一瞬、視界が白くなった。

白さは一瞬では終わらなかった。チラチラと視界を邪魔してくるを認識するのと同時に、無邪気に私の加工を褒めてくださるクライド様の聲が遠ざかるじがする。急にから力が抜けて、立っていられない。

そうだ……！　すっかり忘れていたけれど、これは魔法なのだった……！

前に、アトリエで魔法を使ってみた時のことを思い出す。魔法は特別に魔力を消費するもののようで、私はあの時、顔が真っ青になってしまったのだった。きっと、今の私はその時と同じような顔をしている気がする……！

加えて、皆の注目がこちらに集まりつつあることにも気が付く。どうしよう。ドキドキして呼吸が早くなっていく。

そんな私を救ってくださったのは、意外な方で。

「……これを」

あまりのの重さに耐えきれず作業機に手をついた私に、椅子が差し出された。反的にその腕を辿って顔を見ると、そこには気まずそうな顔をしたデイモンさんがいらっしゃった。

「あの、デイモン、さん……？」

「……すごいな。難しい加工を一回で……。隨分修行してきたんだろう」

「あの、いえ、あの、」

「悪かったよ。何のことかわからないと思うが……本當にすまなかった。この言葉だけはけ取ってほしい」

「……！」

このアトリエにいる皆は、きっと「別室で加工したい」と言った私をデイモンさんが引き止めたことへの謝罪とけ取っていると思う。

けれど、私にはわかる。これは保管庫に閉じ込めたことへの謝罪だ。

不思議と怒りは湧かない。そんなことよりも、同じ錬金師としての力を認めてもらえたことへの喜びの方が大きくて、私はただこくこくと頷くしかなかった。

そのうちに、デイモンさんの後ろの同僚の皆様は青白くなった私の顔に気がついて、しずつざわざわし始める。

「あの子の顔……魔力がないのか」

「だよね。だってアカデミーにいなかったもん。魔力が多い貴族の出じゃないんでしょ」

「魔力がなくてもあんな加工を……！」

「ローナさんのサポートに指名されるのは當たり前だな。誰だよ、初め無視したの」

いろいろな勘違いが組み合わさって、なぜか私を稱賛する聲が広がっていく。待ってどうしてなの……！

予想外すぎる事態に、椅子に座ったまま俯きかける私へ、レイナルド様が振り返って誇らしげな笑みを見せた。

「同じ錬金師だ。フィーネにどんな知識と技量と経験があるのかは、言葉をつくすよりもたったひと目見せるほうが圧倒的、か」

「……レイナルド様……」

「これ、ローナに渡してくる」

そうして、加工を終えたばかりのシルバーウルフの爪を生中のローナさんのところまで屆けてくれた。ありがたい、と力のらない足を恨めしく見つめる私に、數歩で戻ったレイナルド様は紫の小瓶を取り出した。

「フィーネ、これを」

「持ち歩いてたのかよ」

すかさずれられたクライド様の突っ込みとともに現れたのは、魔力を回復させるポーションだった。厳に言うと、私のこれは魔力切れではない。魔力が猛スピードで消費されたため、一時的にフラついているだけだ。

魔力量に優れた人間なら、きっと使い慣れればこんな癥狀は出にくくなる。

けれど、皆の視線が私に集まっている。この場を切り抜けるために、私は紫の小瓶にったポーションをごくごくと飲んだ。

「！　あ、おいしいです」

「俺が生したポーション、フィーネが飲むのは初めてか」

「……！？　レイナルド様が！？」

この部屋がさらにざわついたのは気がつかなかったことにしたいです……！

最後に加える予定だった素材・シルバーウルフの爪の準備ができたので、メインの作業機ではローナさんの生が終盤に差し掛かる。

魔法道を形作る砂が魔力に煌めいて、幻想的な景を生み出していた。やっぱり、錬金ってきれい……！

皆に混ざってぼうっとそれを見つめる私に、レイナルド様がそっと耳打ちをしてくる。

「フィーネ。さっきまで何か生してた？」

「……！」

レイナルド様は、本來私がこれくらいでは魔力切れを起こさないことを知っている。だから不思議に思っているのだろう。けれど、何と答えるべきなのか思い浮かばなくて。

優しくも何かを探るようなレイナルド様の視線に捉われないようにしながら、私は無言で微笑んだのだった。

いろいろなことがあったけれど、私が初めてサポートを頼まれたローナさんの新しい魔法道は完した。

翌日、私はその『浮遊式の踏み臺』を使って一番に棚の高いところから素材を取る権利を得られた。

最初だけし怖かったけれど、乗り心地は抜群に良くて。細かいところまで研究を重ねたローナさんの試作品に関われたことが本當に幸せに思えた。

ちなみにミア様は私から踏み臺を奪うと、とても楽しそうに乗りこなしていらっしゃった。

――とにかく、その適応力の高さを見習いたい。

次回の更新は7/24の20時ごろを予定しています。

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■7/8に完結しています！

ヒーローが不憫な7萬字ほどの中編です。

『顔だけ聖なのに、死に戻ったら冷酷だった公爵様の本音が甘すぎます！』

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