「登山でご飯かぁ。どんなレシピにしようかな」

いつものごとく、私はキッチンで考えていた。

登山で料理となると、下準備が必要よね。

ベクトナツ山はそれほど高くないけど、登るのは結構大変だろう。

荷が重くなるから、あまり調理を持ってけないし。

となると、お屋敷で下準備して、山の中でしっかり調理ってじかしらね。

「メルフィーさん」

「あっ、リトル君」

キッチンで考えていると、リトル君がやってきた。

「さっきの話を聞いて思ったんですが、山で料理ってできるんですか？」

「いつも通りにはいかないけど、工夫すれば平気よ。登山でも、おいしいを作りたいなぁ」

「メルフィーさんが作るなら、絶対に味しいに決まっていますよ」

食材を探していると、フジッリがあった。

らせん狀の短いパスタだ。

「そうだ、パスタにしよう。お鍋が一つあればできるし」

「荷もなくていいですね」

私は市場でトマト、玉ねぎ、にんにく、しめじといった野菜を買ってきた。

ついでに、干した牛も。

「野菜って意外に重いですよね。運ぶの大変じゃないですか？」

「大丈夫、乾燥させれば軽くなるわ」

私は野菜を乾燥箱にれていく。

しばらく待つと、パリパリにこまった。

「メルフィーさん、こんなに干からびちゃいましたけど、大丈夫なんですか？」

「野菜は水にれると復活するのよ」

「へぇ、知らなかったです」

野菜は水分が抜けたので、だいぶ軽くなった。

これなら荷にならない。

ということで、下準備が終わり登山の日を迎えた。

「では、そろそろベクトナツ山に行くとするか」

「はい、私も準備はできました」

「ちょっと待て、メルフィー。それはなんだ？」

ルーク様は私の水筒を指さした。

「これは料理用のお水です。山の中には、お水がないかもしれませんから」

私は飲む用と料理用のお水を用意していた。

二人分用意すると、結構な重さになった。

「大丈夫か？　重いだろう」

「ええ、ちょっと重いですけど、大丈夫です。おっとっと」

私はよろけそうになったけど、何とか堪えた。

登山する前からケガをしては大変だ。

「置いていきなさい」

「で、ですが、ルーク様。お水がないと、お料理ができません。それに、も渇いてしまいます」

「そんなもの、魔法で出せばいい」

「すみません、ルーク様。私は魔法が下手で……」

しでも、私に魔法が使えれば良かったのに。

水も出せないんじゃ、ルーク様も幻滅なさるわよね。

「違う。水など私の魔法で、いくらでも出すと言っているのだ」

「しかし、ルーク様にそのようなことをして頂くわけには……」

「いいから、こっちに渡しなさい」

「あっ、ルーク様！」

結局、水筒は全てルーク様に取り上げられてしまった。

でも、がとても軽くなった。

「ルーク様のおかげで、荷が軽くなりました。ありがとうございます」

「他にも重いがあるんじゃないのか？」

「いえ、本當に大丈夫ですから！」

ルーク様は調理や食材まで持とうとしたが、さすがに全力で斷る。

エルダさんたちと、ルフェリンさんが見送ってくれた。

「「行ってらっしゃいませ。お屋敷のことは、私どもにお任せください」」

『気をつけろよ、二人とも。ベクトナツ山にも魔はいるからな』

「そうですね、注意して登ります」

「大丈夫だ。どんなことがあっても、メルフィーのことだけは守る」

『ずいぶん丸くなっちゃって』

「やかましいぞ、ルフェリン」

□□□

しばらく歩くと、ベクトナツ山の麓に著いた。

「今日は晴れているし、天候もよさそうだ。だが、気を抜かないようにな。ルフェリンの言っていたように、魔が出てくるかもしれん」

「は、はい！　気をつけます！」

魔と聞いて、私はドキッとした。

彼らは野生のよりずっと兇暴で、人間も襲うほどだ。

腕力も魔力もない私は、あっという間に食べられてしまうだろう。

「私のそばから離れるな」

「わ、わかりました。ルーク様」

私はルーク様に、ピッタリとくっついた。

これなら大丈夫だ。

ルーク様がいてくれて良かったぁ。

私は安心する。

しかし、し歩くとルーク様は立ち止まってしまった。

「あの、どうしたんですか？」

「メルフィー……そんなにくっつかなくて良いのだが……」

「え、でも、さっき、そばを離れるなと……」

「も、もうちょっと離れなさい」

ルーク様に、ググっと押し戻された。

私たちは適度な距離になる。

そばを離れるな、って言ったのにな……。

そして、なぜかルーク様の頬っぺたが赤かった。

私は急に心配になる。

「ルーク様、熱でもあるんですか？　顔が赤いです。も、もしかして、山の病気に……」

「違う！　そんなわけないだろう！　ええい！　＜アイス・ウィンド＞！」

そう言うと、冷たい風が吹いてきた。

ルーク様は、自分の顔にビュウビュウ風をあてている。

私はまたもや心配になってしまった。

「ルーク様、そんなに冷やすと風邪をひいてしまうのでは……」

「ひかん！」

やがて、登っているうちにしずつ疲れてきた。

山登りなんて、ほとんど初めてだ。

足が重くなり、だんだんルーク様に遅れていく。

「メルフィー、疲れていないか？　し休むか？」

「はぁはぁ……いえ、大丈夫です。このまま、登りきりましょう……はぁ」

「いや、し休もう。無理するとケガをしかねない」

「あ、ありがとうございます」

ルーク様は大きな巖の前で立ち止まってくれた。

私は倒れた木に腰かけて、ふぅっと息を吐く。

「登るとが熱くなるな。メルフィー、まずはを冷やしなさい。＜アイス・ウィンド＞」

「す、涼しい……」

ルーク様は私の顔にも、涼しい風を當ててくれた。

はぁ……気持ちいい。

火照ったが、冷やされていく。

「また疲れたら、すぐに言いなさい」

前から思っていたけど、ルーク様は本當はとても優しい人だ。

やがて登っていると、薄黃のバリアみたいな壁が出てきた。

見たこともない魔法陣が浮かび上がっている。

「ルーク様、これが結界ですか？」

「ああ、そうだ。特殊な呪文を言わないと解除できない。ちょっと待ってなさい」

ルーク様が何やら複雑な呪文を唱えると、小さなができた。

人がちょうど一人れるくらいの大きさだ。

「これで大丈夫だ。さぁ、メルフィー、るんだ」

「は、はい」

ルーク様に押される形で、私は結界の中にった。

上を見ると、鳥が何羽か通過している。

「他のは、自由に出りできるんですか？」

「結界と言っても、人間専用だ。マリョク草を餌にしている、野生もいるからな。それにその方が、山の自然にとっても良い」

登っていると、し開けた場所に出た。

そこだけ木が生えておらず、遠くの景まで見れる。

「うわぁ、キレイな景ですね！」

「この辺りは眺めがいいからな。晝食を食べるには、ちょうどいいだろう」

「そうですね。さっそく準備します」

私は調理を手早く取り出す。

ルーク様もお腹を空かせているだろう。

早く作らなきゃ。

「メルフィー、私も手伝う」

「いえ、ルーク様は休んでいてください」

「いいんだ。私にもし手伝わせてくれ」

「ありがとうございます。では……」

お鍋にフジッリと乾燥野菜、干し牛をれる。

「ルーク様、お水をお願いできますか？」

「わかった。≪ドリンク・ウォーター≫」

ルーク様に、お水を鍋にれてもらう。

火にかけると、グツグツと沸騰してきた。

食をそそる、良い匂いがしてくる。

「今回はパスタを用意してくれたのか」

「お鍋があれば、簡単にできますから」

そのうち、乾燥させた野菜も元通りになってきた。

「ルーク様、出來上がりました。“乾燥野菜と干した牛の栄養満點パスタ”です」

「すごい……屋敷で作るのと全然変わらないじゃないか」

ルーク様はとても驚いていた。

パスタはおいしそうにホカホカとしている。

「お腹すきましたね」

「ああ、そうだな。さっそく、いただくとしよう」

ルーク様はパスタを口に運んで……。

『グルル！』　『ガアア！』

そのとき、森の中から魔の群れが現れた。