《【書籍化&コミカライズ化】婚約破棄された飯炊き令嬢の私は冷酷公爵と専屬契約しました~ですが胃袋を摑んだ結果、冷たかった公爵様がどんどん優しくなっています~》第1話:飯炊き令嬢と言われ婚約破棄されました

「メルフィー・クック! 僕は君との婚約を破棄する!」

それは、いつものように、みんなのご飯を作っている時だった。

私の婚約者で、フリックル伯爵家嫡男のシャロー様が、突然言ってきた。

シャロー様がキッチンに來るなんて、珍しいなぁって思ったけど……。

まさか、婚約破棄だなんて……。

「シャ、シャロー様……それはいったい、どういうことでございますか?」

「だから、君との婚約を破棄するんだよ。君のような“飯炊き令嬢”を妻にするなんて、心底嫌気が差すからね」

“飯炊き令嬢”……それは、私の呼び名だった。

お母さまが若くして亡くなり義妹が生まれてから、私を取り巻く環境は変わってしまった。

義妹たちにげられ、ほとんど使用人と同じ扱いをされている。

私は子どもの時から、みんなのご飯を作らされていた。

そんな毎日でも、シャロー様との婚約が心の支えだった。

お互いがまだい時の取り決めだったけど、いつかお嫁さんになれるのを夢見て頑張っていた。

私は気を取り直して聞く。

「で、ですが、し急な話ではありませんか……? 初めてお聞きしましたが……」

「君を傷つけまいと、ずっと隠していたからね。どうだ、僕は優しいだろう?」

「っ……」

私はショックで、口も利けなくなってしまった。

シャロー様は、構わず話を続ける。

「ああ、そうだ。僕のことは心配しないでくれ。もう新しいと婚約しているからね。せっかくだから、紹介しておこう。僕が真にする、アバリチアだ」

シャロー様が扉を開けると、派手に著飾ったってきた。

を見た瞬間、私は倒れそうになる。

だって、よく知っている人だったから。

せめて、全然知らない人だったら良かったのに……。

「あら、お義姉様。毎日毎日、ご苦労なことですわね。そんなお義姉様に、良い知らせがありますわ。あたくし、シャロー様と婚約しましたの」

ってきたのは、アバリチア・クック。

私の義妹だ。

いつもみたいに、私を馬鹿にしたように見ている。

「アバリチア……どうして、あなたが……」

「どうしてって、當然のことですわ。あたくしには、“聖の力”があるのですから。そのような人は、このサンルーナ王國でも他にいないでしょう」

いつの日か、アバリチアは“聖の力”が使えるようになった。

ケガを治したり、病気を治したり……聖様として崇められている。

今や彼は、クック男爵家の誇りだった。

「僕みたいな魔法の天才には、アバリチアみたいなじゃないと釣り合わないのさ。だって、そうだろう? 君は料理はできても、魔法はてんでダメじゃないか」

「そ、それはそうですが……」

シャロー様は、最近魔法が得意になられた。

どうやら、魔の才があったらしい。

その腕前は、貴族の中でもウワサになっているほどだ。

「僕たちにとって、君は使用人と変わらないんだ」

「そ、それでも私は……みなさんが健康でいられるように、メニューや調理法を考えていました」

「お義姉さまは、お料理くらいしか取り柄がないでしょう? それを得意げに話されても困りますわ」

「料理なんてね、誰でもできるんだよ」

馬鹿にしたような二人を見て、私は泣きそうになった。

昔から、シャロー様はよくクック家に來ている。

だから、私はシャロー様にもお食事を出していた。

私に會いに來てくれていたんだと思って、とても喜んでいたっけ。

でも、違った。

全部……アバリチアに會うためだったんだ。

「アバリチア、君は今日もキレイだね」

「ありがとうございます。シャロー様こそ、いつにも増して素敵ですわ」

シャロー様とアバリチアは、手をぎゅっと握っている。

それが二人の深い関係を表していた。

私は今にも涙が零れそうになる。

だけど、必死にこらえた。

「……申し訳ありません、シャロー様。今は手が離せないので、お話はまた後で……」

もう、心が壊れそうだ。

これ以上、話を続けられそうにない。

だけど、シャロー様たちはさらに追い打ちをかけてきた。

「君はもう、クック家にはいられないよ? そうだよね、アバリチア」

「ええ、そうでした。お義姉さまは、もうこの家にいられませんから。いつまでも、そこに立っていなくて良いのですよ」

二人はさも當然のような顔をしている。

しかし、混した私の頭では、なにを言っているのかわからなかった。

どうにかして、聲を絞り出す。

「……それは、どういうことですか?」

「お母さまたちと相談して、お義姉様は働きに行かせることにしましたの。もうこの家に、お義姉様の居場所はありませんわ」

「メルフィー、君の代わりなんていくらでもいる。最後くらい、アバリチアのためになるようなことをしてくれたまえ」

そ、そんな……。

代わりなんていくらでもいる、と聞いて悲しくてしょうがなかった。

今にも泣きそうな私を見て、アバリチアは嬉しそうに笑っている。

「働き口は、冷酷公爵のお屋敷ですわ。“心まで氷の魔師”、と悪名高いルーク・メルシレス公爵様のね」

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