《スクール下克上・超能力に目覚めたボッチが政府に呼び出されたらリア充になりました★スニーカー文庫から【書籍版】発売★》チート炸裂!ざまぁ裂!

「あ、二人ともおはよう」

翌朝。

俺と桐葉が登校すると、教室の前で、峰の聲に呼び止められた。

振り返ると、峰が小走りで駆けよって來た。

「おはよう峰」

「針霧さんの髪、綺麗だから、後ろ姿でもすぐにわかったよ」

「ボクのことは桐葉って呼んでくれる? その苗字、嫌いなんだ」

桐葉は、不機嫌そうに聲をくぐもらせた。

――昨日は親と仲が悪いのかと思ったけど、【針】ってつくから嫌なのかな?

蜂の能力でいじめられていたなら、その気持ちはわかる。

「ごめんごめん。それで桐葉さん、同棲生活は上手くいってる?」

「うん、ハニーはすっごく優しいよ」

「へぇ、流石は奧井君。でも奧井君、くれぐれも節度のあるお付き合いを心掛けてね。じゃないと、桐葉さんに嫌われちゃうよ」

「いやいや、俺ほど節度のある男はいないぞ」

「え~、どうかなぁ」

顔の郭に手を當てながら、峰はくすくすと笑った。

なんていうか、子グループ全で、俺をからかう流れができている気がする。

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「おい奧井!」

突然のがなり聲に振り向くと、峰に続いて現れたのは、坊主頭の坂東だった。

いつもの取り巻きはいない。坂東一人だ。

額に青筋を、眉間にしわを刻んだ怒り顔で、大に距離を詰めてくる。

「朝から侍らせていいご分だなぁおい!」

俺は、桐葉と峰を守るように、彼らの前に進み出た。

「そんなことより、頭どうしたんだ?」

「その毒のせいだろが! わけわかんねぇ接著剤塗れで目が覚めたら丸刈りにされていたんだよ!」

――あー、そういえば坂東も病院の人はあれが蝋って知らないのか。もっとも、坂東は喋れるような狀況じゃなかったけれど……。

「テメェ、自分がオレに勝てないからってそんな毒けしかけやがって! オレがどんな目に遭ったと思っていやがる!」

あれからネットで調べたけれど、蜂の毒は激痛、かゆみ、呼吸困難などを引き起こすらしい。

白目を剝くほどだから、よっぽど酷かったんだろう。

それより気になるのは、坂東の毒呼ばわりだ。

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肩越しに桐葉の機嫌を窺うと、案の定、彼は酷く苛立った顔をしていた。

蜂の能力が原因でいじめられた彼にとって、毒句だ。

「どいてハニー。そのバカには再教育が必要だ」

「再教育? じゃあオレはテメェを調教してやろうか!」

「弱い奴がイキがるなよ。ますます慘めに見えるよ!」

――マズイ。これ以上二人を対立させたら、今後、坂東のヘイトが俺よりも桐葉に向いてしまう。

なんとかしないと、そう焦る俺の前で、坂東の手には氷の棒が握られた。桐葉の指先には、ガラスのように明な針が形される。あれが能力で再現された、蜂の針だろう。

二人が一即発の準備にり、坂東が氷の棒を振り上げた瞬間、俺は反的に、テレポートを発させた。

瞬間、アニメーションで坂東のレイヤーだけを削除したように、彼の姿は消失した。

戦う相手を失い、肩かしを食らった桐葉は、まばたきをして俺を見た。

「ハニー、あの馬鹿をどこにテレポートさせたの?」

「え……どこだろ?」

「奧井君、場所指定しなかったの?」

峰は目を丸くして、口に手を當てて驚いた。

「いや、場所を指定しないとテレポートできないはずなんだけど、う~ん、すぐに追いかけて來れないよう、地下をイメージしたんだけど、この學校、地下なんてあったっけ?」

俺が頬をかいた直後、學校の外から、斷末魔のび聲もかくやという絶が聞こえてきた。

みんな、窓際に集まって、なんだなんだと騒ぎだす。

俺らも窓から外を覗くと、峰が青ざめた。

「校門前のマンホール……まさか坂東君……」

想像して、腹の底が冷えた。

フィクションで、主人公たちがの移経路としてよく使う下水道だが、現実の下水道はあんな地下通路然とした場所ではない。

街中のトイレと臺所とお風呂、他、工場の排水など、人間の出すあらゆる汚を含んだ汚水が流れ腐敗し、激臭ガスがたまるそこは、文字通りの地獄絵図らしい。

まして、汚の川に落ちようものなら、殘酷過ぎて活字では表現できないことになってしまう。

「やれやれ、流石に死なれたらハニーに迷がかかるから、ちょっと回収してくるよ」

気だるげなため息をらして、桐葉は窓から外に飛び出した。

そのまま空を飛びながら、蜂糸でマンホールを引き開けた。

途端に、坂東の絶がより大きくなるも、徐々に弱々しくなっていく。

の中に、桐葉は糸を垂らした。

「おーい、聞こえるー? この糸につかまっていーよー」

かつては不俱戴天の仇とも言えた坂東の凋落ぶりを見ていられず、俺は窓から離れた。

「……救急車、呼んでおくか?」

「……それはもう、私が呼んだよ……知ってる? 下水道掃除の人って、初めての人は必ず染癥で一週間寢込むらしいよ……」

峰は博識だな……はは」

「たまたまテレビで見ただけよ……あはは」

「…………」

なんともいえない殘念な気持ちを共有していると、俺は自然と、尋ねていた。

「なぁ、峰は、桐葉のこと、どう思う?」

「どうって、凄い綺麗な人だなって」

「そうじゃなくてさ……あいつ、昨日言ったんだ。友達なんていらない。ハニーの俺がいればそれでいいって……」

俺の告白に、峰は一瞬、暗い顔になるも、すぐに目元を引き締めた。

どうやら、真剣に俺の話を聞いてくれる気らしい。

でも、桐葉の蜂の能力を言いふらすのは良くない気がして、なんて説明したらいいか困ってしまう。

けれど、俺が口を閉ざしていると、峰の方から問いかけてきた。

「奧井君は、桐葉さんにどうしてしいの?」

「俺は、峰たちと仲良くしてくれたらって思う。俺も、中學までは友達なんていなくて、あまり人のことは言えないけどさ、でも総務省でみんなに會って思ったんだ。やっぱり、仲間ってのは必要なんじゃないかって。でも、桐葉はそう思えないみたいで、心配になるんだ」

人想いなんだね。奧井君はいい彼氏君だよ」

穏やかな聲で言ってから、峰は真面目顔で言う。

「これは、私の勝手な想像なんだけど、きっと桐葉さんは、能力が原因でいじめられていたんだよ」

流石と言うか、峰は桐葉の過去を言い當てた。

「私たち能力者って、その人の格や能力によっていじめられたり人気者になるみたいなの。私はみんなの壊れたを直してあげていたら好かれたし、坂東君はあの格だから、男子たちのリーダーになったよね」

「ああ」

小一の頃から、ずっと見てきた坂東のことを思い出しながら、俺は重く頷いた。

「でも、たぶん桐葉さんは戦闘系の能力を怖がられたんだよ。それで、誰も信じられなくて、だけど奧井君は怖がらなくて、だから、ずっと抑えていた気持ちが全部、奧井君に傾いちゃったんじゃないかな」

「あれ? 峰ってあの時その場にいたっけ?」

「いなくてもわかるよ。だって奧井君、自分からサイコメトリーける人だよ? 戦闘系の能力者を怖がるわけないじゃない。でも、その反応を見る限り、図星だったみたいだね」

お馬鹿なペットを見るような目でため息をつかれて、俺はちょっと恥ずかしくなった。何も恥ずかしいことは無いのに、どうしてだろう。

「……正直、そうやって俺のことを好いてくれるのは嬉しいよ。しでも桐葉の助けになったみたいで。けど、なんだか寂しいよ。彼氏がいれば友達なんていらないって、それじゃあまるで依存じゃないか」

友達がいない先にあるものを、俺は知っている。

なによりも、俺があいつの前からいなくなる時がきたら、誰があいつを支えるんだろう。

「奧井君の言う通りだよ。でも、だったらなおさら、桐葉さんを助けられるのは、奧井君だけだと思うよ」

まるで目を覚まされた気分だった。

峰の言う通りだ。

桐葉が心を開いているのが俺だけなら、俺だけが、彼を変えられるはずだ。

「ありがとうな。それにしても、峰は本當に頭がいいな。俺、全然話していないのに、なんでもわかるみたいだ」

「そんなんじゃないよ。私も気持ち、わかるから」

「え? それってどういう――」

「ハニー」

俺が尋ねている途中で、桐葉が戻ってきた。

「おう、どうだった?」

「目も耳も汚塗れで何も見えない聞こえない狀態だったから蝋付きの糸でくっつけて引き揚げて地面に打ち捨ててきた」

視線を巡らせると、後門の前で、汚の人型が水揚げされた魚のようにビチビチと跳ねていた。

一秒後、救急車の音が聞こえてきた。

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補足

テレポート先があいまいなのに功したのは、テレポーターとしてのレベルが上がったからです。

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本作は第6回カクヨムWebコンテスト賞作でカクヨムにも投稿されています。

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