《【書籍発売中】砂漠の國の雨降らし姫〜前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました〜【コミカライズ】》26 ギルの友人アル

セリオ農園に養蠶用の小屋ができた。

「これで仕事がしやすくなっただろう?」

「ありがとうお父さん。あの絹布は儲けにはならないのに」

「いいや。儲けるだけが全てじゃないさ。それにお前のおかげで父さんたちは十分儲かってる。いいんだ。神様はすべて見ていてくださるよ」

「そうよ。あなたの力はきっと神様がみんなのために必要だと判斷なさったものよ」

そこで枯れた聲が割ってった。

「安心しな。絹布の方は順調に人助けに役立ってるよ」

イゼベルさんは膝の調子がすっかり良くなり、週に一、二度うちに歩いて通って來ている。「ここでみんなと晝食を食べられたらそれでいい」と賃金をけ取らずに養蠶や織を手伝ってくれている。

母はイゼベルさんにも「よかったら食べて」と言って帰りに何かしら野菜や食べを持たせているようだ。

ギルさんが最初に「ここで果を買うし飯代も払うから晝飯を食べさせてほしい」と言いに來たときは、父が丁重にお斷りした。でもギルさんは、諦めなかった。

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彼は王宮の兵士で、この前プティユを食べて味しかったと友人に話をしたら、その友人が「僕も食べたい」と言い出したそうだ。

「申し訳ないけどできたてのプティユを友達にも食べさせてやってくれないかな」

育ちの良さそうなギルさんが頭を下げて頼むから最後は父も斷れなくなり、私とチャナの二人でギルさんと友人のためにプティユを作ることになった。

「ギルの友人のアルです。食べに來ることを許してくれてありがとう。謝します」

そう挨拶したアルさんも兵士だそうで、ギルさんと同じような平民の服を著ていた。長い黒髪を革紐で結んでいて、青緑の目が綺麗で頭の良さそうな人だった。アルさんの馬もギルさんの馬同様立派で大きかった。

(二人ともあの若さでこんないい馬に乗っているのだから、お偉い貴族なのではないかしら)

そう思った私は「これ以上話が広まったら困るからうちの食事のことは緒にしてくれますか?」と條件をつけて引きけた。

十歳の農家の子供が貴族に條件をつけるなんて生意気にもほどがあるけど、そこは「十歳なんでそんなにたくさん作れないんです」と半泣きの顔をすると言う子供限定の武を使った。それにお母さんとおばさんは畑仕事で手一杯なのは本當だしね。

チャナと二人でプティユを作り、揚げたてをお出ししたらギルさんもアルさんもバクバクと無言で食べた。あっという間に六個のプティユは二人に完食された。その他にも農園のみんなが食べる豆と芋の塩味のスープ、ネギの卵とじ、葉野菜と羊の煮込みも「味い味い」と言いながら食べた。

「どれもとても味しかったよ。君はプティユの作り方を本で學んだんだって?」

「そうですよ、アルさん」

「本をよく買って読むの?」

「いえ。図書館で読みました。図書館て素晴らしいですよね!」

アルさんが驚いた顔をしていたから農民が図書館に行くのはやはり珍しいようだ。

「それにこの家の水は格別に味いね」

「濾過に炭をたくさん使ってるからかもしれません」

私にとって炭は伝家の寶刀だ。なんでもかんでも「炭をたくさん使ってますから」で乗り越えている。

二人は帰り際に「代金です」と言って大銀貨を一枚出した。母が「そんな大金は絶対にけ取れない」と言って二人から小銀貨二枚ずつをけ取った。最初、一人一枚でいいと母が言ったら「手間をかけさせてるから。それはなすぎます」と押し問答になっていたっけ。

二人の食事はそれで終わりかと思ったのに、なぜかそれ以降も時々ギルさんとアルさんが予約してからご飯を食べに來る。

大柄なギルさんとアルさんが眉を下げて『ほんとに食べたいんです』みたいな顔をしていると大きな犬がしょんぼりしているようで、斷り続ける私達が意地悪しているような気分にさせられる。

まあいいか。二人分増えても手間は変わらないんだし。それに二人はみんなと楽しそうに會話していて、農園のみんなもすっかり打ち解けて二人が來るのを嫌がってはいないみたいだ。

雨が降る範囲はもう、うちの農園を大きく超えている。もううちだけが怪しまれるような範囲ではないのだ。多分。

それに私は二人がどの料理を食べても「味しい!」と母直伝の庶民料理を絶賛してくれるのが嬉しかった。裕福そうなんだからいくらでも立派な店で食べられるだろうに。

そう言うとアルさんは「いや、どこで食べるよりここで食べる方が味しいし楽しい」と笑う。

農園で食事をしたある日の帰り。

マークス王子は農園で楽しそうに過ごせば過ごすほど帰りは考え込んでいる。

ギルは食事のついでに購したネクタとポンカと桑の実を傷めないように靜かに馬を歩かせながらチラリと主を見た。ギルは主のマークス殿下が農園のことをどう扱うべきかずっと悩み続けていることに気づいていた。

主はこの國の役に立つ知識なら彼らから學んで広めたいのだ。

だけどそれがそういう知識なのか、彼らだけの魔法のようなものなのか、彼らが自分たちの正を知った時に逃げて消え去るのではないか、などを全て含めて判斷に苦慮しているのだ。

(強権発はなるべくしたくないんだろうな)

そこが主の思慮深く優しいところだとギルは思っている。

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