーブンにれて溫めていた。王太子殿下とは思えないほど慣れた手つき。普段から、ここでこうやって過ごしているのかもしれない。

「俺が來るまで何をしていたの?」

作業機に戻ってさっきまでの素材加工を再開すると、手元を覗き込まれてどきりとする。

「え……ええと、シナモンを……」

「うわ。すごくきれいに砕してある。宮廷錬金師でもここまできれいに加工しないよ。用だね」

「……」

私の手もとにはシナモンパウダーがある。本當は樹皮を乾燥させてそのまま使うことが多いけれど、『味1』を改善するために砕してみたのだ。

そして、この加工には火魔法と風魔法を使っている。手作業ではなかなか均一にならなくて、仕上がりに差が出てしまうから。

レイナルド様は私が魔力量とコントロールに優れていることをご存じだけれど、魔法が使えることは知らない。そして、それだけは言ってはいけないと思う。

この世界で、魔法は消えた存在なのだから。

そうしているうちに、オーブンからパイの焼けるいい匂いがしてくる。

褒め言葉にどう対応しようか戸っていた私は、レイナルド様が持ってきてくださったパイに助けられた。

「はい、どうぞ。熱いから気を付けて食べてね」

「あ……ありがとうございます……!」

レイナルド様が溫めてくださったのは、チーズリゾットを包んで焼いたこの國の伝統的なパイ。アトリエにはバターのいい匂いが広がって、すでに朝ごはんを済ませたはずなのにお腹が鳴りそうになる。

勧められるままにさっくりとフォークをれて口に運ぶと、チーズがとろけた。

「お……おいしい、です……!」

「王宮のシェフが焼いてくれるやつは、パイがカリッとしていて食もいいんだよね」

「ほ、本當です。中のリゾットがとろけるのに、どうしてパイがこんなにしっかりカリッとするのでしょうか。加熱時間や材料にが? 生地を作る溫度にも気を遣っているのでしょうか。ううん、それよりも」

「……フィーネ」

レイナルド様の呆れたような聲で私はまた我に返る。顔を上げると、彼は呆れているのではなくてくすくす笑っていた。

「ご、ごめんなさい。つい、また……」

「フィーネ。これでわかっただろう? 研究に夢中になっても、食事はきちんととらないとダメ」

「……はい。こんな風に、インスピレーションをもらえるから……」

「違うよ。こんな風に、人と話しながら食事をすると楽しいよね」

「……た、楽しい……?」

「そう、フィーネと話しながら食べると俺は楽しい」

私と話すと楽しい、って。

……そんなこと、初めて言われた。

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