《スクール下克上・超能力に目覚めたボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました★スニーカー文庫から【書籍版】発売★》スクール下克上、始まります

「この人も、超能力者です。テレポーターです」

「へ?」

それは俺と、そして教室中の口から出た疑問符だろう。

蟲の足音でさえも聞こえそうな靜寂を、坂東が破った。

「おいおいお前何言っているんだよ。こいつは超能力者なんかじゃない。ただの凡人、むしろ低能だぜ?」

「ううん。えっと、奧井育雄(おくいいくお)くん? もしかして、自分が超能力者なの知らないんじゃない?」

あっさり坂東を否定して、舞は俺と向き合いそう言った。

―—俺の名前を知っているのは、サイコメトリー能力者だからかな?

「確かに、俺は超能力なんて使ったことないけど、そんな奴いるのか?」

「いるよ。超能力者ってね、説明書を貰って自分の能力に目覚めるわけじゃないの。生活している中で、ある日ふと使えて気づくの。奧井くんて、今までの人生で、今すぐどこかに行きたいとか、強く念じたことある?」

「……言われてみると、ないな」

俺は真面目なので、遅刻の心配をしたことはないし、旅行に興味もない。

強く【どこそこにワープしたい!】なんて念じたことはない。

「だからだね。でも、奧井くんも間違いなく、わたしや峰さんと同じ超能力者だよ。これから一緒に、総務省に來てくれる?」

舞は得心を得ると、両手を合わせてお願いしてきた。

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その健気な態度には、初対面と言えど、心をかされてしまう。

自分が超能力者なんて信じられないけど、ついて行って話を聞くぐらいは、問題ないかなと思う。

「わかった」

「ほんと、ありがとう」

語気を強めた謝で、舞は安堵の笑みを浮かべた。それが心底嬉しそうで、なんだかいいことをした気分だった。

俺は、峰と同じく、龍崎さんの元へ行こうと立ち上がった。

デバイスで授業を行い電子マネーの普及した現代では、ノートも教科書も筆記用も財布もいらなくなった。

なので、昔の學園モノよろしく、學生鞄を持つ人は激減している。

俺も、學校には手ぶらで登下校しているので、そのまま舞と共に教室の前を目指した。

直後、背中に寒気がするような怒気をじた。

また背中に氷でもいられたかと思ったけれど違った。

肩越しに振り向くと、坂東が鼻にしわを集めた顔で睨んでいた。

まるで親の仇を恨むような、自分の未來全てを奪った怨敵を憎むような、見たことのない表だった。

押し殺すように「奧井がオレと同じ能力者?」とらした聲には、明確な敵意をじた。

「うむ、では後は上級生の能力者だな。奧井育雄、坂東亮悟、貴君らも著いてきたまえ」

龍崎さんは満足げに頷いて、足早に教室を出て行った。峰もその後に続く。

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俺は、自分が超能力者という狀況に驚くよりも、背後の坂東と距離を取りたくて、龍崎さんの背中を追いかけた。

15分後。

俺らは、自運転で走る黒塗りの公用車の座席に腰を落ち著けていた。

俺の左隣には舞、そのさらに左には峰が座り、俺の正面には龍崎さんが座っている。坂東は、しっかり峰の正面を確保していた。

上級生の能力者は、別の車に乗っている。

「それで舞、あ、同學年だよな?」

「うん、わたしも今年で高校一年生だから、タメ口でいいよ」

「さっき、俺のことをテレポーターって言っていたけど、的には何ができるんだ?」

「あ、ごめん。わたしも、能力の詳細までは、らないとわからないの」

舞は、申し訳なさそうに肩をめて、いい淀んだ。

その意味を察して、俺も申し訳なさそうに手を橫に振った。

「いやいや、初対面の男子にるの嫌だよな。俺のほうこそ悪い」

いきなり子に「俺にってくれ」なんて、これじゃあまるで変態じゃないか。

でも、舞はさらに慌てて、俺以上に激しく両手を振った。

「ちちち、違うよ奧井くん! そうじゃなくって、ったら相手の個人報とか記憶とか、本當になんでも読み取れちゃうの。だからわたしにられるのは危険なの」

なるほど、と俺は納得して、落ち著きを取り戻した。

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「あー、そういうことか。じゃあ、そういうのは読み取らない方向で頼む」

「え?」

俺が手を出すと、舞はきょとんとまばたきをした。

「あの、だからね、わたしがその気になったら、本當に何でもわかっちゃうんだよ?」

「ああ。でも、わざわざ教えるってことは、舞はそんなことしないんだろ?」

その気があるなら、最初からっているはずだ。

「やっていいことと悪いことの分別がついているならそれでいい。人間、疑ったらキリがないだろ? それともお前は、通行人が全員通り魔かもしれないとか警戒しながら生活してんのか?」

「…………」

無言のまま、舞は心底驚いた顔で固まり、戸っていた。

――俺は何か、また浮いたことをしてしまったのだろうか?

峰は心したように息をついて、龍崎さんは興味深そうに目をらせ、坂東は憎らし気に舌打ちをした。

またあの、「スカしてんじゃねぇよ」という顔だ。

「じゃあ、ちょっと見させてもらうね」

舞は、ためらいがちに、俺の手を握った。

初めてる、の子の手のらかさと溫に揺しないよう、平靜を意識しながら、サイコメトリーが終わるのを待った。

「うん、わかったよ」

舞が手を離した。

実際は二、三秒だったと思うけど、俺には數十秒にもじた。

やっぱり超能力者じゃありませんでした、と言われる覚悟で神的防を固めていると、舞はちょっと先生ぽいじで説明し始める。

「奧井くんの能力は、自分や近くのモノを、別次元経由で好きな場所にワープさせられる能力だよ」

「送り先は? 漫畫とかだと、自分が一度行った場所にしか行けないってのが定番だけど?」

「場所は地図とかだいたいのデータがあればいいみたい。ただ漠然とした、たとえば【ここから一番近くの駐車場】、みたいなのはダメ。行ったことが無くても、【三丁目の駐車場】、みたいに念じないと」

今までの気後れしたじがなくなって、舞はスラスラと答える。

「あと、これは能力を鍛えないと使えないみたいなんだけど、遠くのものを手元にテレポートさせることもできるみたい。厳にはアポートって言うんだけど、広い意味ではテレポートの一種だね」

「へぇ、それは便利だな。でも、超能力ってどう使うんだ? 呪文みたいに口で言えば発するわけじゃないんだよな?」

「えっ!?」

と、舞の表が曇った。

さっきまでの自溢れる先生顔が噓のようだ。

「うんと、なんて言えばいいのかな。覚的なものだし……」

同時に、坂東の視線が逡巡するようにブレた。

ここで俺にコツを教えて峰にいいところを見せたい反面、俺の利益になることはしたくない。そんなところだろう。

すると、困り顔の舞へ助け船を出すように、峰がを乗り出した。

「あのね奧井君。超能力を使うのに大事なのは、の中のスイッチを意識することなの」

の中?」

「そう。ほら、日本語でも【を躍らせる】【が痛い】【がすく】【をなでおろす】【が熱くなる】って、神的なことは頭よりもじるでしょ?」

「言われてみると確かにそうだな」

実際、醫學が発達するまでは、人間はで考えると思われていたらしい。

「超能力は神力。だから神的な影響が出やすいの奧を意識することで、コントロールできるの」

「へぇ、超能力ってそうやって使うんだな」

流石は峰。打算的な坂東とは違い、わかりやすく、サクサクとコツを教えてくれる。坂東は、酷く面白くなさそうな顔をしている。

「じゃあちょっとやってみるか。ええっと、じゃあ龍崎さんの隣の空席にテレポートしたい、したい、したい」

悲しい時、の奧が辛くなるように、の奧で何かのスイッチをれる気持ちで、俺はテレポートを念じた。

その矢先、坂東が口を挾んできた。

「おいおい奧井。いくらの奧って言われたからって峰の巨ばっか見るなよ。失禮だろ」

「は?」

急に何の話かわからず、俺がついていけない隙に、坂東はまくしたてた。

「教室でもいつも下ネタばっか言って子たちが嫌がっているのに気づけよ。オレ、お前みたいに子をおっぱいの大きさでしか見ない奴嫌いなんだよ。これから一緒に仕事するなら、そういうエチケットは守ってくれないと。ほら、さっさと峰や舞に謝れよ」

――なるほど、そういう計畫か。

いわゆる、藁人形論法の応用だ。

俺の視線が、峰のを見ていた、という事実はない。

だが、虛実を聲高にぶことで、衆人観衆にあたかもそうであったかのように思わせ、虛実を責め立てることで相手を劣勢に追い込む。

まさに、俺を無視して、自分で作った藁人形(虛実の俺)を自分で倒して勝者顔をする、というわけだ。

衆人に訴える論証(みんなが自分を支持しているから自分が正しい)。

無知に訴える論証(お前が正しい証拠がないからお前が悪い)。

悪魔の証明(証明不可能な事柄の証明を強要する)。

ダブルスタンダード(自分の都合で価値基準を変える)。

論點先取(自分に有利な前提を作ってから話を進める)。

相殺法(お前は別件で被害を出したんだから、被害をけても文句言えない)。

などと一緒に、昔から坂東がよく使う手口だ。

専門用語を並べると、いかにも坂東が弁舌の達人ぽく見えるけどそういうわけじゃない。

むしろ、これら専門用語は、坂東のように劣悪で稚な人間たちの手口に分かりやすく名前をつけたものだ。

い頃から、坂東たちグループにこれらの詭弁を使われ、いつだって俺は悪者扱いをけてきた。

坂東は、この稚な屁理屈や詭弁を、高校生になっても使い続けるつもりらしい。

言い返したいも、言い返した分だけ、坂東は詭弁でまた俺を攻撃してくるに決まっている。

嫌な気持ちが溢れて思考力が鈍ると、龍崎さんがの下で腕を組んだ。

「なんだ、貴君はおっぱい國民か。それなら話が早い。私のの谷間にテレポートするがいい。これならやる気も出るだろう?」

「騙されないでください! 坂東は噓しか言わない男ですから!」

「なんだ、私のよりも稲の巨のほうがいいのか?」

一瞬、峰の満なを想像して、俺はを振り払うようにんだ。

「そういう意味じゃ――」

言い終える前に、視界が消えた。いや、変わった。

目の前に、峰の巨が迫ってくる。

俺の妄想が暴走しているのかと思ったけど違う。

俺は、峰の上に、テレポートしたらしい。

「うわっ」

「きゃっ」

顔面は深い谷間に、両手はの頂點の上に著地してしまう。

ブレザーの開襟部分に顔をうずめた俺は、ワイシャツとブラジャー越しに、顔面で峰のおっぱいを顔いっぱいにじてしまう。

峰のおっぱいは顔の型でも取るように底なしのやわらかさで、得も言われぬ快楽に脳味噌がトロけそうだった。

両手には、制服越しでもなお、濃厚なやわらかさと低反発力が広がり、理のタガが一瞬で緩んだ。

そのせいで、すぐには離れることができなくて、坂東の敵意への反応が遅れてしまう。

「テメェッ!」

振り返れば、坂東が短い氷の棒を握り、全力で振り下ろすところだった。

――マズイ!

小學生の頃から、何度も毆られ味わってきた痛みが蘇る。

くして、俺が痛みに備えると、三人がいた。

「「ダメぇ!」」

峰は背中で俺をかばうように抱きしめてをひねってくれた。

舞は、俺と坂東の前に割り込んで盾になってくれた。

龍崎さんの拳は、坂東の氷の打ち砕き、前腕は坂東の拳をけ止めていた。

「坂東亮悟。隨分と手慣れたきだが、貴君は日常的に能力で暴行を?」

龍崎さんの鋭い眼を浴びて、冷靜になった坂東はをすくませた。

「え、いや、その、偶然ですよ。オレはただ峰を守りたくて……」

――よく言う。ただ、お気にりの峰に俺がれたのが許せなかっただけだろ。

「大丈夫? 奧井君」

「ケガしてない?」

峰と一緒に、舞も、心配そうな表で俺の顔を覗き込んでくる。

「あぁ、ありがとう二人とも。それにごめん峰」

「ううん、気にしないで。わざとじゃないし」

「ありがとう。あと舞、俺の考えていること、サイコメトリーしてくれるか?」

峰からを離して、自分の席に座ると、俺は舞に手を出した。

「え? う、うん、いいよ」

舞は、ちょっと不思議そうに俺の手にれた。

途端に、彼は眉を八の字に垂らして、口の中でくちびるを噛んだ。

橫目を坂東に注ぐと、舞は深刻そうな聲をらした。

「……ひどい」

ぎゅっと、握り拳を作りながら、舞は坂東から距離を取るように、を引いた。

「はっ、テメッ、奧井、お前いま、舞に何吹き込んだんだよ?」

龍崎さんと峰の手前、必死に言葉遣いを取り繕いながら、それでも坂東の聲には強い敵意が滲み出ていた。

「気になるなら、お前も舞にサイコメトリーしてもらえばいいだろ?」

「そ、それは……」

坂東は息を呑んでから青ざめ、居ずまいを正した。

「ふん、どうでもいいよ。オレはお前みたいな子供じゃないんだ。鼻息荒くして、自分の正しさを証明しようなんて思わねぇよ。そうやってオレを悪者扱いしたければしてろよ。でも覚えておきな、本當に正しい奴は、いつか認められるものなんだよ。自然とな」

「よし奧井。では総務省に著くまで、テレポートの練習を続けよう。自分の席と私の隣の空席、あと私の膝の上の三か所に連続でテレポートするんだ」

「はい」

龍崎さんの膝の上、というのは引っかかるも、ここは頷いておいた。

「頑張って、奧井くん」

「慌てずに、落ち著いてね」

二人と一人が俺に言葉をかける現狀に、坂東は背もたれに重を預けた姿勢のまま、額に青筋を浮かべた。

その姿は痛快でもなんでもなく、後で何か八つ當たりしてこないだろうな、という不安だけが煽られた。

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本作は第6回カクヨムWebコンテスト 現代ファンタジー部門 で 特別賞を賞した作品です。

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