《聖が來るから君をすることはないと言われたのでお飾り王妃に徹していたら、聖が5歳?なぜか陛下の態度も変わってません?【書籍化&コミカライズ決定】》第11話 そんなことはないと言いたい人生だったわ

「……そろそろ……ずっと延期していた聖式典をやろうと思うのだが……」

さんさんと日が差し込む部屋の中。

どうやっているのか、ユーリさまがどんより、どんよりという効果音を発しながら力なく言った。

……この間アイに“パパ呼び”を拒否されてから、ずっとこんなじなのよね。

本當に一、何でユーリさまを呼ぶのが嫌なのかしら……。とは言えアイに強要するわけにもいかないし、その辺りは時期を見てこっそり聞くしかない。今は呼んでもらえる日までがんばれユーリさま! それしか言えないわ!

「聖式典、やらないとだめですわよねえ……」

「ええ、そろそろ信徒たちも限界でして……」

隣で汗をふきふきしながら言っているのは大神だ。アイを召喚したときにもいた人ね。苗字は確かホートリーだったかしら?

つるんとした頭に、下がり気味の眉、口の上にちょこんとのったおひげ。全的に小さくこじんまりとしたシルエットは、歴代大神たちの厳めしさからはずいぶん離れている。……どちらかというと、人のよさそうなおじさんってじ。

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そんな私たちの後ろでは、アイがたくさんの侍たちに囲まれて何やらお絵かきをしていた。

「おじょうずですわ!」

「きれいなまるですわ!」

使いがパワフルですわ!」

初めは張していたアイも、侍たちにちやっほやされて、今はまんざらでもなさそうに絵を披している。

その様子を微笑ましく眺めながら、私はユーリさまの方を向いた。彼は相変わらず、どよどよと謎の効果音を発している。……本當にどこから音が出ているの? それ。

きのこが生えてきそうな気配に、私は我慢できなくなってどついた。

「もうっ。しゃんとしてくださいませ! あんまり暗い顔をしていると、またアイに怖がられますわよ?」

この言葉は効果てきめんだったらしい。たちまちユーリさまの背筋がピシっとびた。

満足げにうなずくと、ホートリー大神が汗をふきながら言う。

「本來なら、聖召喚から一か月後に披式典を執り行うのが慣例……。聖さまの健康狀態を理由に延期してきたのですが、信徒たちのみならず、神殿でも不満が噴出しておりまして……」

「まあ、そうよね……」

忘れていたけれど、聖神の娘。つまり神を信仰する神殿にとっては、何より大事な存在。私ががっちりと囲い込んでしまったけれど、彼らにこそ聖は必要なのよね……。

そこへ、ユーリさまも口を開く。

「民からも、聖はどうなっているんだという聲も多い。この辺りで一度アイの姿を見せ、彼らを安心させてやらなくては」

その言葉に、私はしぶしぶながらもうなずいた。

ここで無理を言って、式典をばしてもらうこともできる。けれど將來的なことを考えると得策ではないのよね。出し惜しみすることで「なぜ姿ひとつ見せることができないのだ?」と反や不信を買う恐れがあるんだもの。……この辺りは、妃教育で履修済みよ!

よし。こうなったらアイをパッと出して、パッとひっこめちゃいましょう! 幸いにも私は王妃兼、聖補佐役。アイの負擔をどれだけ減らせるか、私の腕にかかっているわ。

私がひとり使命に燃えていると、ホートリー大神がおそるおそる尋ねた。

「あのう……こんなことを言うのもなんですが、聖さまは、その、まだいでしょう? 國民たちが、かえって不安をじたりは……?」

その言葉に、ユーリさまの目がぎろりと輝く。ホートリー大神が「ヒッ」とんで慌てて手を振った。

「けけけけけ、決して、聖さまをけなしているわけでは……!」

「……わかっている」

ユーリさまはため息をついた。

……大神の言うことも一理ある。アイは私にとっては“かわいい娘”だけれど、民たちにとっては“國を守ってくれる聖”なのよ。

それが五歳の子供だとわかったら……「そんな小さい子で大丈夫?」って思うかもしれないわね。ううん、そういう意見は間違いなく出てくるはずよ。

「何も考えていなかったわけではない。……ただ苦の策にはなる」

「……と言いますと?」

大神の問いかけに、ユーリさまは目を細めた。

「聖くて不安だと言うのなら、も(・)う(・)ひ(・)と(・)り(・)聖を連れてくればいいのだ」

「もうひとり……って、まさか、サクラ陛下のこと?」

私は聞いた。

一瞬、新しい聖を召喚するのかと思って焦ったけれど、よく考えたらそれは不可能だ。聖の召喚は厳しい制約があって、王が代替わりした時しか行えないと習ったことがある。

そうなると、この國の聖と言えばアイとサクラ太后しかいない。

私の問いにユーリさまがうなずいた。

「今は力を失っているとはいえ、サクラ陛下は立派な聖として活躍してきた。これから力が戻ってくる可能もある。今は彼にアイの後ろ盾となってもらって、聖二人制で支えていくことを前面に押し出すしかない」

言いながら、ユーリさまはどこか渋い顔をしている。……でも。

「サクラ陛下が……出てきてくれるでしょうか……」

ホートリー大神がまた汗をふきふきした。

問題はそこなのよね……。

「出てきてくれるかどうかではない。なんとしてでも引っ張り出さないといけないんだ」

ユーリさまの顔がギッと険しくなる。また大神が「ヒッ」とびをもらした。

「そのためにもホートリー大神、サクラ陛下に取次を頼めないだろうか」

「わ、わかりました……。がんばってみます」

サクラ陛下はいま、ほとんどの人との接を斷っている。その中でホートリー大神は、陛下と連絡がとれる貴重な人でもあった。

私は小さくため息をつく。

確かに、かつてのサクラ陛下はまごうことなき聖だったわ。まだい頃にしだけお會いしたことがあるのだけれど、これぞ聖! ってぐらいキラキラしてしい人だった。

でも、いまその力は失われ、もう十年以上何もしていない。ある意味お飾りの聖狀態。そんな彼が果たしてどれくらいの支持力を持っているのか、正直言ってわからなかった。ユーリさまも「苦の策」と言っていたから、その辺りは危懼しているのでしょうね。

考えながらちらりと後ろを見て、私は仰天した。

「えっ? 何あれ?」

真ん中に座るアイ、はさっきと同じなのだけど、それを取り囲む侍たちの様子がおかしい。

みんな心底デレデレした顔で、アイの髪やらほっぺやらおててやらをでまわしている。アイはと言えば、ちょっと困った顔でぬいぐるみのようにされるがままになっていた。

「ちょ、ちょっとちょっと、何をしているの!」

私が慌てて侍たちを蹴散らすと、彼たちは頬をポッと染めたまま恥ずかしそうに言う。

「申し訳ありません、アイさまがあまりにかわいらしくて……!」

「みてくださいエデリーンさま! なんと私たちひとりひとりに、似顔絵を書いてくださったんですよ!」

「しかも一生懸命なまえも書いてくれて……」

全員、語尾にハートがついている。

「え、ええ、アイがかわいいのはわかるけれど、それにしたってちょっと異常なかわいがりっぷりじゃなくて……!?」

これはなにか、魔法でも使ってるのかしら? そんなスキルはどこにも見當たらなかったけれど……。

私が首をひねっていると、歩いてきたユーリさまがゆるりと言う。

「何を言っているんだ、エデリーン。君もいつもあんなじだぞ?」

……えっ? うそ?

「私、あんなにデレデレした顔、してました……?」

恐る恐る聞けば、ユーリさまがこくりとうなずいた。ホートリー大神もまわりの侍たちも、なまあたたかい笑みをうかべてゆっくりうなずく。

私は恥ずかしさに顔をおおった。

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