《【書籍化】世界で唯一の魔法使いは、宮廷錬金師として幸せになります ※本當の力はです!》28.ローナさんのお手伝い②
詳しいローナさんのお話では、“空飛ぶ絨毯”とは浮遊式の踏み臺のことだった。
「ほら、工房の衝立裏の倉庫も、高いところにある素材を取るのは大変じゃない? 皆が梯子に登るのを見ていて考えたのよね。もっと安定があって、安全に簡単に使える魔法道は作れないかなって」
「た、確かに高いところにある素材を取るのは……しだけ大変です」
素材を揃えるのは私たち見習いの仕事で。自分の長の二倍ほどもある高い梯子に登るのは怖いと思うこともある。
そういえば、工房の手伝いを始めて數日目、あの梯子を見て固まった私に、先輩が『怪我をしてもここには出來立てのポーションがあるから大丈夫よ』ってけらけら笑いながら教えてくださっていたような。ミア様なんかは、誰かにやってもらっているけれど。
ローナさんは、私が持ってきた小瓶のひとつを窓越しのにかして「いい素材ね」と微笑んでから続けた。
「語に出てくる本當の“空飛ぶ絨毯”みたいに、乗って飛べたらいいなって思ったのだけれど。なかなか難しいじゃない?」
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「は……はい。大きな力を確保することはもちろんですが、安定を維持するのは並大抵の難度ではなさそうです……」
「そうそう。いくつか試作品を作った上で、落とし所が見つかったの。シルバーウルフの爪を使って安定を増しつつ、空をふわふわと自由に飛び回るのは諦めようって」
「でも、室は飛び回れます……! 人間を乗せて浮いて移できる乗りなんて、本當にすごいです! 普通は、魔法道のキーとなる魔石にどんなにたくさんの効果を持たせても、力や調節の難しさがあって実用化しにくいところです。それを、夢の魔法道に組み合わせてしまうのがすごいです……!」
「……」
いきなり聲が大きくなってしまった私に驚いたような視線をくださった後で、ローナさんはふっと笑った。
「……アカデミーを出ていないと宮廷錬金師にはなれない、っていう規則は馬鹿みたいね。魔力と知的好奇心の両方を持ち合わせているのが貴族令息・令嬢だけなんて考えが古すぎるのもいいところだわ」
「あの……?」
「ここの工房はね、子どもの頃から私にとっても憧れの場所だったの。今回の空飛ぶ絨毯は私の夢の延長線上にあるのだけれど……あなたたちみたいな子の助けになると思うと、それもうれしいわ。今日の生、絶対に功させたいな」
「は、はい! 私も頑張ります……!」
「これ、生の手順なの。フィーネさんも目を通しておいてね」
「承知いたしました……!」
ローナさんから渡された紙には、今日使う素材のほかに生の手順が細かく書いてある。普通のポーションの生と違って、やっぱり複雑な段階を踏むことになるみたい。
拳を握り締め、決意を固めたところで私ははたと気がついた。
シルバーウルフの爪はとても貴重な錬金の素材だし、ここには一つしかない。つまり、絶対に失敗できないのでは……? たらり、と背中を冷や汗が流れる覚がして、私は慌てて頭をぶんぶんと振った。
――大丈夫。ローナさんに限って失敗するなんてこと、ないもの。
夕方、仕事を終えた皆がローナさんの個人用のアトリエに集まってくる。錬金を扱うのに不便がないようそれなりの広さがあるこの個室だけれど、実験用の機周りを除いて、人でいっぱいになっている。
たくさんの人がいるとドキドキしてしまう私は、ただ靜かに息を吐く。吐く。吐きすぎて苦しい……!
「顔が白いけど大丈夫?」
「れ、レイナルド様」
なぜか、この部屋にはレイナルド様とクライド様の姿もあった。
私がレイナルド様と言葉をわしているのを見たことがある人はたくさんいる。けれど、私がレイナルド様に手伝っていただいて魔法道を商業ギルドに登録してからは、人目につくところで顔を合わせるのは初めてで。
さすがにあからさまな言葉は聞こえてこないけれど、し注目を浴びてしまっているじがしてさらに張してしまう。
「だ、大丈夫です。し張しているだけで、」
「――“今日の夕方までに必要な宮廷錬金師用の素材”。こういうことか」
「はい。しっかりとお手伝いをしてまいります」
レイナルド様が意味深な言い方をされたので、私はきっぱりと答える。自分で何とかすると宣言したのだから。
それにしても、私たちの會話に皆が聞き耳を立てているような……! この前、階段のところで私を引き留めた先輩方や、さっき私を保管庫に閉じ込めた容疑がかかっているデイモンさんの姿も視界の端に映る。
ちなみにミア様はいらっしゃらない。業務終了時間ぴったりに寮の部屋に戻っていくミア様のドライさが今は懐かしかった。
周囲の視線は気になるけれど、せっかくローナさんが“夢”とまで表現していた魔法道の生のサポートに選んでもらえたのだ。人が苦手とか、視線が怖いとか言っていないで頑張らなきゃ……!
「さぁ、生を始めましょうか」
作業機に設計図を広げたローナさんが、自信たっぷりに微笑んだ。
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