《【書籍発売中】砂漠の國の雨降らし姫〜前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました〜【コミカライズ】》18 イゼベルとチャナ

農園を見に來たイゼベルさんの助言は「まずは桑の木を増やすこと」だった。

「これじゃ全然足りないよ。繭を作る前の蠶はすごい食なんだ。絹布の話はもっともっと桑の木を増やしてからだね」

そこまで言ってからイゼベルさんは手にとった生糸をでながら呆れたように言葉を続けた。

「生まれて初めて紡《つむ》いだ糸にしては素晴らしい出來だよ。ほんとに本を読んだだけかい?」

「ええ。本を読んでここまでどうにか」

イゼベルが頭を振る。

「呆れたねえ。蠶が病気にもならず素人がこんな強くてしい糸を紡いだなんて」

「良い糸ですか?」

「ああ、とびきり上等な糸だよ。あんたは才能があるんだね」

嬉しい。そんなふうに褒められると思わなかった。何しろ本で読んだだけの素人仕事だったから。

今日のお客さんはイゼベルさんの他にもうひとりいた。ハキームの妹のチャナだ。チャナはハキームが持ち帰る水や食べを口にするようになって二ヶ月くらいで薬と縁が切れたと言う。

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「うちの水や野菜にそんな効き目があるかなあ」

「ありますってアレシアさん。私は何年も寢込んでいたのに、こちらの水と食べを口にするようになったらしずつ良くなったんですよ。絶対にそうですって!」

チャナがそう言い張る。

チャナは小柄で細いはそのままだけど、今日はラクダに乗ってここまで來ることができたし、珍しそうに家の周りの鶏小屋や畑を見て回ることもできた。力もついたのね。

「私、けるようになってからも家の近所を母さんと散歩するぐらいで、農園を見るのは初めてなんです」

チャナはおしゃれをしてきたらしく、薄青のワンピースを著て明るい茶の髪は青いリボンでひとつに結んであった。ハキームと同じ緑の目は優しげに丸い。とても可くて、最初に見た時に(妖?それとも天使?)と思ったくらいだ。

やがてハキームは農作業に行き、私とイゼベルさん、チャナの三人が殘された。

「もうすぐお晝だから食事を用意しますね。ご馳走は作れないけど、うちの野菜と卵は味しいの」

「アレシアさん、私も手伝います!」

「お願いします。うれしいなあ。私、の子とおしゃべりするのは初めてなの。すごく嬉しい!」

「えっ……?」

驚くのも無理はない。九歳の元気な子供がここまで友達がいないのも珍しかろう。

「私、ここに引っ越してきてまだ一年くらいだから。前はあまり人が住んでいない所で暮らしていたの」

「ああ、そういうことなのね。よろしくお願いします、アレシアさん」

「私はちょっと農園を見させてもらうよ」

「はいどうぞイゼベルさん」

お晝ごはんの時間になってみんなが我が家に帰って來た。

父や母、おじさんおばさんに頭を下げてチャナが挨拶をする。最後に帰ってきたイーサンにも。

そのイーサンがり口でかたまっている。

「え?」

辺りを見回したけど、彼がそんなに驚くようなは何も見當たらない。他のみんなは別に驚いてないしキョロキョロもしていない。どうしたイーサン。

他の人たちは食を並べたり料理を取り分けたりしているのにイーサンだけがり口で突っ立ってる。イーサンが馬鹿みたいにポカンと口を開けて見ているのはチャナだった。チャナはスプーンを並べていた。

(イーサン、もしや)

食事を始めてもイーサンは間抜けな顔でチャナを見ている。チャナはみんなにあれこれ話しかけられて楽しそうに喋ったり、蒸した麥に鳥と野菜の炒めをかけた料理を「味しい!」と言いながら食べたりしている。

イーサンだけが別の世界にり込んでるみたいだ。

(もしかして初?一目惚れ?)

「どうかしたのかアレシア」

「なんでもないわお父さん」

今、食卓には九人もいるから、みんなそれぞれ近くの人と喋っている。私はイゼベルさんに話しかけた。

「イゼベルさん、糸を巻き取る道って売ってるんですか?」

「売ってるけど、簡単な作りのなら素人でも作ることができるよ。あとでハキームに教えておくから作ってもらいな」

いいの?とハキームを見ると、ウンウンとうなずいてくれた。経験者がいると話が早い。

「アレシア、さっきからキョロキョロしてるけどどうした?」

「あー。なんでもないわハキーム。ちょっと見慣れないものを見ただけ」

芋とゆで卵の煮込みを食べていたイゼベルさんが私の返事に興味を持ったらしい。でもさすがに全員の前でイーサンの初を暴するのは気の毒だ。

「なんでもないから、食事を続けてくださいな」

夕方。

ハキーム、チャナ、私、イゼベルさんの四人が二頭のラクダに乗ってハキームたちの家に向かっている。泊まっていけばと言ったけど、みんな遠慮したみたい。帰りは私がラクダを二頭引き連れて帰る。片道二キロ半だから、すぐよ。

私はイゼベルさんと二人乗りしていたのだけど、イゼベルさんが話を蒸し返した。

「アレシア、あんたずいぶん驚いていたようだけど、どうしたのさ」

「あー。実はイーサンがチャナに見惚れていたんで、その、初なのかなぁって」

「あっはっは。アレシアもイーサンもほとんどあの農園から出ないで暮らしているんだろう?新しい人間に出會うこともないだろうからね。チャナの可さにびっくりしたんだろうね。いいことじゃないか」

「はい。チャナはとびきり可いですもんねぇ」

どこへ行くにも私にくっついて來たイーサンの初だとしたら、お姉ちゃんは嬉しいような寂しいような。

まだ七歳の可らしい初なら、靜かに見守ってあげないとね。

次回は一年かけて紡ぎ溜めた糸で絹布を織ってみたら……というお話です。

一年後が舞臺になります。

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