《【書籍化・コミカライズ】手札が多めのビクトリア〜元工作員は人生をやり直し中〜》11 初めてのピクニック

バーナード様の誕生會で約束した通り、私と団長さんの休日が重なった日にピクニックに行くことが決まった。

バスケットにサンドイッチと果実水を詰め込んだ私は々困っていた。

仕事で親しくなる必要があって大人の男と二人でピクニックに行ったことはあるが子供を連れて行ったことがない。ピクニックで子供は何をするものなのかわからない。私は子供の時にピクニックなんて行ったことがないのだ。

「なんとかなるか」

そう聲に出して気持ちを切り替え、ノンナと二人で団長さんの迎えを待った。

団長さんは自分で小型の馬車をってやって來た。そして私とノンナを乗せると「片道一時間ほどの森へ行く」と言う。馬車の中でノンナがいつになくソワソワしている。

「ノンナ、楽しみね」

「うん」

「何して遊ぼうか」

「木登り」

「ノンナは木登りが好きね」

「うん」

私はノンナにいろんなことを教えている。私に権力と分が無い以上、今のままでは運が良くない限りこの可さが仇になる気がして。

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ノンナがにつけてくれるのなら読み書き計算、語學、料理、、何でもよかった。ノンナにはお金のために男の言いなりになるような選択をしてほしくないし、我が子とお金の換もしてほしくない。経済的に自立する手段を持たせたいし力づくで言いなりにしようとする輩に対抗する技に付けさせたい。

木登りだってできないよりできた方がいい。非常時に逃げ道がひとつ増えるはずだ。

やがて森に到著して、団長さんはし開けた場所に馬車を止めた。

「疲れたろう。し休もうか」

「はい、そうしましょう」

私たちは腰を下ろしたがノンナはこんな場所に來たのは初めてらしくはしゃいでいた。歩き回っては落ちている石を拾って離れた場所の木の幹に目がけて石を投げている。

コンッ!

場所を変えながら投げられる石が次々と一本の木の幹に命中する。それを見ていた団長さんは、六歳のノンナが全ての石を命中させるのに驚いたようだ。

「ノンナすごいぞ。あの木に屆くだけでもたいしたものなのに、全部命中してるじゃないか」

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「ビッキーはもっと上手」

「そうなのか?ビクトリア、ぜひ見せてくれよ」

「あはは……私ですか?」

(下手に投げるべき?この人だとそれは見破られる?)

「団長さんが先にお手本を見せてください」

「いいよ」

団長さんが投げる。見事に全部が木の幹の同じ場所に當たる。なるほど。これなら私が命中させても大丈夫か。

私も投げた。わざとひとつだけ外して他は全部命中させた。

「ノンナもビクトリアもすごいな」

「お転婆な子供だったもので」

「もので!」

ノンナが楽しそうなのが嬉しかった。青灰の目が輝いている。

(ピクニックに來てよかった)と思いながらノンナの嬉しそうな様子を見ていたら、靴をいで靴下で木を登りだした。

「おいおい、今度は木登りか。落ちるなよ」

「ビッキーはもっと上手!」

驚いた顔で自分を見る団長さんの視線が痛い。

「田舎育ちのお転婆な子供だったものですから」

同じセリフを繰り返す。

私はノンナに細かく口止めをしていない。きちんと約束を守らせたいなら規則や制限はない方がいいと思っている。だけど今、「はしゃいでる子供はいちいち念を押さないとなんでもしゃべってしまう」と心に刻んだ。

「私は登りませんよ。スカートなんですから」

「わかってるさ」

団長さんが笑う。笑うと目にシワが寄って整った厳しそうな顔が優しい顔になる。そしてやはり聲がいい。ノンナはかなり上まで登ってから枝に腰掛けた。腳をブラブラさせながら私たちを見下ろしてご機嫌だ。

「危ないな」

そう言って団長さんは木の方へと向かった。落ちて來たらけ止めるつもりらしい。私はノンナの技量を知っているのでさほど心配していなかったが一緒に木の下に向かった。

「本當にこれも君が教えたのか?危ないと思うが」

「危ないことを全部遠ざけていたら守られるだけのに育ってしまいます」

団長さんがチラリと私を見る。気にらなかったのかな。

「生意気を言いましたね」

「いや、そんなことを言うは初めてだから驚いただけだ」

やがてノンナは危なげなく降りてきた。団長さんは「危ないよ」と注意するのかと思ったら何も言わなかった。その後は三人で追いかけっこをしたり花を摘んだりして過ごし、晝食になった。

「先日の料理も旨かったがこのサンドイッチも旨いな」

「ありがとうございます」

今日は鶏と野菜とゆで卵のサンドイッチ、ジャムとバターのサンドイッチ、マスタードをたっぷり使ったゆで豚と刻み玉ねぎのサンドイッチの三種類を用意した。

予想通り団長さんはや卵がっているが好きそうだ。ジャムとバターのはノンナの好だ。

「君は料理人だったのか?それとも學者だったのか?」

「料理人として働いたこともあります。語學は本當に趣味です」

「ほう。すごいな」

「貴族の皆様は子供の頃から何ヶ國語もにつけるのでしょう?」

「まあそうだが。君は平民なんだろう?」

「はい。貧しい家の生まれです。何でもやらなければなりませんでした」

「そうか」

団長さんの眼差しが一瞬同に染まった気がして申し訳なく思う。(そういう仕事だったんですよ)と心で付け加えた。

ノンナが敷きに座っている私に抱きついて首に腕を回してきた。その華奢な腕をおしく指先ででながら話しかけた。

「楽しいわね」

「うん」

同居し始めた頃は私にれることを遠慮していたノンナだったが、最近はずいぶん甘えてくれるようになった。

妹とは私が八歳の時に別れたので『可かった』という漠然とした印象はあるものの、あまり姉妹として関わった記憶が無い。

「すっかり懐いているようだ」

「ええ。可くって可くって。子供がこんなに可いものとは知りませんでした」

私たちの會話を聞いていたノンナが縛っている私の髪に頬を押し付けた。これは嬉しくて甘えたい時によくやる仕草だ。

「ピクニックに連れてきてもらってよかったわね」

「うん!ビッキーもよかった?」

「ええ、よかったわ。楽しいもの」

するとノンナが私の首から腕を外してダダッと走り、トン!クルリッ!と空中高く前方に飛び上がり上半を勢いよく折り曲げつつ膝をに引きつけて一回転して綺麗に両足で著地した。

あらまあ。

前方宙返り、今まで功したことなかったのに。なんで今できちゃうかなぁ。はしゃいでる時の子どもの能力って普段の五割増しくらいになるのね。

驚きで目を大きく開いた団長さんがそのまま顔を私に向ける。

「あれも君が伝授したのか?」

苦笑して何も答えなかった。団長さんは小さく首を振りながらノンナの方に顔を戻した。

ピクニックは楽しい思い出をたくさん作って終わりになった。三人で馬車に向かい、団長さんは者席に片足をかけた狀態できを止めた。

「三人水らずがいいと思ったんだが、失敗だったな」

「お疲れでしたら私が者を務めます」

「そうじゃない。者がいたら往復二時間君たちと會話できた。それにしても君は者も……いや、もう聞くだけ無駄だな」

用貧乏という言葉もありますね」

「その言葉は君には當てはまらないよ」

団長さんは後ろでひとつに縛っていた私の髪を利き手で大切そうにひとでしてから者席に座った。

これ、仕事なら嬉しそうに笑って見せる場面だけど、私は今、どんな顔をしていただろうか。確信がない。相手によってはゾッとさせられる行為だけど不快でないことは確かだった。

ノンナは疲れたらしく私の膝枕で眠ってしまった。私も心地よい疲労をじながら窓の外を眺める。

仕事でさまざまな職業を経験し、いろいろな階級の人間になった。あの組織も仕事も嫌いではなかった。家族のために役立てたし、とても濃くて有意義な十九年間を過ごしたと思っている。

だけど今まで好きな異もいなければ本のピクニックも知らなかった。おそらく私に自覚がないだけで、一般的な職業に就いた人たちに比べたら他にもいろいろ欠けている部分はあるのだろう。

だけど欠けていたところはこれから自分でいくらでも埋めればいい。焦る必要はない。それに、まん丸な人生が尊くて歪な人生が劣るなんてルールもない。足りないところを埋めていくのも楽しそうだ。

気がついたら私の口角がしだけ上がっていた。

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