《【書籍発売中】砂漠の國の雨降らし姫〜前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました〜【コミカライズ】》30 ヤエル婦人(2)

ヤエル婦人はあえて自分から夫人ではなく婦人と呼ばせているので誤字ではないのです。しばらく後にその事が明かされます。

この國では聞いたこともないヤエル婦人の話に、私はただただ驚いている。

「バルワラではとにかく『知識は力』と言われてね。代々學者のが流れるバルワラ王家では國を長させる要として學文化の振興に力をれているの。この國の大洪水も、記録を取り続けていたバルワラではある程度予測できていたわ」

「ええっ」

私は本當に驚いた。

大雨を予測するなんてことができるのだろうか。

「正確にいつ降るかまではわからないんだけどね。心構えをせよ、と通達は出されてたわ。バルワラ王國の學者たちは王家の指導でとにかくありとあらゆる記録を取ることを大切にしているの。すると周期的に大雨が降ることや日照りが起きること、バッタが異常に増えることなどがわかるの」

「周期があるんですか?」

とハキームが質問した。

「ええ。ただ、周期が長ければ長いほど予測を立てるのが難しいのよ。でも、いずれ來ると言うことはわかる。當時のシェメル王國が大雨をアウーラのせいにして処刑してしまったと聞いた時には私の両親たちは愕然としたそうよ。知識が無いということはそんな恐ろしい悲劇を生むのだ、だからお前たちは學ばなければならないって、私だけじゃなく當時の子供たちは繰り返し親から言い聞かせられたものよ」

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ハキームはたいそう心して話を聞いている。私は力してしまって気の利いた相槌を打つこともできなかった。東の隣國では大雨が私のせいじゃないことを當時から知っていた、という衝撃の事実に頭の中が真っ白になった。

「でも、この國の人たちは『証拠があった。アウーラはバルワラと約をわしてこの國を侵略させるために洪水を起こした』『アウーラは自國よりもかな國の王妃になるつもりだった』って言うけど、結局、侵略なんかなかったじゃない?」

「でも私、歴史の本で読みました。侵略はされなかったけど、この國で起きた反で応援したのはバルワラ王國ですよね?」

ヤエルさんがまた心したような顔で私を見た。

「そうよ。だって魔法使いアウーラとバルワラ王國が約を結んでいるとシェメル王國が偽証したんですもの。私の父は當時バルワラの下っ端外だったから、それはそれは大変だったのよ。長いこと家に帰らずに仕事に追われていたわ」

ヤエル婦人の話では『アウーラと約を結んで侵略の機會を狙っている』とされたバルワラ側は蜂の巣をつついたような騒ぎになり、議會で対策を練っていたそうだ。その最中にこの國の民衆の間に反王家の気運が盛り上がっていることを知り、そのきを支援することにしたのだという。

「バルワラ王國は自分の國と民を戦爭から守るためにシェメル王家を倒すことに力を貸したの。バルワラとアウーラに洪水を起こされたと信じている民衆の怒りは凄まじかったから、いずれこの國が復興したらバルワラが攻撃されるだろうと判斷したのよ」

「先手を打ったのですね?」

「ええ。シェメルの軍部の一部と手を結んで反から応援したの。結果、バルワラ王家の第二王子がこの國の王に収まったわけ。當時、愚かな法律が次々打ち出されて民衆の怒りの矛先がシェメル王家に向かったのが幸いしたのよ」

「そんな重要なことを俺たちに喋ってしまっていいんですか?」

「あら。今のラミンブ王家はみんなそのことを知っているし、この國で政治を執り行っている者たちも全員が知っていることだわ。今のこの國の高位貴族たちはその時に王家を見限ってバルワラ側に協力した人の子孫がほとんどのはずよ。今の貴族たちがアウーラについてどう考えているかまでは私にはわからないけれど」

そこまで喋ったヤエルさんは「大変、勉強する時間がなくなっちゃう」と慌てた。この話はそこで打ち切られ、バルワラ語の會話を教わって勉強會は終わった。

「アレシア、大丈夫かい?なんだか元気がないな」

「ああ、うん。大丈夫。知らなかったことをたくさん聞いたから驚いてしまって」

私たちは途中で買った甘いお菓子を食べながら歩いて帰るところだ。

「あのさ、アレシアがバルワラ語を勉強し始めたのは、バルワラに逃げることを考えているからか?」

真っ直ぐな目のハキームに質問されて私は返事ができなかった。

「さっきの話を聞いたじじゃ、バルワラは國民のことを考えてくれる國だ。でも、この國の王家もバルワラの筋だから希があると俺は思ったな。マークス殿下のことも俺はいい人だと思ってる。だから……」

ハキームはその続きを言わなかったけど、彼は友人の私に出て行ってしくないのかもしれない。だけど私は自分を守るためにハキームたちを置いて逃げ出すことを考えている……後ろめたかった。

前世の記憶が戻ったばかりの頃はとにかく安全に暮らすことしか考えてなかった。やがて自分の両親やイーサン一家を守りたいと思うようになって、次はなるべく多くの人の役に立ちたいと願っていた。

なのに今になって逃げ出すことも考えている。私は正しい選択をしているんだろうか。幸せな家庭に生まれ直した私は、自分と家族のことだけを考えていればいいのだろうか。なんだかとても自信がない。

迷いに答えは出せないままだったけれど、週に一度のバルワラ語の勉強は楽しく続いていた。ヤエル婦人に學ぶことはたくさんあった。

私はしずつバルワラ語が話せるようになっていった。

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