《【書籍発売中】砂漠の國の雨降らし姫〜前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました〜【コミカライズ】》3 はぐれ馬

「イーサン、今日はこの列の芋を掘り出すわよ」

「わかってる!」

イーサンたちがここに來てから三年が過ぎた。私は八歳、イーサンは六歳になった。私達は非力ながらも自分の家の農園で働いている。

芋を引っこ抜くのは大変だけど楽しい作業だ。土の中からボコボコと大小様々な大きさの芋がきれいなを見せる瞬間が面白い。

お姉さん狀態の私は、イーサンが掘った後をもう一度手で探って掘り殘しがないか確かめる。

「殘ってないよ!俺がちゃんと確かめたもん」

「ううん。見てよ、ほら、中くらいの芋がまだこんなに殘ってた」

イーサンは悔しそうな顔をした。駆けっこでも畑仕事でもイーサンは二歳上の私にかなわない。長だって私のほうが高い。それは仕方のないことなのだけど。

やがて私達は芋の収穫に疲れて休憩することにした。甘酸っぱい柑橘類のポンカの実をもいで皮をむき、手や顎からを滴らせながら実を食べた。甘酸っぱいポンカは飲み水がわりだ。何個でも食べられる。

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「それにしても不思議だな。アレシアは僕よりここに長く住んでいるのに、まだ一度も雨を見たことがないんでしょう?」

私はこの話題が苦手だ。

「あるわよ。この前晝間にし降ったじゃない」

「違うよ、毎晩夜に降る雨のことだよ。細かくて優しくて、すごく素敵な雨なんだよ」

「ふうん」

二人の會話を近くで聞いていた私の両親の顔がわずかに引きつっている。

私は二年前、六歳の誕生日に自分の力のことを知らされた。いイーサンが何かのはずみで他人に喋ってしまわないように私は雨のを厳しく口止めされている。

「だって夜は眠いもの。起きてられないんだからしょうがないわよ」

「いつかさ、夜に起きていられたら二人で夜の雨の中に出てみようよ。とっても気持ちがいいんだよ」

私は返事をしなかった。

この會話はもう何回も繰り返されているからだ。

何度か母に頼んで夜に起こしてもらったことがあったが、雨はいつも私がベッドを降りて家の外に出るまでのわずかな間に止んでしまう。だからもう諦めていた。

休憩の後は芋の泥を落として木に並べた。これで今日の仕事は終わりだ。家に戻り、私達は雨水を溜めてある大きな樽のところで手足を洗った。

手足を洗うときは雨水をそのまま使い、飲み水は家の中の濾過で濾《こ》されたものを飲んでいる。砂や炭を層にした樽に上から雨水を注ぎ、下から出てくる水を飲む。雨水とは思えないほどおいしい水だ。

「水を売ったら絶対に儲かるよ」とイーサンは何度も親に訴えたらしいが、大人たちはそれをしない。

イーサンの両親のナタンおじさんとベニータおばさんはここに住んでしばらくする頃には私の能力に気づいていた。

私が疲れて晝寢をすると晴れているのに雨が降り出したし、夜の雨も月や星が出ているのに決まった時間になると降り出す。そして私が起きる時間になると止む。気づかないほうがおかしいのだ。

だからナタンおじさんとベニータおばさんは、本當ならここに呼び寄せたい親戚を呼ばないし水も売らない。私の力を誰かに知られて私がここにいられなくなると恐れているからだ。私がいなくなることはこの農園の終わりを意味する。

「砂漠の國で雨を降らせることのできる娘がいるなんて知られたら、アレシアちゃんがどんなことになるか。どう考えても幸せな結果は思い浮かばないわよ」

ベニータおばさんは私のことを自分の娘のように大切にしてくれる。

私たちの住む農園は、二軒の家を中心として野菜畑、果樹園、麥畑、牧草地の順に緑が円形に広がっている。牧草地帯にいるラクダは狐や砂漠貓が襲うには大きすぎるから安心だが鶏は襲われる。だから鶏だけは家の隣で育てているしラクダも子供のうちは鶏の隣で育てられる。

砂漠で貴重な緑を求めていろんなが農園にり込む。柵を作りたくても農園を全部囲むほどの木材はお金がかかるし、たとえ買えたとしても大量に木材を買い込めば噂になってしまう。だから牧草地帯は砂漠と地続きだ。父は周辺のあちこちに罠を仕掛けているが、完璧に防げるわけではない。

その日、私とイーサンと父、ナタンおじさんの四人で果樹園にネクタの実を摘みに行った。ネクタは紅で皮は薄く果は黃い。甘い果がたっぷり詰まった味しい果実だ。

私とイーサンは下の方に実っているネクタを専門にもぎながら歩いている。

中程から上の実を収穫している父たちとはし距離があった。すると前方で野生のはぐれ馬が一頭、果樹園にり込んでムシャムシャとネクタを食べているのを見つけた。

「イーサン、すぐにお父さんたちに知らせよう」

野生の馬は人間に懐かないし攻撃的だ。だけどイーサンは初めて出會った野生馬のことを怖がらなかった。

「なんでだよ!アイツを捕まえて連れて帰ろうよ。馬がタダで手にるじゃないか」

「私達には無理よ。あれは調教されてないもの」

六歳のイーサンは最近私の言うことを聞かない。今も私の制止を振り切って馬に近づいてしまった。

「おいで!こっちだよ!俺と一緒に家に行こう!」

見上げるような大きな馬にイーサンが近寄る。大聲を出せば馬を興させてしまうから私は小走りでイーサンに近寄って腕をつかんで引き戻そうとした。

「なんだよっ!やめろよっ!」

『ブワアアアアッッ!』

イーサンが大聲を出したせいで馬はいきり立って鳴き、後ろを向いた。イーサンを蹴るつもりだ。あんな大きな馬に蹴られたら死んでしまう。

私はイーサンを引き倒してその上に覆いかぶさった。直後、激しい衝撃が私のを襲い、私は吹っ飛んだ。

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