《【書籍化】世界で唯一の魔法使いは、宮廷錬金師として幸せになります ※本當の力はです!》26.弱強食⑦

心當たりのある私は口を引き結ぶ。

思えば、前にも似たようなことがあった気がする。その時は魔法で扉を閉まらないようにしていたから閉じ込められることはなかったけれど。

急に挙不審になった私に、レイナルド様は穏やかに聞いてくださる。

「さっき、窓の外から彼が走っていくのが見えたんだよね。工房の人間は俺も知っているけど、まずはフィーネの心當たりを聞きたい」

「……」

「フィーネ?」

答えないでいると、レイナルド様が私にずいと近寄ってくる。近い。近いです……!

レイナルド様は私なんかよりもずっと王宮で働く方々のことを知っている。ここで誤魔化してもその人への不信が募るだけ。それなら、素直に答えたほうが……いい。

……けれど。

「……あ、あの。その方はきっと、ここに偶然鍵をかけてしまったのだと思います。中に人がいると気が付かずに、うっかり」

「保管庫の管理には意外と厳重なルールがある。施錠時には中に人がいないか確認することもその中に含まれている。罰則付きのルールだから、適當に運用する人間はない」

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レイナルド様の聲はしだけ厳しいものになっていて。その人への怒りをじてしまう。

私だって、別にデイモンさんを庇いたいわけではない。

でも、今ここでお話ししたら、レイナルド様は工房に手を回してしまう。デイモンさんにはきっと厳重注意。もしかしたら、レイナルド様が一緒だったことで事態を重く見られて配置換えになるかもしれない。

この前、商業ギルドで私の代わりに手続きをしてくださったレイナルド様の姿や、私のために偶然を裝って料を降らせてくれたミア様の顔が思い浮かぶ。

私はずっとこうやって守られていてもいいの。一人で自立して生きていきたいのに、誰かに守られて嫌なことから目を背けてもいいの。

「……も、も、もし、意図的なものでも、私はその人に謝罪をしてほしいとは思いません。これが今の私への評価なんだと思います。……でも、私に仕事を依頼してくださったローナさんには申し訳ないなって。時間までに間に合えばいいのですが」

「さっきからずっと見ていたんだけど、今フィーネが集めてるのって宮廷錬金師が特別に生するレベルの魔法道の素材だよね。それはいつ使うの?」

「今日の夕方までに必要だと言われています」

「なるほど。どうしてこういうことになったのかは十分に理解できたよ」

その言葉で何となく納得する。そっか。もしここに閉じ込めたのがデイモンさんなのだとしたら、私がローナさんのアシスタントとして失格にしたいのだと……思う。

「フィーネの気持ちはよくわかるよ。俺も、フィーネのことはすごく応援してる。自分ひとりの力で頑張ろうとする姿には元気をもらえるんだ」

でも、と厳しい聲でレイナルド様は続ける。

「今回は偶然俺が一緒だった。だからクライドに出してもらえるし結果的には問題ない。でも今は冬だ。この保管庫も溫度変化がなくなる魔法道を使ってはいるけれど、魔法のように萬能ではない。俺が言いたいこと、わかるよね?」

「……」

その言葉に、しの寒さを思い出して私はローブをぎゅっと摑む。夕方になったらここはもっと冷えるだろう。

もし私の失敗が目的なのだとしたら、デイモンさんは夜になる前に出してくれるとは思う。というか、私もレイナルド様が一緒じゃなかったら魔法で扉を壊して出するとは思うのだけれど……。

けれど、レイナルド様が心配していることがわかって言葉にならない。

「そんなところにフィーネが閉じ込められたら、って思うと、怒りが収まらないんだけど?」

いつも優しいレイナルド様のこんなに的で真剣な顔は、見たことがなくて。

保管庫の中にしんとした沈黙が満ちる。どう答えたらいいのか迷っていると、扉がガンガンと叩かれた。

「レイナルド、おせーよ。……っあれ、何でここ鍵がかかってんだ?」

それは、レイナルド様が戻らないことを心配して來たらしいクライド様だった。レイナルド様はすぐに扉の側へ行く。

「中にいるよ。アクシデントがあって閉じ込められた」

「マジかよ。えーとこれ鍵どこにあるんだっけ?」

「工房に保管されている。多分、デイモン・アグニューに聞くと早いな」

「おっけ。待ってて」

クライド様の足音が遠ざかっていく。それが聞こえなくなってから、レイナルド様は私に向き直って微笑んだ。さっきとはまるで違う、穏やかな表に戻っていてなぜかホッとしてしまう。

「……それでつまり、俺が出來るのはここまでってことでいいの?」

「……はい」

「本當に? 今回だって、し違えば取り返しのつかないことになってた」

「……わ、私、さっきまですごくいろいろなことを考えていたんです。薬草園付きのメイドなのに本當にいいのかな、とか。でも……期待に応えて、皆に認めてもらえるように頑張りたいと思います」

そうして、私は素材をいっぱい詰めたバスケットをぎゅっと抱きしめる。

レイナルド様とお話していてわかった。

――見返すなら、誰かに頼るのではなくて自分の力でしないといけない、って。

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