《聖が來るから君をすることはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?【書籍化&コミカライズ決定】》第1話 『君をすることはない』……まあ、そうなるわよね?

*短編 https://ncode.syosetu.com/n0353ho/

「聖が來るから君をすることはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、夫と聖の様子がおかしいのですが」の連載版となります。

「エデリーン。君には謝している。だが、私が君をすることはない」

結婚前日の夜。私は婚約者であるユーリ・マキウス陛下の執務室に呼び出された。

彼はつい先日國王に即位したばかりの見目麗しい新王。整った悍な顔立ちには王家特有の黒髪と、王家では珍しい蒼の瞳が輝いている。

だというのに、その表は暗い。

……まあ、理由は薄々わかっているというか、アレ以外に考えられないんだけど。

「それは、聖さまが來るからでしょうか?」

私が一応聞くと、彼はゆっくりとうなずいた。

「そうだ。私は聖(・)さ(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)い(・)け(・)な(・)い(・)んだ」

……って、そんな厳しい顔で言うことじゃない気がするのだけど、そこはれないでおこう。彼の気持ちもわかるから。

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「わかりました。私も、さすがに聖さまをないがしろにしてまでしてもらえるなどと期待しておりません。そもそもこの結婚自が、おかしいのですから」

言いながら私はため息をついた。

この國では代々、異世界から聖を召喚してきた。

何でも、建國史に出てくる“神ベゼの娘”――通稱、聖――だけが使える特別な魔法がこの國を守るらしいのだが、聖はなぜか異世界にしか生まれてこない。

そのため王が代わる度に異世界から聖を召喚し、力ある貴族の家の養として迎え、王妃として嫁がせる。それが慣習で、今回もそうなるはずだった。

なのに。

私――エデリーン・ホーリー侯爵令嬢――の父が、突然「エデリーンを王妃にする!」と言い出したのだ。

ユーリ陛下は元々第七王子。かろうじて王位継承爭いには參加できたものの、生母の分が低く立場が弱かった。そこへ、後ろ盾となって王まで押し上げる代わりに、私を正妃に迎えろと持ち掛けたのが父だ。

最初聞いた時は「そんな無茶な」と思ったのだが、これがまさかの大功。

そういえばお父さま、政治と商業に関する手腕はどちらも天才的だったのを忘れていたわ……。

けれど、それって私にとっても陛下にとっても、そして將來やってくる聖にとっても不幸なことなのよね。

なぜなら、異世界からやってくるが力を発揮するためには、確固たる條件がある。

それは――聖は絶対にされなければいけない、ということ。

神の娘として選ばれる聖は、を糧に力を発揮するのだ。

幸い、召喚される聖というのは皆例外なく若くてかわいくて、ついでにこの國では特別な証である黒髪で格もすごくいいから、歴代國王たちはすぐに虜になったみたい。

國王と王妃(聖のことね)が相思相になることで國の守りはどんどん強くなり、みんながめでたしめでたし――っていう流れなのだけど、考えてみて。

そこに私が王妃として挾まっていたら、お邪魔蟲以外の何でもないわ。

父に問い詰めたら「仕方ないだろう。占い屋のばあさまがそう言ってたんだから」の一言で會話が終わって、人生で初めて舌打ちしようかと思ったわ。

私が當時のことを思い出してイライラしていると、陛下が重苦しく口を開く。

「君につらい立場を強いることになって、申し訳なく思っている。私のことを恨んでくれてかまわない。だが、どんなことをしてでも國を守りたいんだ」

その顔は真剣そのもので、私は何も言えなかった。

だって父の後ろ盾を失えばユーリ陛下はすぐに蹴落とされるだろうし、父は父で私を王妃にするのは絶対だと言って聞かない。

それに形はどうあれ、彼の國を思う気持ちは本なのだ。

國王と聖し合えばし合うほど、國の守りは強くなる。逆に言うとにひびがれば、守りにもひびがるということ。

先代國王、つまりユーリ陛下の父王は、最初の數年は聖と仲が良かった。けれど時が経つにつれ、もともと遊び人であったが抑えきれなくなってしまったらしい。

令嬢や侍たちに次々と手を出し、何人もの王子王を産ませてしまう。そのうちの一人がユーリ陛下だ。

當然、聖である前王妃さまは怒り狂い、そして力を失った。そのせいで我が國はもうここ十年ほど、ずっと魔の脅威に脅かされ続けているのだ。

だからご兄弟の中で誰よりも優しく、そして誰よりも真面目なユーリ陛下が思いつめるのも無理はない。彼もまた、母親を魔によって失ってしまったのだから。

「気にしないでくださいませ。先ほども言った通り、私は百も承知です。その代わり、私は私で好きにさせていただきますわね」

「もちろんだ。生活面で君に不自由はさせないと約束しよう」

それで私たちの話はまとまった。

ま、元々上位貴族たるもののある結婚など期待していない。むしろ公務やらなんやら、めんどくさそうな役割をこなさなくてもよさそうで気が楽だ。全部聖がやればいいのだから。

私には魔力もなければ特別な力もない。役立たずなお飾り王妃として、一人趣味に沒頭――じゃなくて、から応援させてもらうわ。

……って思っていたのに、一何がどうなっているの?

召喚のためにしつらえられた部屋の中。

困り果てた顔のユーリ陛下と、同じく困り果てた顔の大臣やら神たちやらに囲まれて、私は目の前で泣く、どう見ても五(・)歳(・)く(・)ら(・)い(・)の(・)(・)の(・)子(・)を見下ろしていた。

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