《【書籍化決定】婚約者が浮気相手と駆け落ちしました。々とありましたが幸せなので、今さら戻りたいと言われても困ります。》19

手早く學園に向かう準備を整えてから、寮の部屋を出る。

張して眠れなかったので、が重い。でも朝の澄んだ空気をいっぱい吸い込むと眠気も遠ざかり、頭も冴えていく。

サルジュほどではないが、アメリアも學園に學する前は魔法の勉強や資料の作などで、つい朝まで熱中してしまうことがあった。

し眠りが淺かったくらい、何ともない。

サルジュと自分はもしかしたら似ているのかもしれない、と思う。

彼もそう思っているからこそ、地方貴族にしか過ぎない自分を気にって、傍に置いてくれるのだ。

ふと視線をじて顔を上げると、隣の人もちょうど部屋を出るところだった。

思わず挨拶をしようとして、口を噤む。

學當時にしだけ仲良くなって、その後避けられるようになったことを思い出したからだ。

(エリカさん、だったわね)

あのときは友人だと思っていたのでショックだった。

でも長年の婚約者に裏切られたことを思えば、出會って間もない彼が保のために自分を切り捨てたとしても仕方がないと思う。

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それでも、もう彼と二度と友人になるつもりはなかった。

裏切りは、繰り返されることが多い。もう一度仲良くなったとしても、何かあったら彼はまたアメリアを捨てるだろう。そんな人と友人になりたいとは思わない。

挨拶もむしろ迷だろうと、視線を逸らしてそのまま歩き出す。

「あ……」

エリカは何か言いたそうな素振りだったが、今さら話すことは何もない。そのまま振り返ることなく歩き続けた。

教室にると、クラスメイト達が一斉にこちらを見た。

いつもよりもし遅くなってしまったので、教室にはほとんどの生徒が揃っていたようだ。アメリアが顔を上げると、誰もが気まずそうに視線を逸らした。

こんな空気の中取り殘されたかもしれないと思うと、昨日、サルジュが連れ出してくれてよかったのかもしれない。

予想していたように、エミーラとあの三人の姿はない。

三人の令嬢は停學らしいが、エミーラはどうなったのだろう。

高位貴族の令嬢とはいえ、ユリウスとサルジュが関わっていたできごとだ。三人と同じように、停學処分になったかもしれない。

でも彼にとっては、停學よりもユリウスとの婚約解消の方が大きなダメージだったに違いない。學園に復帰したとしても、もう以前と同じようには振る舞えない。

それどころか、新しい婚約さえも困難かもしれないのだ。

(でも、自業自得だわ)

冷たいかもしれないが、彼に関してはそうとしか思えない。

自分の行いは、必ず自分に返ってくるのだから。

アメリアは自分の席に座り、靜かに授業の開始を待つ。

周囲からは、困したような聲が聞こえる。

クラスメイト達は、アメリアをどう扱ったらよいか迷っている様子だ。

アメリアとしても、今さら仲良くなりたいとは思っていない。

悪意を向けられなければ、それでいい。

互いに関わらないのが一番だろう。

「アメリア」

そう思っていたとき、ふいに名前を呼ばれた。

聞き覚えのある聲に顔を上げると、教室の口にサルジュが立っていた。

「サルジュ様?」

慌てて立ち上がる。

彼の背後には、ちゃんと護衛騎士のカイドがいた。それを確認して、安堵する。十年前のこととはいえ、あんな話を聞いてしまえば、學園とはいえ彼がひとりだと心配になってしまう。

「今朝は、見送れなくてすまなかった」

「い、いえ。そんなことは」

慌てて首を振る。

「兄達も義姉も、アメリアを気にったようだ。いつでも遊びに來てほしいと言っていた」

サルジュはそう言うと、らかな笑みを浮かべた。

周囲から視線をじる。

これでアメリアが王城に行っただけではなく、王太子殿下を始めとした王族の方々と対面し、しかも王城に泊まったことがクラス中に知れ渡ってしまった。

(どうしよう……)

しだけ困したが、別に困ることではないとすぐに思い直す。

アメリアには、事を問い詰めるような友人はひとりもいないのだから。

「サルジュ殿下。そろそろ授業が始まりますよ」

アメリアに同するような視線を向けながら、彼の護衛騎士がそう囁く。

「わかっている。そうだ、昨日の資料で気になることがあった。あとで聞きに來ても良いだろうか?」

「はい、もちろんです」

サルジュとなるべく一緒にいなければという使命を覚えて、アメリアは頷いた。そうすればユリウス達も安心するに違いない。

彼が護衛騎士と立ち去ったあと、すぐに教師がってきて授業が始まった。

黒板を見ると、つい昨日の映像を思い出してしまう。

ユリウスの魔法は、アメリアに向けられた悪意を、嘲笑うエミーラの聲も完璧に再現していた。

たとえ彼の罪が暴かれて償いを求められても、傷ついた心は簡単に回復しないようだ。

アメリアは余計なことは考えないようにして、授業に集中した。

午前の授業が終わった直後。

食堂に行こうかし迷っていると、また名前を呼ぶ聲がした。

「アメリア、しいいかな?」

視線を上げると、今度はユリウスが口から顔を覗かせていた。もちろん、背後にはふたりの護衛がいる。

「はい」

クラスメイトの視線をけながら、アメリアは立ち上がる。

さすがに一日のうちふたりの王子に呼び出されたら、何かあったのかと思うに違いない。

それでもしつこく尋ねる人はいないのは、楽かもしれない。

アメリアはユリウスの後について歩きながら、そんなことを考えていた。

だが、ユリウスに連れられて訪れた場所が、王族専用の食堂だったことにはさすがに驚く。

「さあ、中にって」

「い、いえ。あの、ここは……」

王族の婚約者でもれないほど厳重に守られた場所である。

たしかにふたりは友人だと言ってくれたが、それでも立ちることは許されないだろう。

し、困っていてね」

怖気づくアメリアに、ユリウスはそう言って深い溜息をついた。

「サルジュがほとんど晝食にこない。この時間は図書館にいるようだ。それだけならまだしも、昨日のように朝食に來ないことも多くてね……」

「それは……」

アメリアもさすがに心配になる。

研究熱心なのはよいことだが、そんなことを続けていてはを壊してしまうかもしれない。

「君もいると言えば、サルジュは必ず來る。何せアメリアは、サルジュがずっとしがっていた、現地のデータそのものだからね」

ユリウスに促され、國王陛下の許可も下りていると言われてしまえば、拒み続けることはできなかった。

教室くらいある広い部屋には調理場もあり、専用の料理人と給仕のための侍がいた。

ユリウスだけではなく、護衛達も一緒にここで食事をするようだ。それにしだけ安堵して、促されるまま椅子に座る。

するとユリウスが言っていたように、サルジュが護衛騎士のカイドとともに現れた。

「アメリア」

自分の姿を見て嬉しそうに笑うサルジュの姿に、じわりとが溫かくなる。

こんな自分でも、必要としてくれる人がいる。

それはリースの裏切りやクラスメイトの仕打ちで傷ついたアメリアの心を、優しく癒してくれた。

こんなにまれているのならば、友人として傍にいても許されるのであれば、できる限りサルジュを支えたい。

提供された食事は、とてもおいしかった。

和やかな雰囲気で晝食を終え、これからもここに來てほしいとユリウスとカイドに懇願されて、思わず頷く。

カイドはサルジュの護衛騎士なので傍を離れることができず、ほとんど晝を食べられなかったようだ。を使う騎士としては、かなりつらかったに違いない。だからいつもアメリアがしてもらっていたように、同の眼差しを送っておいた。

放課後、聞きたいことがあるというサルジュと図書室で待ち合わせをすることにして、アメリアは教室に戻った。

し長くなったので分割して投稿します。

殘りは18:00に。

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