ガクン、という振に私とお父様は前のめりになる。

「な、なんだお前たち！」

「だ、誰か！　誰か！！！」

者の狼狽する聲が聞こえる。

「何だ。一何が起きた」

馬車から出て狀況を確認しようとするお父様の手を、私は握って止めた。

「お父様。ここから出てはなりませんわ」

「しかし」

これは、狙った通りのことだ。焦る必要はない。

『防(プロテクション)』、『反(リフレクション)』。

心の中で唱えると、馬車の周囲にが湧きあがった気配がする。部にも真っ白ながり込むけれど、いまは明るい午前中。お父様は気がついていない様子だ。

今日、私がこれから神殿でけることになる『啓示の儀』。

私は、過去四回の人生すべてで『聖』になった。聖にもいくつかの種類があるけれど、二度目の人生のときは『戦いの聖』だった。

実際に竜退治の現場にも派遣されたし、心得はある。一度けた啓示は魂と結びつき有効だ。だから、今回の人生でも『戦いの聖』がる防魔法や聖屬魔法が使えるのだ。

「お父様……強盜です！　馬車に飛び乗ろうとしています」

「セレスティア。カーテンを開けてはいけない。お父様の近くへ」

強盜たちが馬車に飛び乗ろうとしてはね返され、転げまわっているのは言わないでおく。防魔法に重ねて、反の魔法もかけたのだから當然だった。

それから數十秒。

馬車の揺れが収まったのをじて、そろそろ大丈夫かな、と思った私は二つの魔法を解いた。お父様も同じことを思ったようで、私を抱きしめていた手をほどく。

「何と恐ろしい……。セレスティアはここにいなさい。私が様子を見てくる」

「待ってください。ここは街中ですから、すぐに警察がきますわ。もうし……、」

言い終えないうちに、お父様がドアに手をかけてしまった。がちゃり、と馬車の扉が開いた瞬間だった。

「うわあああ！」

「お父様！」

お父様が馬車の外に引きずり出される。ほとんどの強盜は石畳の上にびているけれど、一人だけ無事だった者がいたらしい。

ここで聖屬の攻撃魔法を。いいえ、視界の端には警察が映っている。あと十秒もしないうちにここに著く。防魔法は地味だから目立たずに展開できたけれど、攻撃魔法は。

「おまえ！　上玉だな、こっちへ來い！」

「！」

躊躇った瞬間に、お父様を引き倒した強盜の手が開けっぱなしの扉から私に屆く。あ、まずい。そう思ったときだった。

橫からびてきた手が、目の前の強盜の髭面を毆った。ばきっ、と音を立ててその顔はへにゃんと曲がった。

「え」

素手。武裝した相手に、素手って。

倒れ落ちて行った髭面の代わりに現れたのは、高貴な雰囲気を漂わせた青年だった。アッシュブロンドの髪は薄めの茶に見えるけれど、太をけた部分は銀に輝く。

吸い込まれそうに深い、瑠璃の瞳。彼が私から目を逸らして強盜がびたのを確認したその、たった數秒間のまぶたのきに愁いがあって、い(・)つ(・)も(・)な(・)が(・)ら(・)どきりとする。

「……！！！」

驚きすぎて聲が発せない私に、素手の一発で強盜をのした彼はしい顔立ちにぴったりのさらりとした聲で言った。そう、あ(・)な(・)た(・)は(・)こ(・)う(・)い(・)う(・)人(・)。

「何か馬車が襲われたみたいだけど……大丈夫？」

大丈夫ではないです。