《【書籍化】ループ中のげられ令嬢だった私、今世は最強聖なうえに溺モードみたいです(WEB版)》67.旅の終わり

翌朝、ノアはいなかった。

昨夜ノアが寄りかかっていた木を眺めてトラヴィスが言う。

「一人で帰ったのか。本當なら、いくら神でも魔だらけのこの山を一人で帰るのは厳しいんだけど……ノアだからな」

「うん。ノアは神力が強い神だと聞いているもの。一人でも帰れる気がする」

「……ノアは王妃陛下から引き離して神殿におくべきだな。すぐに手を回す」

「そんなことをしてトラヴィスは大丈夫なの? 王宮とはかなり距離を置いているのだと思っていたのだけど」

トラヴィスとこの話題を話すのは初めてのことだった。私には踏み込めない、彼の領域。張した私の聲を気にもかけず、トラヴィスはさらりと言う。

「大丈夫だよ」

「そ……そうなの」

そういえば、この旅に出てからは彼と二人きりになることがほとんどなかった。なぜか今そのことを思い出してしまった。一度意識しだすとドキドキして息が苦しい気がする。あれ、どうしよう。

「ねえ。セレスティア――」

とん、と私の手に彼がれたと思った瞬間、空からものすごい風が吹いてきて雷鳴が轟く。その後、グルルルルル、と低い聲が辺り一帯に響いた。

なにかと思ったら黒竜だった。散歩から戻ったらしい。

『セレスティア! こくりゅうがもどった!』

し離れた場所で皆と遊んでいたリルが呼びに來てくれた。

「今行く!」

『うん。……あれ、セレスティア、かおがあかい?』

「そ、そんなことない」

慌てて否定した私の隣から、くすくす笑うトラヴィスの聲が聞こえる。

「リルはなんて?」

「し、知らない!」

サイドスキルの無効化ができたら、私は好きな人に殺されてループしないことになる。好きな人に殺される、自が勘違いだった可能もあるけれど、とにかくループから卻ができる。

そうしたら、私とトラヴィスの関係はどうなるのだろう。

考えるだけで足元がふわふわする。私はぶんぶん頭を振った後、そのまま駆け足で黒竜のもとに向かったのだった。

「フェンリル、我の鱗をとるがいい」

『わかった!』

リルがぴょんと飛んで黒竜の背に乗る。前足でカリカリすると鱗が落ちた。私は慌ててそれをキャッチする。沢のある黒い鱗が私の手の中で朝日にる。

「すごい……! ありがとうございます」

「強き者のためなら、これぐらい造作もない」

私がお禮を告げると、黒竜は満足げに続けた。

「ちなみに、薬ができたら向こうの聖にも飲ませるといいぞ。あっちの世界に戻っても、トラブルを起こすことがなくなる」

なるほど。サークルクラッシャー、もサイドスキルだったのだっけ。

アオイに視線を送ると、彼はきょとんと首を傾げて不思議そうにしている。みんな楽しそうだし、別にこのままでもいい気がするのだけれど、きっとそれはまた別の話。

私は、あらためて黒竜にお願いをする。

「黒竜さん。人間が住む場所には結界が張ってあります。あなたなら簡単に破れてしまうものですが、決して破らないでください。お願いです」

「あいわかった。次に晝寢にるまで、人間の町には近づかないようにしよう。それに、人間は面倒だからな」

「人間の偉い人にも黒竜の住処には近づくな、山を荒らすなとお話ししておきます」

「頼むぞ、強き者よ。我が起きている間にまた遊びに來るといい」

私の言葉に、黒竜は微笑んでくれた。表がわかりにくいけれど、たぶん。

『こくりゅう、またあそぼうね』

最後にリルが寂し気に呟いて、二人は別れを惜しむ。

とりあえず、こうして私たちの黒竜討伐の旅は終わったのだった。

黒竜討伐から數週間後。私は王宮の大広間にいた。

煌めく豪華なシャンデリアに、管弦楽団の演奏と賑やかで上品な笑い聲。この人生で王宮に足を踏みれるのは初めてのことで、どきどきする。

ちなみに過去のループも含めると、最初の人生ではマーティン様に婚約破棄を告げられ、4回目のループではエイドリアンにバルコニーから投げ捨てられた場所。

いつもながらひどくない? けれど、今だけはそのことを忘れたいと思う。

今日は、異世界から來た勇者リクと聖アオイを見送るためのパーティーなのだ。

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