「わあ、すばらしい眺め！　さすが王宮ね」

よく晴れたあくる日、私はアイとともに午後の散策を楽しんでいた。

散策と言っても王宮の庭なのだけれど、それだけでも結構な広さがある。その上、庭師が丹込めて育てた花が辺り一面に咲き誇っていて、眺めは最高よ。

前をたったか走るアイは、既に両手いっぱいの花を抱えている。庭師が、好きなだけ花を持っていっていいと言ってくれたのだ。

とりどりのスイートピーやチューリップたちを抱えたアイは、本當にうれしそうだった。その上、ほかにもっといい花はないか、ぬかりなく黒い瞳をらせている。……ふふっ、ちっちゃなハンターみたいね。

ほほえましく見ながら歩いていると、前を走るアイがふと何かをとらえた。つられて私も見れば……あら、ホートリー大神じゃない。

彼は小さなベンチに座って、いつもの困り顔で汗をふきふきしていた。

「ごきげんよう、ホートリー大神さま。休憩中ですか？」

聲をかけると、大神はあわてて頭を下げた。日に照らされたつるつるの頭がぴかっとる。

「は、はい……ここなら、何かいい案が出てくるかと思いまして……」

「何かお悩みでも？　……って、聞くまでもなく悩みだらけでしたわね」

聖披式典に、サクラ陛下の面會にと、彼が抱える案件は多い。しかもどれも難解なものばかりだ。

「やっぱり、サクラ陛下に面會を渋られているのですか？」

「ええ、はい、実はその通りでして……さっきも追い返されちゃいました」

言いながらますます眉を下げる。ほとほと困り果てているようだった。

「……ママ」

「ん？　どうしたの？」

呼ばれて、私はアイの方を向いた。小さなが駆け寄ってくると同時に、ぎゅっと手を握られる。

『このひと、こまってるの？』

つぶらな黒い瞳が、じっと私を見上げていた。私が微笑む。

「そうなのよ。いろいろお仕事を抱えて大変みたい」

アイの目がぱちぱちとまばたく。

それからしばらく考え込んだかと思うと、アイは花束の中からそうっと一本の花を引き出した。白いカーネーションだ。

そのままタタタッとホートリー大神のそばに駆け寄り、無言で突き出す。……どうやら、大神にあげるという意味みたいね？

私は聞いた。

「いいの？　それ、一番好きって言ってなかった？」

「……おじさん、げんきないもん。いちばんかわいいの、あげる」

そう言って大神にカーネーションを押し付けたかと思うと、駆け寄ってきてサッと私の後ろに隠れた。あげたはいいが、恥ずかしくなってしまったらしい。

ふふ、恥ずかしがり屋さんね……なんて笑っていたら、前に立つホートリー大神が突然んだ。

「……う、うおおおおお！！！」

「きゃっ！？　何！？　あなた、そんな聲出すキャラでしたっけ！？」

思わぬ野太い雄たけびに、私は咄嗟に手を広げてアイをかばった。

だが、そこでなぜかホートリー大神はしくしくと泣き出したのだ。彼の変化についていけず、ぽかんとする私の前で大神がむせび泣く。

「なっなんということ……！　まさか、まさか聖さまに白のカーネーションをいただけるとは……！　ぐふうっ、信徒ホートリー、栄の極みであります……！」

なんて言いながらひざまずき、カーネーションをあがめている。

「……あの、どういうことか説明してもらっても……？」

聞いたはいいものの、大神に説明する余裕はないように見える。私は必死に記憶を探った。

えーとえーと、白いカーネーションって何か意味があったかしら……？

そうしているうちに、あっと聲が出た。

――白いカーネーションは、神ベゼが天界に帰るとき、この國最初の王に手渡した花。「は生きている」「無垢の」という花言葉から、神が人に與えるを現しているのだという。

それを神の娘である聖、つまりアイにもらったということは、ホートリー大神にとって神から花をもらったも同然だったってことかしら！？

「……アイ、あなた、このことを……」

丸いふたつの目が、ぱちくりとまばたいた。

「……知ってるわけないわよね」

ということは、完全な偶然。

一瞬そのことを伝えようかとも思ったのだけど……ホートリー大神は號泣していてそれどころじゃなさそうだ。

「まあ、泣くくらい喜んでくれてるってことで、よかったわね？」

よくわかんないけれど、そういうことにしとこう。

私がアイの頭をでると、アイは照れたようにへへっと笑った。

かと思った次の瞬間、泣き伏せていたホートリー大神がガバッとを起こす。その勢いに私とアイがびくっとした。

「エデリーンさま！　アイさま！　わたくし、けないことにすっかりふぬけておりました！　おふたりをお支えするためにも、なんとしてでもサクラ陛下に取り次がねば！　信徒ホートリー、今こそ立ち上がるときです！！！」

つるつるの頭がピカッと太を反して私は手で覆った。ウッ！　まぶしい！

ホートリー大神は、人が変わったように勢いよく拳を突き上げていた。その瞳には、熱の炎が燃え立っている。いつも下がっている眉ですら、今は吊り上がっていた。

……なんかよくわかんないけれど、やる気が出たってことよね……？

「ぜ、ぜひお願いしますわ……」

私は渇いた笑いを返した。隣ではアイが、私の手をにぎってくすくすと笑っていた。

謎のアナウンス＜　大神ホートリー、覚醒