《聖が來るから君をすることはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?【書籍化&コミカライズ決定】》第7話 私、思うの。みんなされるために生まれてくるんじゃないのかなって

それから私たちは、文字通り“楽しいこと”をたっくさんした。

アイは甘いものが好きだから、ある日は山盛りのケーキをみんなで食べたの。――ユーリ陛下は早々に焼けして離したわ。

またある日には乗馬もしたのよ。アイはも好きみたいで、大きな犬はもちろん、馬にも目を輝かせていたから。

ユーリ陛下は乗馬が得意だから抱っこしてもらったのだけれど、小さい子供と一緒に乗るのは初めてだったらしく、おたおたしていたわ。その顔がおかしくって、思わずふきだしちゃったの。

それから、ふたりで一緒にユーリ陛下の似顔絵も書いたのよ。ユーリ陛下はなんと言って褒めていいかわからなかったみたいで、「……五歳の私よりは絵が上手だ」なーんて言って、また私にどつかれていたわね。

「ふふっ今日も楽しかったわね。おいで、アイ。もう寢ましょうか」

夜。寢巻に著替えた私は、広いベッドに座ってアイを手招きした。本當はアイには聖用の部屋があるのだけど、私はずっと彼と一緒に寢ている。

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の部屋ってすごく広いんだけど、その広さが怖いみたいなの。

私が呼ぶと、すぐにアイが駆け寄ってきた。ふたりでベッドにもぐりこむと、アイがもぞもぞとを寄せてくる。

そのままぎゅっと抱きしめてあげると、アイは嬉しそうに笑った。

「……ねえ。アイは、無理してない?」

その頭をでながら、私はささやくようにして聞いた。

アイは來てからずっと、本當にい(・)い(・)子(・)だった。わがままを言うこともなく、私が言ったことは何でもよく聞く。――でも、それは大人から見た“いい子”なだけ。

「アイ。もし嫌だったら、嫌って言っていいのよ? 怒っていいのよ? 無理して笑う必要なんかないわ。……あなたがどんなにわがままな子でも、私はあなたを嫌ったりしないんだから」

私の妹たちは、それはもうすさまじかったけど、それは『わがままを言っても家族が離れていかないから』ってわかっているからこそなのよね。

……まあ妹たち並にわがままになったら困っちゃうけれど、アイは我慢してきた分、それくらいがちょうどいいのかもしれない。

私の言葉に、アイがふるふると首を振った。それからぎゅっと抱きついてくる。

……そうよね。そんなすぐには出せないわよね。でもね、アイ。いつかあなたに信じてもらえる日を、ゆっくり待つわ。

私はトントンとアイの背中を叩いた。

昔、よく妹たちをこうして寢かしつけていたわね。思い出しながらトントンしていると、安心した顔のアイの目がとろんととろける。それからすぐに、アイはすぅすぅと穏やかな寢息をたて始めた。

しっとりとしめった空気に、上下する小さな。枕に押し付けられてむにゅっとつぶれたほっぺに、長いまつげ。ふふっ。寢ている子供の顔って、本當なんでこんなにかわいいのかしら……。

私はまた微笑んで、まあるい小さな頭にそっとキスを落とした。

「最初は無責任な神たちにぶち切れそうでしたけれど、結果的によかったのかもしれませんわね」

數ヶ月経ち、すっかり回復してよく笑うようになったアイを見ながら私は言った。

手や足にあった痛々しいあざが消え失せたからか、アイは最近、膝丈ぐらいの短いスカートを好むようになった。ユーリ陛下は「そんな短いスカートをはいて……!」とハラハラしていたけれど、私はとてもかわいいと思うわ。

「そうだな。どんな理由であれ、子供を毆る親の元になんていさせられない。……親が目の前にいたら、即座に斬り捨てていたところだ」

ギラッと陛下の目がる。ユーリ陛下はもともと騎士団ですさまじい活躍をしていたのもあって、今や「軍神王」なんてあだ名がつくぐらい。だから眼の鋭さも半端ないわね。

……とは言え、陛下の言葉には私も同意よ。

「私なら魔の群れに放り投げてやりますわ。ぎったんぎったんにしてさしあげなければ」

そこまで鼻息荒く語ってから、私ははたと気付いた。橫では、困った顔のアイがしっかりとそれを聞いていたのだ。

「ごめんなさい! あなたのご両親を悪く言ってしまったわ……」

「すまない! アイを前に言う言葉ではなかった」

そろっておろおろする私と陛下を見て、アイはにこりと笑って首を振った。

それから小さなが私のに飛び込んでくる。あたたかいに、私はしだけ泣きそうになった。

私はアイに、ゆっくり語りかける。

「……アイ、これだけは覚えておいて。実の親であっても、あなたを叩く人は悪い人よ。あなたはされるために生まれた子ども。ううん、あなただけじゃない。全ての子どもたちは、みんなされるために生まれたの。だから自分が悪かったなんて思わないで。あなたはずっと素敵な子よ」

ぎゅっとしがみついてくるアイの頭を、私は優しくでた。

――この子が聖だからとか、そんなのは関係ない。ただ私がアイを幸せにしてあげたい。その一心だった。

そうしているうちに、マキウス王國で小さな変化が起こり始めていた。あちこちで観測されていた魔が、しずつ姿を消し始めたのだ。

それを教えてくれたのは、目を輝かせたユーリ陛下だった。

「アイ、これはきっと君のおかげだ! 君の聖としての力が、國を守ってくれているんだ」

聞かれて、アイはまた困ったように首をかしげる。相変わらず無意識らしい。

「まあ、では陛下のがアイに屆いたってことですのね。聖されればされるほど、力を発揮すると言ってましたし」

よかったわね、と頭をでれば、よくわからないながらもアイは嬉しそうに笑った。それを見た陛下が小聲で言う。

「……いや、どちらかと言うと、君のが屆いたのだと思うが」

「私の?」

今度は私が首をかしげる番だった。

「聖されればされるほどその力を発揮する。だがそれは男に限られたことではないんだ。君がアイを想う力が、何より彼の支えになっているんだと思う」

「まあ、そうなんですの?」

目を丸くしてアイを見れば、彼も目を丸くしている。

私がアイをすることで彼の力になっているのなら……なんてすばらしいことなのでしょう。

それから私は、思い切ってずっと考えていたことを口に出した。

「ねえアイ……。あなた、よかったら本當に私たちの子にならない? 私と、ユーリ陛下の子に」

その言葉に、アイと陛下が同時に目を丸くする。

「ずっと考えてたの。私と陛下は仮初めの夫婦だけれど……だからこそ、あなたを守ってあげられると思う。それに……」

私はそこで一度言葉を切った。

「……萬が一あなたが將來陛下と結婚したいというのなら、公爵家に迎えてもらえれば私がを引くし……」

「いや、ない! 彼と結婚は絶対にない! アイは子供だぞ!」

あわてたように首を振る陛下の橫で、アイもぶるぶると首を振っている。揃えたようなきはまるで親子だ。私はプッと噴き出した。

「そうね、ここでアイを娶《めと》りたいなんて言ったら、陛下を軽蔑するところだったわ」

「君は私を一何だと思っているんだ……」

額を押さえる陛下を見て、私とアイは笑った。

――そんな時だった。ピクン、とアイのが震えたのは。

これは、アイが魔を探知したに見せる反応だ。私はすぐに彼の様子を見ようとしゃがみこむ。

そこへ、廊下からバタバタと音がしたかと思うと、騎士たちが慌てた様子で部屋に飛び込んできた。

「陛下! 大変です! 召喚の間に突如謎の召喚紋が現れました! 禍々しい気配、もしかしたら上位の魔かもしれません!」

「なんだと? すぐ行く! 騎士を集めよ!」

腰に剣を攜え、陛下が飛び出していく。

王宮の中に魔だなんて、そんな……!

サクラ前王妃陛下の力が弱まっているとは言え、ここにはアイがいるのに……!

転しそうになるのを押さえ、ぎゅっと手を握る。……あわてている場合ではないわ。アイを安全なところに避難させなければ……!

だがアイは、何かをじ取ったかのようにピンと背筋をばしたかと思うと、陛下の後を追って走り出した。

「アイ! 待って! そっちは危ないわ!」

私は追いかけた。

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