《【書籍発売中】砂漠の國の雨降らし姫〜前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました〜【コミカライズ】》13 おうちでサンザシ飴

この國の第一王子マークス・ハイム・ラミングは數の護衛を連れてあの『円形農園』に來ていた。部下からの報告通り、農園は枯れ果てて砂に埋もれつつあった。

「なあギル、こんな不思議なことがあるものかな」

「殿下、ここの住人はここに雨が降らなくなることを知っていたのでしょうかね」

「または雨を降らせる手段を失ったのかもな」

「雨を降らせる手段があったら我が國にとっては大変な福音《ふくいん》ですね」

「民の暮らしは楽になるだろうな」

眺めても何も得るものがないと判斷して、マークス王子は馬に乗った。

ここからはゆっくり帰る予定だ。

「ギル、お前、最近夜中に降るようになった雨を知っているか?」

「はい。サーッと降る通り雨ですね」

「頻繁に降っているな」

「頻繁とは言っても週に一度か二度くらいでしょうか」

この國にその頻度で雨が降ったことなど今まではなかった。

「さっきの農園と関係あると思わないか?」

「うーん、あの程度の通り雨では農園は維持できませんね。私の母方の祖父の家は農家ですので、それはわかります」

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「そうか」

(僕の勘ぐりすぎか)

広い砂漠で馬を走らせるのは楽しい。鷹を飛ばせて狩りをするのも楽しい。

王宮にいると宰相が婚約者候補の話を何度も持ってくるのが鬱陶しい。いずれ結婚しなくてはならないのは承知しているのだが、今はその気になれなかった。

隣國の第二王子だった祖父がこの國の王になってからこのラミンブ王國は平和だ。この國の前だったシェメル王國は王族や上級貴族が軒並み処刑されても名を変えて國は存続した。父上は『民がいる限り何があっても國という存在が消えてなくなるわけじゃない』とおっしゃる。『だからこそ我々は民のために生きねばならない』とも。

マークスは乾いた熱い風の中を移しながら父の言葉を思い出していた。

・・・・・

「お母さん、サンザシがもう実をつけたよ。ほら!サンザシ飴、作れるかな」

「あらぁ、早かったわね。値段がし高くても大きい苗を買うと実るのも早いわね」

「実がなる木って楽しいよね。私、挿し木してサンザシの木を増やすつもり」

「それがいいわ。そういえばお母さんは子供の頃、サンザシ飴も好きだったけど、たまに親が市場で売れ殘りの見切り品を買ったと言って食べさせてくれる桑の実もご馳走だったわ」

桑の実?見たことも食べたこともないような。

「どんな味なの?」

するとそこにいたハキームが答えてくれた。

「黒に見える濃い紫で、すと甘くて味しいんだよ。王都の植園の前で水売りしてたときに門番さんがしだけ食べさせてくれたことがある。水が好きな木だからあんまり見かけないね」

「へええ」

水ならある。我が家で育てられないかな。

何本も育てて、実ったらムシャムシャ食べてみたい。

夕方に両手でひとすくいほどのサンザシの実を使ってサンザシ飴を作ってもらった。

ヤシの実から作られるヤシ糖を煮溶かして飴がけするのを母がやって見せてくれた。

「七人で分けるとほんのひと口ずつね。これからどんどん収穫できるから、沢山採れたらまた作りましょう」

そう言って母がみんなのお皿の隅っこにサンザシ飴を十粒ぐらいずつ置いてくれた。

みんな「味しい」「懐かしい」とはしゃいで食べたのだけど、ハキームだけはニコニコするだけでサンザシ飴を食べない。

気になったので食事を終えたところで隣の席のハキームに「サンザシ飴、嫌いなの?」と小聲で聞いた。するとハキームは真っ赤になって

「嫌いじゃないよ。食べたことがないんだ。これは妹に食べさせたいから、持ち帰ってもいいかな」

と小聲で返事をした。

しまった!そうだった!

十三歳のハキームが気遣いできることを心は大人の私が気づかなかったことが恥ずかしい。どうして彼の家族のことを考えてやれなかったんだろう。

「あらハキーム、安心して食べなさいよ。ほんのしだけどあなたのお母さんと妹さんの分は取り置いてあるわ」

「本當ですか!ありがとうございます。でも、これはやっぱり家族と一緒に食べたいから持ち帰ります」

母は「優しいのね」と微笑んだ。

私は母の背中に後ろから抱きついて顔を背中にグリグリこすりつけた。イーサンやおじさんたちがびっくりしている。私はあんまりベタベタする子じゃなかったものね。

「あらあら。どうしたの?」

「お母さん。私、お母さんが大好きよ」

「うふふ。ありがとう」

前世、親に抱きつくなんて記憶の限りしたことがない。私はこの母が本當に大好きだ。こんなに優しく素敵なが母親であることが心から嬉しかった。

家族思いのハキームを育てた彼のお母さんも、きっと素敵な人に違いない。

「お母さん」

「なあに?」

「私、お母さんの子供に生まれてきて本當に良かった」

「お母さんもアレシアが生まれてきてくれて良かったわ」

「アレシア、父さんは?」

「お父さんも大好きに決まってる!お父さんの子供で良かった!」

これは本當だ。こんなに幸せな子供時代を過ごせることを毎日謝して暮らしている。

人生をやり直させてくれた神様にも(私をこの家に生まれさせてくださって本當にありがとうございます)と母に抱きついたまま謝の気持ちを送った。

今日明日あたりは「ほのぼのタグ」を付けていても詐欺ではないはず。

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