《【書籍化】世界で唯一の魔法使いは、宮廷錬金師として幸せになります ※本當の力はです!》4.暖かいアトリエの、冬のはじまり

アルヴェール王國の冬はし長い。

私は、その冬支度が結構好き。

子どもの頃は、ふわふわの暖かなケープに包まりながらスウィントン家の使用人が薪を割るのを眺めた。

小屋いっぱいに薪の準備ができたら、そこからは私の仕事。風と火の屬を持たせた魔石に魔力を注いで、薪を乾燥させる。

もちろん、魔法を使えば魔石なんていらない。あのアトリエに置かれていた魔法書にはそれぐらいの呪文は書いてあった。

けれど、魔法を使えることは

冬の薪小屋にはいつもガーネットの魔石がつるされていた。薬草の匂いがしない冬の庭と、真っ白くて眩しい視界と、アトリエから溢れる暖かな空気。

不思議と音が響かない冬は、ぱちぱちという薪がぜる音だけが耳に殘る。靜寂の中に鳴る暖かさ。それは、気で気の弱い私にとって安心する世界だったのかもしれない。

外の空気がひんやりとした夕方のアトリエ。日が落ち切って、闇に呑まれる前の青い庭の隅。冬の匂いはまだしない。

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「ん、おいしいね」

「ほっ……本當ですか……?」

私が作ったホットワインを飲み干してくださったレイナルド様が心配で、私は彼の顔を慎重に確認した。

のようにすべすべなレイナルド様のおに、変化は見えない。きっと、気絶しそうなほどおいしくないわけではない……と思う。

私たちの前には、グラスがふたつ。アトリエにやってきたレイナルド様がが渇いたと仰ったので、この前教わったホットワインを作ってみたのだ。

果実やスパイスをふんだんに使ったこのホットワインの作り方はとても簡単。だから失敗する方が難しい……はずなのだけれど、私が作るとどうも不思議な味になってしまう。

現に、いち早く飲もうとするレイナルド様をなんとか止めて先に味見をした私の舌は、しピリピリしている。これはきっとスパイスが濃くなりすぎているのだと思うけれど……錬金るときと同じように、きちんと分量通り作ったはずなのにどうしてなのかな。

「クローブを軽く潰してれたのが良くなかったかな……ううん、オレンジがなかった?」

グラスを覗き込んで考えている私の隣で、レイナルド様がらかく微笑む気配がした。

「本當に本當だよ。おいしい」

「ま、魔力は注いでいないですが、このホットワインも鑑定できますよね……? 味ってちゃんと2になっていますか……?」

「……今日は夕食を一緒に食べようと思って廚房から屆けをお願いしているんだ。じきにクライドが持ってくるよ。待ってて」

「……!」

レイナルド様は、そう言って立ち上がると奧のミニキッチンに行きオーブンの準備を始めてしまった。

味のことを聞くと、だいたいこうして話題を逸らされてしまう……!

レイナルド様の優しさをじる反面、鑑定スキルで見える數字に関して、彼は絶対に噓を仰ることがないのだろうな、と思う。

私も、こんな風に思いやりを持ちつつ守るべき一線は越えない人間でありたい。もともと素晴らしい方だと知ってはいたけれど、こんな一面を見るたびにやっぱり私とは生まれ持ったものが違うんだろうなぁと実する。

なくとも、薬草園の隅にあるアトリエでオーブンの溫度調節をお願いしてもいい相手ではない。うん。

「どうしたの、フィーネ」

「……!」

奧のキッチンから優しい視線をくれるレイナルド様に、私はハッとして首を振った。いつの間にか彼の立ち姿に目を奪われていたみたい。あわててさっきまでの作業の続きに戻る。

雑念を払うように、丁寧に洗ったフェンネルをひとつひとつ紙のうえに広げていく。水分をふき取っていくつかの束をつくり、乾燥させるのだ。

「あ、それ。この前、王宮の工房でもやってたよ。冬支度だね」

「は……はい。冬の間はこうして保存が効くように加工した素材を使うことが多いので、生し難しくなります……」

「溫室に植え替えたものもあるんだよね?」

「もっ……も、もちろんですが、數が限られるので、それは本當に質の高いポーションをたくさん作りたい時のために殘しておきます」

「めずらしい冬風邪が流行ることもあるもんね」

「は……はい。その時に質の良い素材がなくて困るよりは、いつものポーションを作るときにし難しいほうを選ぶのが普通……ですね……」

気がつけば、レイナルド様は私の隣に來て楽しげに手もとを眺めていらっしゃった。アカデミー時代には見たことがない飾らないやわらかな表に、なんだか心がざわざわする。

「そういえば、今日は薬草園の仕事が忙しかった?」

「? は、はい。溫室への植え替え作業がたくさんあって……」

私を見下ろすレイナルド様の視線のきに、どきりとした。

「……も、もしかして顔に土がついていますか!?」

「うん、し」

「!」

あわてて両手で顔をこする。認識阻害ポーションでは汚れた顔は隠せないらしい。一応、顔を洗って鏡を確認したはずだったのだけれど……久しぶりの薬草園の仕事に夢中になりすぎてしまったみたい。

「まだこっちについてるよ」

「こ……こ、ここですか……?」

「ううん、もうし上」

レイナルド様は自分の顔を指差して、私の顔のどこに土がついているのか教えてくれる。けれど、なかなか土は取れないようで。

「取れたでしょうか……」

「もうしだけ左」

「こ、こ、この辺……?」

「うーん」

レイナルド様は困ったようにして戸いながら私のほうへと一歩近づく。さっき飲んだホットワインとは違う、夏の樹々の香りがふわりと香る。青みを帯びた黒髪越しに見える、湖の底みたいな瞳がとてもきれい。

「ちょっとごめんね」

「!」

レイナルド様の手が私の頬までびてきて、息が詰まった。

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