俺はまず、エリシスと意識を接続する。

パーティを組んでいるとはいえ、メンバーと念話のようなことができるのは……黒竜の力を借りているのかもしれない。

「それでエリシス、なんとか黒竜のきは止められないのか？」

「それが……無理みたいです。さっきのドラゴンブレスも止められなかったし……」

「じゃあ、別の意思が黒竜をかしているってことだな。他に何か分かることは？」

「多分、人間に強い恨みを抱いているようです。その原因はなにかわからないのですが」

「分かった。何か、気付いたことがあれば連絡してくれ。その意思とのコンタクトも行ってしい」

「はい！　ところで……その……」

エリシスが急にもじもじとし始める。

「私……ここだとみたいでして」

そういえば、エリシスのに付けていたドレスが床に落ちていた。

贄にされたのはだけということなのだろう。

「ドレスは回収しておくよ」

「はい……お願いします」

エリシスの意思は自分自のを認識できているのなら、分離だけできればいい。

次に俺は上空で戦っているキラナの様子を見上げる。

黒竜の注意を引く危険なことをしているはずだが、キラナのには幸い傷一つついていない。

しかし、黒竜のドラゴンブレスを多食らっているように見えるが、その炎は、いや、お互いに攻撃は當たっているが、ダメージをけていないようだ。

これは……？

俺の視線に気付いたのか、キラナが近くにやって來る。

「パパーっ！　おかしいよ？」

「うん、怪我をしてないならそのまま続けてくれるか？　危なくなったらすぐ逃げるんだよ」

「うん！　わかった！」

キラナはそう言って再び気を引こうと黒竜の目の前に飛んでいく。

黒竜は引き続き攻撃を続けるが、キラナは一切の傷を負わない。攻撃が命中しても、だ。

キラナはその異常さに気付いている。戦闘経験などないのに……キラナは賢い子だ。

彼は判斷を誤らないだろう。

そしてアヤメは、霊召喚を始めている。キラナもアヤメに注視していていざとなれば守ってくれるだろう。

じきに、アヤメの召喚した霊が攻撃に加わってくれる。

「じゃあ、行こうか」

「「ハイ！」」

俺とリリアとティアは、黒竜に向かって駆け出した。

どんどんと黒竜との距離を詰める。

崩れた館の瓦礫を避けつつ、最短距離で黒竜の足下に向かって走った。

リリアが狀況を把握して伝えてくれる。

「意外と攻撃が來ませんね。フィーグさん」

「ああ。うまくキラナやアヤメが気を引いてくれているようだ」

見ると、黒竜の背後には無數の黒い影のようなものが複數現れている。

あれは……死霊？　アンデッドがなぜここに？

しかし、その死霊もまた黒竜を攻撃しているように見えた。

「なんでしょう？　アンデッド？」

リリアの発言にティアがその方向を見つめる。

「多分、あれは……大丈夫です。このまま進みましょう」

「あ、ああ……」

ティアって子はドルイドだったはずだ。死霊など呼べないはずなのに、どういうわけかその素を知っているようだった。

俺は構えていた短剣のスキル【応答者(アンサラー)】を発しようとしてやめた。

噓は付いていないようだし、一旦信用するしかない。

しばらく走ると、ついに黒竜の足元にたどり著いた。

「よし。これから接するから、援護を頼む」

「はい！」

俺を庇うように、リリアとティア、そして風の大霊(シルフィード)が囲んでくれた。

本當に心強い。

俺は黒竜の足にれる。スキルメンテの【解析】を行おうとする。

しかし、れた瞬間に俺の頭の中に聲が響いた。

『人間……許さんぞ……』

「！？」

なんだ？　この聲は。頭に直接響いてくる聲だが、エリシスではない。

これはきっと、彼がじていた怨念の主。この黒竜の本來の意思だ。

『我が眷屬を……奪った報いを——』

いったい何のことだ？　人間が、この黒竜の眷屬を奪った？

そんな話は聞いたことがない。

眷屬と言っているのは一何のことだ？　竜の僕(しもべ)……同族……？

まさか……？

俺は思い當たるフシがあった。

しかし、今優先すべきことは、エリシスの分離だ。

「スキルメンテ【診斷】開始！」

《診斷開始。個の中に、別の個が取り込まれています》

『名前：アルゲントゥ（銀竜族）

職種スキル：

銀竜族：炎の息(ファイアブレス) LV99

銀竜族：麻痺の息(パラライズブレス)　LV99

銀竜族：飛翔 LV99

銀竜族：歴史記憶 LV99

銀竜族：人化(ヒューマンモード)　LV99

スキル：

：

年齢：1680歳

生死：生

神：

発狂【警告：暴走狀態】

憤怒

融合：エリシス』

「そうか。やっぱり銀竜だったのか」

「フィーグ……さん、どういうことですか？　どう見ても黒竜に見えますが」

ティアが遠慮がちに俺に問いかけてきた。

「いや、おかしいと思っていたんだ。黒竜であれば、吐き出す息(ブレス)は酸の毒のはずだ。にもかかわらず、炎を吐き出している」

「確かに！　銀竜は我が王國のシンボルたる者……その質は伝説としてよく知られています」

「しかも、キラナがダメージをけていない。恐らく、同族か眷屬に対する保護が働いていて、友軍への攻撃(フレンドリーファイア)は無効化されているのだろう」

もっと言えばキラナは竜人族であり、竜化したときのは銀だ。そしてキラナの境遇は……。

たくさんのことが見えてきた。

しかし、まずはエリシスの救出だ。

でも、どうすればいい？

ん？

俺は診斷によって告げられた報を見て、一つ気になることがあった。

なぜかエリシスの名前がスキルの一覧に載っている。

試す価値があるかもしれない。

エリシスがスキル一覧に載っているのなら——。

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