《【書籍化】ループ中のげられ令嬢だった私、今世は最強聖なうえに溺モードみたいです(WEB版)》【書籍化記念SS】リルは正直

私とトラヴィスは思いを通わせた人同士になったけれど、聖と神という関係に変わりはない。

つまり、私たちは四六時中一緒にいつついちゃついてはいられない存在――、で。

「……どうした?」

神殿の敷地の食堂。トラヴィスからの聲かけに、私は目の前の彼をじっと見つめていたことに気がつく。

今日の午前中の任務は、穢れた土地の浄化だった。私とトラヴィスの二人で出向き、帰りは予定よりもしだけ遅くなってしまった。

だから、ランチタイムを過ぎたこの食堂には私とトラヴィス、リルの二人と一匹きり。

「あ……、何でもないの。気にしないで」

「疲れたか。午後は神殿での面會に応じる予定だったが、代理を頼もうか」

「ううん、全然大丈夫。その辺は」

「最近のセレスティアはぼうっとしているだろう? ずっと気になっていた」

真っ直ぐに向けられる眼差しに、どきりとする。そして、ぼうっとしている理由に心當たりがあり過ぎて気まずい。

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以前から私には甘々な彼だったけれど、最近はさらに優しくなった。

かわいいとか好きだとかそういうことを言ってくれるのは相変わらずなのだけれど、聲や視線がとても甘くて。

だから、二人でいるときのことを思い出すだけでドキドキしてしまう。今だって、こんな風に見つめられたらどうしよう息ができません……!

このたった一瞬の間に、この前の夜會で彼に抱きしめられキスされたときのことを丁寧に順を追って回想しそうになった私は、ぶんぶんと頭を振って立ち上がった。

「本當に何でもないの。さぁ、午後も頑張るわ」

「……そうか」

幸い、トラヴィスは深く追求することなくついてきてくれた。

お仕事中の彼はいろいろと弁えている。バージルはじめ神たちと一緒にいるときはふざけつつ甘い言葉を吐いてくることもあるけれど、本気で私を困らせるようなことはしない。

だって、同僚なんだもの。こんな風に挙不審になってしまうのはいつだって私だけ。

そうわかっているはずなのに、隣にじるどことなく気だるげな気配にすらが高鳴ってしまう。

食堂を出て歩いていると、リルがぴょんと私の肩から頭の上に飛び乗る。そして、くーん、と誰にでもわかる鳴き聲をあげてから言った。

『トラヴィス。セレスティアが、トラヴィスのことがすきだって』

「!?」

そんなことは言っていないです。

私は慌てて頭の上からリルを下ろし、ぎゅっと腕の中に抱く。リルの言葉が私以外の人に通じないことはわかっていても、こんな風に大っぴらに言われると恥ずかしすぎる。

「リル、ちょっと黙っててもらってもいい?」

『どうして? セレスティアのまりょくはトラヴィスといっしょにいるとすぐにあまくなるからわかるよ。いつもとちがって、たのしい!』

「わ、私は楽しくない!」

楽しくてうれしいのはわかるけれど、お願いだからそれ以上言わないでほしかった。何とかリルの口を塞ごうとする私を、トラヴィスが不思議そうに見下ろしてくる。

「何だか、二人の會話を聞いてみたいと思うことが増えたな」

勘弁してほしい。

「ううん。いいのいいの。本當に全然大したことは話していないの。お天気とか、ご飯とか、そんなのばっかり」

『あとセレスティアのすきなひとのわだいとか』

「リル、違う」

「セレスティア、リルは何と?」

「トラヴィス、本當に気にしないで!」

神殿の面會室へと歩む速度が自然と上がっていく。そして、私は今日の任務の容や明日の予定のことをひたすら喋り続けた。とにかくこの話題を早急におしまいにしたい。

よかった。リルの言葉がトラヴィスにわからなくて本當によかった……!

……と思ったのは束の間のことだった。

その日の夕方、聖用の寮、自室の扉前で私は途方に暮れていた。

「トラヴィス。今、なんて言ったの……?」

「これをもらった。一時的に神獣の言葉がわかる薬だって」

トラヴィスが顔の高さでゆらゆらと揺らしながら持っている小瓶は、私を絶させる薬らしい。

私の足元では、リルが『それたのしそう』としっぽを振っている。ちょっと今だけはそっとして置いてほしい。

「噓でしょう。そんなのできるの? そういうものが効かないからこその神獣とか聖じゃないの……?」

無意識にぶつぶつ言いながら小瓶を奪い取ろうとした私の手を、トラヴィスが摑んだ。両方の手首を握られて、ドキドキして心もとない気持ちになる。何これ近すぎる。逃げ出したい……!

「これ、飲んでもいいか?」

「だめです」

「なんで」

トラヴィスの言葉がどんどん砕け始めていて、表向きの『神も兼任する王弟殿下』の顔が消えていく。

そのギャップにドキドキして、私はやっぱり彼が好きなのだと再認識してしまう。そんな場合じゃないのに。

「なんでって、ダメはダメだから……!」

「そこまで拒否されると知りたくなるな。セレスティアとリルの會話を」

「……それなら、いつも通り私が通訳するわ。それで問題ないでしょう?」

『セレスティア、トラヴィスのことになるとそのままやくしてくれない』

「お願いだからリルは黙ってて……」

「今のは?」

「……!」

しまった。リルからトラヴィスに視線を戻すと、さっきよりもずっと近くに彼の顔があった。呼吸の気配が鮮明で、私はただ瑠璃の瞳を見つめ返すことしかできない。

トラヴィスの右手は小瓶を摑みつつ私の手首も摑んでいる。もちろん、力を加減してくれているから痛くなんてない。けれど、何となくここから離れられなくて。

「リルはなんて言った?」

もうこれは諦めるしかないのかもしれない。

だってその薬を飲んだら、私がトラヴィスのことがかなり好きだということがバレバレになるのだ。

直接聞かれるぐらいなら、しでもやんわりと伝えたい。観念した私は、おずおずと口を開く。

「……私は、トラヴィスのことになるとそのまま訳さない、って」

「リル、そうなのか?」

『うん。セレスティアはトラヴィスといっしょにいるとまりょくがあまくなるんだけど、それはぜったいにいいたくないみたい』

本當にこれは言いたくないです。

けれど、目の前のトラヴィスは私が訳すのを待っている。そして、訳さないとこの手の中の薬を飲んでしまいそうで。

私はゆっくりと息を吐いて吸って、できる限りの小聲で白狀した。

「私はトラヴィスと一緒にいると魔力が甘くなる、って」

一瞬、トラヴィスが目を見開いて、私の手首を握る力が弱まったのがわかる。表が優しげに緩んでいて、自分が本當に居た堪れない。

「……わかった。そういうことか」

「ええ、そういうことです」

「……」

「……」

こんなバレ方ってある? 本當に恥ずかしすぎる。

耳元でトラヴィスの「だめだ。可すぎる」と囁くような聲が聞こえたと思ったら、次の言葉が発せなかった。

キスをされたのだとわかったときには、もうは離れていた。

「な、なんっ……」

突然のことに真っ赤になっているであろう私に、トラヴィスは額をくっつけて告げてくる。

「もうし聞いてもいい?」

「……!」

いや無理です! そう言おうと思ったらまたが重なる。もう驚きはなくて、いつの間にか閉じられた部屋の扉を背にただ幸福だけが私を包んでいく。

『ぼくは、なにもみてないからね〜!』

鼻歌まじりに部屋の奧へ駆けていくリルの聲が聞こえたけれど、トラヴィスがそれを訳してということはなくて。

私の部屋には、トラヴィスの手からり落ちコンコンと床に転がる小瓶の音だけが響いたのだった。

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